忘れられない君の香

秋月真鳥

文字の大きさ
11 / 32
アレクシス(受け)視点

11.初夜

しおりを挟む
 ヴォルフラムが一人で部屋を出て行ってしまってから三日、アレクシスとヴォルフラムは気まずい雰囲気になっていた。
 執務を一緒にして、事業も立て直して、共に時間を過ごして少しは打ち解けられたと思ったのに、ヴォルフラムと目が合わないことにアレクシスは気付いてはいたがどうすればいいのか分からなかった。
 ヒートが近付いてきていて熱っぽくなって頭がまとまらない。
 フェロモンを出している自覚はあるが、自分ではどうにもならなくて、アレクシスは朝食もほとんど食べられなかった。いつもならばヴォルフラムがそれに気付いて食べやすいものを進めてくれたり、果物を用意させたり、ドライフルーツを入れたヨーグルトを用意させたりするのだが、ヴォルフラムはアレクシスの様子にも気付いていないようだ。
 食堂を出ようとするヴォルフラムのジャケットの裾を、アレクシスは摘まんで止めた。

「ヴォルフラム様、もう、ヒートが……」
「甘い香りがする。瑞々しい桃のような」

 ヒートが来てしまうと伝えようとした瞬間に、ヴォルフラムの爽やかで好ましい香りのフェロモンを思い切り吸い込んでしまって、アレクシスはその場に座り込んでしまった。体が熱くフェロモンが大量に漏れ出しているのが分かる。
 ヒートが始まったのだ。
 むせかえるような匂いに、ヴォルフラムもそのことに気付いたようでアレクシスに手を貸す。

「ヴォルフラム様、わたしの部屋に寄ってください」
「すぐにでも寝室に連れて行きたい」
「チョーカーの鍵が……」

 アレクシスはチョーカーの鍵を持ち歩いていなかった。ヒートが近いので特にチョーカーをヴォルフラム以外の相手の前で外されるのは避けたかったので、厳重に保管していたのだ。
 チョーカーの鍵を取りに行く余裕くらいはあるだろうと思っていたのだが、起こり始めたヒートでもう足元もおぼつかないので、一人では歩くこともできない。肩を貸してアレクシスを部屋に運んでくれるヴォルフラムに感謝しつつ、アレクシスは部屋の前でヴォルフラムに頼んだ。

「すぐにチョーカーの鍵を取ってきますから、少しだけここで待っていてください」

 ヴォルフラムをアレクシスの部屋の中に入れるわけにはいかない。ヒートが近くなってからアレクシスの収集癖はますますひどくなっていた。ベッドの上にはヴォルフラムの脱いだ後のシャツやジャケットが洗濯室から持って来られて積まれているはずだ。

「歩けないのでは?」
「少しなら平気です」

 心配してくれるヴォルフラムに伝えると、よろめきながら壁に手をついてアレクシスは部屋の中に入った。チョーカーの鍵は机の隠し引き出しに入っている。
 順番通りに他の引き出しを開け閉めしてやっと開く複雑な作りのもので、ヒートで手が震えてしまってなかなかうまく開くことができない。
 アレクシスが手間取っていると、ヴォルフラムがドアをノックしてくる。

「大丈夫か、アレクシス? 倒れていないか?」
「大丈夫です。もう少し……すぐに行きます」

 ようやくなんとか隠し引き出しを開けられたアレクシスだが、指が震えてチョーカーの鍵を取り落としてしまう。チョーカーの鍵を拾おうとしたら、よろけて椅子が倒れて大きな音が出てしまった。

「アレクシス!」

 慌てた様子でアレクシスの部屋に走り込んでくるヴォルフラムに、大丈夫だと伝えようとしたのだが、立ち上がれずにいるアレクシスに、ヴォルフラムは部屋に入って立ち尽くしてしまった。

「あ、アレクシス、あれは……?」
「あれは、ち、違うのです。いえ、違わないのだけれど……。すみません、勝手にあなたのものを借りるようなことをしてしまって」

 ベッドを見たヴォルフラムにアレクシスは顔が熱くなって必死で弁解しようとする。机の下に落ちたチョーカーの鍵を握り締めて立ち上がると、ヴォルフラムに強く腕を引かれた。

「おれたちの初夜だから、できるだけ優しくしたいと思っているのに、アレクシス、あなたはおれを煽るようなことをして」
「あおる?」
「ダメだ。もたない。アレクシス、あなたの寝台を使うことを許してほしい」

