46 / 51
番外編 暗黙の了解
しおりを挟む
凛太郎と天音の関係は、周りから見れば不思議なものだった。以前、天音は、この関係に名前をつけるなら姉弟だと言っていた。
一方、凛太郎は、それについて肯定をするつもりはなかった。
天音と凛太郎が中学生になり、同じクラスで過ごし始めて数ヶ月が経った頃だった。2人にもそれなりに話をする友人ができた。凛太郎は、あまり他人とはしゃいで話をするタイプではなかったが、来るもの拒まずといったスタンスで過ごしていた。休み時間になると天音が凛太郎の席まで来ることが多かった。そして、そういった行動を周りからみるとどう感じるのかも凛太郎は、薄々気付いていた。
「水瀬と付き合ってるの?」
そう凛太郎に聞いたのは、クラスメイトの一人である、嶋だった。2人は、次の体育の授業のために、体育館へ移動している最中だった。
凛太郎は、答えるのに少し迷った。付き合う、所謂〝恋人〟であるかと言われれば、それはノーだった。けれども、ただの友人と呼ぶのもしっくりとこない。よく聞く言葉で言うならば、〝友達以上恋人未満〟である。こんな都合の良い言葉を言い出したのは誰であろうか、ぼんやりと考えながらも、今はこの言葉に感謝する。ただし、この言葉を口にすることはない。
「周りにはどう見えるんだろうな?」
そう言うと、聞いた本人は、呆れ顔になる。
「質問で返すなよ。水瀬さんは姉弟みたいって、言ってたぞ。実際はーーー」
「天音さんに聞いてんじゃん。」
はは、っと笑うと、嶋は、ムッとした顔になる。
「絶対嘘だよな。付き合ってんだろ。」
凛太郎の言葉に掴みどころがなく、焦ったくなったのか、口調を強める。
「どうでもいいだろ。他のやつのことなんか。天音さんが気になるなら、想いを伝えればいい。そこで、もし僕の名前が出たら、ごめんね。」
凛太郎は、自然な口調でありながらも、相手を挑発するような言葉を選ぶ。小学生からの悪い癖だった。最初こそ相手も冷静に話しかけていたが、凛太郎の言葉に我慢の限界がきたようだった。
「馬鹿にすんなっ。」
そう言い立ち止まった相手は、凛太郎に拳を振りかざしたが、凛太郎は、さらりと身をかわす。
「喧嘩するなって言われてんだ。僕は別にいいけど、多分天音さんが怒られるんだよね。僕の見張り役だから。天音さんに迷惑料も含めて、2人分。それでも、いいなら喧嘩買うけど。」
チッ、そう言い嶋は体育館の中へと駆けていく。
「ねぇ、嶋君、凛ちゃん知らない?まだ来ないんだけど。」
そう無垢で大きな声で問いかけているのは、紛れもなく天音だった。きっと彼は、困っている表情だろうと凛太郎は苦笑いになる。今そこでちょっと口喧嘩したなんて言えはしないだろう。
「もう来るよ。」
嶋の言葉は、平然を装っているように感じた。
「わかった。ありがと。」
そう言って入れ違いで、天音が体育館から出てくる。
「あー!凛ちゃん、遅いよ。もうチャイム鳴っちゃう。」
まだ鳴ってないだろ、とボソりと言う凛太郎に、天音は、ため息をつく。
「5分前行動。電車に乗る時は、もっと早く行くじゃん。」
「そうだな。なぁ、天音さん、この関係に名前をつけるなら、何だと思う?」
唐突に凛太郎がそんな質問をすると、天音も何かを察したようだった。彼女もまた誰かに聞かれたようだった。
「今はまだないんじゃないかな。だってさーーー」
外国では、曖昧から始まるんでしょ?そう小声で言う天音は、すぐに凛太郎に背を向けてしまう。凛太郎は、その小声で呟いた言葉を理解するのに少し時間がかかった。
外国では、恋人同士になるのに、告白することがあまりないのだと聞いたことがあった。天音もきっとそのことを誰かに聞いたのだ。だからこそ、曖昧という言葉が出たのだ。それはつまり、そう思ったところでチャイムが鳴り始める。
「凛ちゃん、早く。」
そう言い、天音はすぐに整列し始めた輪の中に入っていく。
彼女がいれば、全てが穏やかに変換される。先程の口喧嘩のことなど凛太郎は、すっかり忘れていた。この先、何気ない日常が続けばいいのに、そう思うのだった。
一方、凛太郎は、それについて肯定をするつもりはなかった。
天音と凛太郎が中学生になり、同じクラスで過ごし始めて数ヶ月が経った頃だった。2人にもそれなりに話をする友人ができた。凛太郎は、あまり他人とはしゃいで話をするタイプではなかったが、来るもの拒まずといったスタンスで過ごしていた。休み時間になると天音が凛太郎の席まで来ることが多かった。そして、そういった行動を周りからみるとどう感じるのかも凛太郎は、薄々気付いていた。
「水瀬と付き合ってるの?」
そう凛太郎に聞いたのは、クラスメイトの一人である、嶋だった。2人は、次の体育の授業のために、体育館へ移動している最中だった。
凛太郎は、答えるのに少し迷った。付き合う、所謂〝恋人〟であるかと言われれば、それはノーだった。けれども、ただの友人と呼ぶのもしっくりとこない。よく聞く言葉で言うならば、〝友達以上恋人未満〟である。こんな都合の良い言葉を言い出したのは誰であろうか、ぼんやりと考えながらも、今はこの言葉に感謝する。ただし、この言葉を口にすることはない。
「周りにはどう見えるんだろうな?」
そう言うと、聞いた本人は、呆れ顔になる。
「質問で返すなよ。水瀬さんは姉弟みたいって、言ってたぞ。実際はーーー」
「天音さんに聞いてんじゃん。」
はは、っと笑うと、嶋は、ムッとした顔になる。
「絶対嘘だよな。付き合ってんだろ。」
凛太郎の言葉に掴みどころがなく、焦ったくなったのか、口調を強める。
