【完結】アポロンの花【番外編あり】

みさか つみ

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番外編 暗黙の了解

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 凛太郎と天音の関係は、周りから見れば不思議なものだった。以前、天音は、この関係に名前をつけるなら姉弟きょうだいだと言っていた。
 一方、凛太郎は、それについて肯定をするつもりはなかった。



 天音と凛太郎が中学生になり、同じクラスで過ごし始めて数ヶ月が経った頃だった。2人にもそれなりに話をする友人ができた。凛太郎は、あまり他人とはしゃいで話をするタイプではなかったが、来るもの拒まずといったスタンスで過ごしていた。休み時間になると天音が凛太郎の席まで来ることが多かった。そして、そういった行動を周りからみるとどう感じるのかも凛太郎は、薄々気付いていた。

 「水瀬と付き合ってるの?」

 そう凛太郎に聞いたのは、クラスメイトの一人である、嶋だった。2人は、次の体育の授業のために、体育館へ移動している最中だった。
 凛太郎は、答えるのに少し迷った。付き合う、所謂〝恋人〟であるかと言われれば、それはノーだった。けれども、ただの友人と呼ぶのもしっくりとこない。よく聞く言葉で言うならば、〝友達以上恋人未満〟である。こんな都合の良い言葉を言い出したのは誰であろうか、ぼんやりと考えながらも、今はこの言葉に感謝する。ただし、この言葉を口にすることはない。

 「周りにはどう見えるんだろうな?」

 そう言うと、聞いた本人は、呆れ顔になる。

 「質問で返すなよ。水瀬さんは姉弟みたいって、言ってたぞ。実際はーーー」

 「天音さんに聞いてんじゃん。」

 はは、っと笑うと、嶋は、ムッとした顔になる。

 「絶対嘘だよな。付き合ってんだろ。」

 凛太郎の言葉に掴みどころがなく、焦ったくなったのか、口調を強める。

 「どうでもいいだろ。他のやつのことなんか。天音さんが気になるなら、想いを伝えればいい。そこで、もし僕の名前が出たら、ごめんね。」

 凛太郎は、自然な口調でありながらも、相手を挑発するような言葉を選ぶ。小学生からの悪い癖だった。最初こそ相手も冷静に話しかけていたが、凛太郎の言葉に我慢の限界がきたようだった。

 「馬鹿にすんなっ。」

 そう言い立ち止まった相手は、凛太郎に拳を振りかざしたが、凛太郎は、さらりと身をかわす。

 「喧嘩するなって言われてんだ。僕は別にいいけど、多分天音さんが怒られるんだよね。僕の見張り役だから。天音さんに迷惑料も含めて、2人分。それでも、いいなら喧嘩買うけど。」

 チッ、そう言い嶋は体育館の中へと駆けていく。

 「ねぇ、嶋君、凛ちゃん知らない?まだ来ないんだけど。」

 そう無垢で大きな声で問いかけているのは、紛れもなく天音だった。きっと彼は、困っている表情だろうと凛太郎は苦笑いになる。今そこでちょっと口喧嘩したなんて言えはしないだろう。

 「もう来るよ。」

 嶋の言葉は、平然を装っているように感じた。

 「わかった。ありがと。」

 そう言って入れ違いで、天音が体育館から出てくる。

 「あー!凛ちゃん、遅いよ。もうチャイム鳴っちゃう。」

 まだ鳴ってないだろ、とボソりと言う凛太郎に、天音は、ため息をつく。

 「5分前行動。電車に乗る時は、もっと早く行くじゃん。」

 「そうだな。なぁ、天音さん、この関係に名前をつけるなら、何だと思う?」

 唐突に凛太郎がそんな質問をすると、天音も何かを察したようだった。彼女もまた誰かに聞かれたようだった。

 「今はまだないんじゃないかな。だってさーーー」

 外国では、曖昧から始まるんでしょ?そう小声で言う天音は、すぐに凛太郎に背を向けてしまう。凛太郎は、その小声で呟いた言葉を理解するのに少し時間がかかった。
 外国では、恋人同士になるのに、告白することがあまりないのだと聞いたことがあった。天音もきっとそのことを誰かに聞いたのだ。だからこそ、曖昧という言葉が出たのだ。それはつまり、そう思ったところでチャイムが鳴り始める。

 「凛ちゃん、早く。」

 そう言い、天音はすぐに整列し始めた輪の中に入っていく。
 彼女がいれば、全てが穏やかに変換される。先程の口喧嘩のことなど凛太郎は、すっかり忘れていた。この先、何気ない日常が続けばいいのに、そう思うのだった。
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