 強く腕を引かれてヴォルフラムの衣服の散ったベッドの上に押し倒されたアレクシスは、ヴォルフラムの瞳孔が縦長になっているのに気付く。
 アルファの発情であるラット状態に入ったのだ。
 食らい尽くすように唇が重ねられて、ヴォルフラムの舌がアレクシスの口腔内に入ってくる。息苦しいほどに激しい口付けに、アレクシスの頭の芯が甘く痺れる。
 アレクシスもむせ返るようにフェロモンを出しているが、ヴォルフラムも同じく激しくフェロモンをまき散らしていた。

「んっ……ふっ……」
「アレクシス……アレクシス、愛してる。ずっとこうしたかった」

 シャツのボタンを外してアレクシスの肌を晒していくヴォルフラムに、アレクシスはされるがままになっている。露わになった褐色の肌に、ヴォルフラムが口付けを落としていく。

「ヴォルフラム様、これ」
「いいのか?」
「結婚の条件ですから」

 自分では手が震えてチョーカーの鍵を開けられないと分かっているのでヴォルフラムに小さな鍵を渡すと、ヴォルフラムがエメラルドの飾りをスライドさせてチョーカーの鍵を開けて、ベッドサイドのテーブルに置く。
 ぐしゃぐしゃになったヴォルフラムのシャツやジャケットを背中に敷きながら、アレクシスはヴォルフラムに協力して腰を浮かせてスラックスも下着も脱がされてしまった。
 オメガなので使いようがないはずなのに体格に見合った大きさのある中心が、ヒートの熱で兆しているのを見て、ヴォルフラムの手がアレクシスの中心を緩く握る。先端から雫を零すそこは、ヴォルフラムにこすり上げられると、質量を増して硬くなってくる。

「ヴォルフラム様……そこ、じゃなくて……ひぁっ!?」
「ここか?」

 濡れているのは中心だけではない。オメガなのでアレクシスは後孔もぐっしょりと濡れていた。中心では足りなくて、後孔に触れてほしいと願うのに、ヴォルフラムは後孔ではなくアレクシスの胸に触れてきた。
 胸全体を揉みしだかれると、女性ではないのに快感が沸き上がってきてアレクシスは戸惑ってしまう。力を抜いた胸筋は柔らかいものなのだが、執拗に捏ねられると息が上がってくる。

「ヴォルフラム、さまぁ……あぁっ!」
「様はいらない。ヴォルフラムと呼んでほしい」
「ヴォルフラム! ヴォルフラム!」

 促されるまま熱に浮かされたように名前を繰り返すと、ヴォルフラムがアレクシスの乳首を摘まみ上げた。胸への刺激でつんと尖っていた乳首は、摘ままれるとびりびりと電流が走ったかのように快感が生まれる。

「そんなところ……ひっ! ひぁっ!」
「ここには触れられたことがなかったのか?」
「触れられたこと……? あっ! あぁっ! ないです! ありません!」

 きゅうっとつねるように摘ままれてアレクシスは自分が信じられないくらい高い声を出していることに気付いて顔どころか耳まで熱くなってしまう。

「す、すみません。へ、変な声が……」
「可愛い声だ。誰にも聞かせたくないが」
「ひっ!? やぁっ!」

 くにくにと乳首を捏ねられて、そんなところでも感じてしまう浅ましいオメガの体をアレクシスは恨んだ。
 褐色のアレクシスの肌を、ヴォルフラムが舐め、吸い上げ、軽く歯を立てるたびに、自分でも信じられないような声が出てしまって、アレクシスはひたすらに恥ずかしくて必死に口を押える。

「アレクシス、他の男にもこの声を……。おれにも聞かせてくれ。これからはおれ以外に聞かせないでくれ」

 ヴォルフラムが何を言っているのかもよく分からない。
 ただ与えられる快感が強くて身もだえるアレクシスの口元を覆う手をヴォルフラムが取り払ってしまう。

「ふぁっ! あぁっ! だめぇ!」

 首筋から鎖骨、胸筋、乳首、腹筋、へそ、中心にまで舌を這わされて、アレクシスはもう限界だった。愛液を漏らして濡れる後孔に触れてほしくてたまらない。アレクシスの双丘を伝って愛液が下に敷いているヴォルフラムのジャケットにまで溢れてきていた。

「ヴォルフラム、ほしい! おねがい! ここ、さわって……!」

 ヒートで完全に快感に頭が溶けているアレクシスが自ら足を開いてそこを見せつけるのに、ヴォルフラムは金色の長い髪を掻き上げて舌なめずりをしている。
 美しい相貌が、今は獰猛な獣のようになっていることも、アレクシスを興奮させた。

「アレクシス、なんて美しい。しっとりと汗ばんだ肌が艶々して、おれを誘っているようだ」
「ヴォルフラム……おねがい」
「優しくしたいのに」

 アレクシスの太ももに口付けて、軽く歯を立てながら、ヴォルフラムがアレクシスの後孔に指を差し込んだ。愛液を零し濡れそぼっているそこは、ヴォルフラムの指を締め付けながらも簡単に飲み込んでしまう。

「柔らかいな……確かに初めてではなさそうだな。アレクシス、答えて。あなたを抱いたのはアルファか?」

 何を聞かれているのかよく分からないが、アルファに抱かれたことはなかったのでアレクシスはふるふると首を振った。それを見たヴォルフラムの笑みが深くなる。

「それなら、おれの方がずっと奥までアレクシスを満たせる。他の男など忘れてくれ。これからの人生はおれだけがアレクシス、あなたを抱く男だ」

 ぐちゅぐちゅと後孔を掻き回す指が増えて快感に喘ぐアレクシスは、ヴォルフラムの言っていることをほとんど聞けていなかった。ただ後孔を埋めるものが欲しくてたまらない。指くらいでは全然足りない。

「ヴォルフラム、あなただけ……」
「そう、おれだけだ、アレクシス」

 言われた通りに繰り返すと、満足したようにヴォルフラムがアレクシスの体を返した。うつぶせになり、尻を突き出すような格好になって、アレクシスは恥よりも期待の方が勝ってしまう。
 ヴォルフラムがスラックスの前を寛げて、中心を取り出した。完全に勃ち上がっているそこはアルファらしく長大で、ヴォルフラムより体格のいいアレクシスの中心よりも太く逞しかった。
 振り返ってそれを確認して、アレクシスは唾を飲み込んで乾いた喉を潤す。
 切っ先がアレクシスの後孔に宛がわれる。

「アレクシス、愛している」

 張り型などとは比べ物にならないくらいの質量が押し入ってきて、アレクシスは喉を反らせて歓喜の悲鳴を上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。 オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

僕がそばにいる理由

腐男子ミルク
BL
佐藤裕貴はΩとして生まれた21歳の男性。αの夫と結婚し、表向きは穏やかな夫婦生活を送っているが、その実態は不完全なものだった。夫は裕貴を愛していると口にしながらも、家事や家庭の負担はすべて裕貴に押し付け、自分は何もしない。それでいて、裕貴が他の誰かと関わることには異常なほど敏感で束縛が激しい。性的な関係もないまま、裕貴は愛情とは何か、本当に満たされるとはどういうことかを見失いつつあった。 そんな中、裕貴の職場に新人看護師・宮野歩夢が配属される。歩夢は裕貴がΩであることを本能的に察しながらも、その事実を意に介さず、ただ一人の人間として接してくれるαだった。歩夢の純粋な優しさと、裕貴をありのまま受け入れる態度に触れた裕貴は、心の奥底にしまい込んでいた孤独と向き合わざるを得なくなる。歩夢と過ごす時間を重ねるうちに、彼の存在が裕貴にとって特別なものとなっていくのを感じていた。 しかし、裕貴は既婚者であり、夫との関係や社会的な立場に縛られている。愛情、義務、そしてΩとしての本能――複雑に絡み合う感情の中で、裕貴は自分にとって「真実の幸せ」とは何なのか、そしてその幸せを追い求める覚悟があるのかを問い始める。 束縛の中で見失っていた自分を取り戻し、裕貴が選び取る未来とは――。 愛と本能、自由と束縛が交錯するオメガバースの物語。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

孤独の王と後宮の青葉

秋月真鳥
BL
 塔に閉じ込められた居場所のない妾腹の王子は、15歳になってもバース性が判明していなかった。美少女のような彼を、父親はオメガと決め付けて遠い異国の後宮に入れる。  異国の王は孤独だった。誰もが彼をアルファと信じているのに、本当はオメガでそのことを明かすことができない。  筋骨隆々としたアルファらしい孤独なオメガの王と、美少女のようなオメガらしいアルファの王子は、互いの孤独を埋め合い、愛し合う。 ※ムーンライトノベルズ様にも投稿しています。 ※完結まで予約投稿しています。

処理中です...