「どうでもいいだろ。他のやつのことなんか。天音さんが気になるなら、想いを伝えればいい。そこで、もし僕の名前が出たら、ごめんね。」
凛太郎は、自然な口調でありながらも、相手を挑発するような言葉を選ぶ。小学生からの悪い癖だった。最初こそ相手も冷静に話しかけていたが、凛太郎の言葉に我慢の限界がきたようだった。
「馬鹿にすんなっ。」
そう言い立ち止まった相手は、凛太郎に拳を振りかざしたが、凛太郎は、さらりと身をかわす。
「喧嘩するなって言われてんだ。僕は別にいいけど、多分天音さんが怒られるんだよね。僕の見張り役だから。天音さんに迷惑料も含めて、2人分。それでも、いいなら喧嘩買うけど。」
チッ、そう言い嶋は体育館の中へと駆けていく。
「ねぇ、嶋君、凛ちゃん知らない?まだ来ないんだけど。」
そう無垢で大きな声で問いかけているのは、紛れもなく天音だった。きっと彼は、困っている表情だろうと凛太郎は苦笑いになる。今そこでちょっと口喧嘩したなんて言えはしないだろう。
「もう来るよ。」
嶋の言葉は、平然を装っているように感じた。
「わかった。ありがと。」
そう言って入れ違いで、天音が体育館から出てくる。
「あー!凛ちゃん、遅いよ。もうチャイム鳴っちゃう。」
まだ鳴ってないだろ、とボソりと言う凛太郎に、天音は、ため息をつく。
「5分前行動。電車に乗る時は、もっと早く行くじゃん。」
「そうだな。なぁ、天音さん、この関係に名前をつけるなら、何だと思う?」
唐突に凛太郎がそんな質問をすると、天音も何かを察したようだった。彼女もまた誰かに聞かれたようだった。
「今はまだないんじゃないかな。だってさーーー」
外国では、曖昧から始まるんでしょ?そう小声で言う天音は、すぐに凛太郎に背を向けてしまう。凛太郎は、その小声で呟いた言葉を理解するのに少し時間がかかった。
外国では、恋人同士になるのに、告白することがあまりないのだと聞いたことがあった。天音もきっとそのことを誰かに聞いたのだ。だからこそ、曖昧という言葉が出たのだ。それはつまり、そう思ったところでチャイムが鳴り始める。
「凛ちゃん、早く。」
そう言い、天音はすぐに整列し始めた輪の中に入っていく。
彼女がいれば、全てが穏やかに変換される。先程の口喧嘩のことなど凛太郎は、すっかり忘れていた。この先、何気ない日常が続けばいいのに、そう思うのだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
完結*三年も付き合った恋人に、家柄を理由に騙されて捨てられたのに、名家の婚約者のいる御曹司から溺愛されました。
恩田璃星
恋愛
清永凛(きよなが りん)は平日はごく普通のOL、土日のいずれかは交通整理の副業に励む働き者。
副業先の上司である夏目仁希(なつめ にき)から、会う度に嫌味を言われたって気にしたことなどなかった。
なぜなら、凛には付き合って三年になる恋人がいるからだ。
しかし、そろそろプロポーズされるかも?と期待していたある日、彼から一方的に別れを告げられてしまいー!?
それを機に、凛の運命は思いも寄らない方向に引っ張られていく。
果たして凛は、両親のように、愛の溢れる家庭を築けるのか!?
*この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
*不定期更新になることがあります。

ヤクザと私と。~養子じゃなく嫁でした
瀬名。
恋愛
大学1年生の冬。母子家庭の私は、母に逃げられました。
家も取り押さえられ、帰る場所もない。
まず、借金返済をしてないから、私も逃げないとやばい。
…そんな時、借金取りにきた私を買ってくれたのは。
ヤクザの若頭でした。
*この話はフィクションです
現実ではあり得ませんが、物語の過程としてむちゃくちゃしてます
ツッコミたくてイラつく人はお帰りください
またこの話を鵜呑みにする読者がいたとしても私は一切の責任を負いませんのでご了承ください*

女官になるはずだった妃
夜空 筒
恋愛
女官になる。
そう聞いていたはずなのに。
あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。
しかし、皇帝のお迎えもなく
「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」
そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。
秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。
朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。
そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。
皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。
縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。
誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。
更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。
多分…
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる