無口なはずの婚約者

田山 まい

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そこそこの時間説教をされていた私たちはやっとの事で解放され、そのまま授業に戻った。クラスのみんなは忘れ物を取りに行ったはずのエリオットと、朝はいなかった私が一緒に入ってきたのだから、案の定クラスの皆は授業が終わるまでひそひそと噂話に夢中だった。

二限目の授業中、私はグループワークでリリスと同じ班になった。
エリオットは気が気でないようで、授業中に何度もこっそりとこちらを見てきていたが、そのせいで先生にまた注意されていた。そんなエリオットを見て、リリスはやれやれとため息をついていた。

意外と気の置けない仲のようだ。

「ルーナ様、エリオットから話は聞きましたか?」
「ええ、聞きました。今まで勘違いしていてごめんなさい」

私は視線をさまよわせることなく、真っ直ぐとリリスを見据えて謝罪した。
その私の様子に、リリスは思っていたよりも誠意の籠った謝罪にどう返そうか迷っている。

「あたしは……エリオットのことが好きです。もちろん、あたしの母のことも。ですが、母はエリオットに酷いことをしました。エリオットは苦しんでいるのに、誰も助けようとしないし、エリオット自身も助けを求めようともしなかった……それがもどかしくて、あたしは今までエリオットを支えてきました」

リリスはそこまで話して、私の揃えてあった手に自分の手を上から重ねた。

「これからは、あなたにエリオットを支えて欲しいんです」

真剣な眼差しで、リリスは私にそう言った。

私は重ねてあったリリスの手を、下にあった自分の片方の手で優しく包み込んだ。
リリスは一度下を向き、もう一度私の顔を見た。リリスは無理に笑顔を作って笑った。

「一緒に、でしょう?あなたのたった一人の兄なんだから」
「……ええ、そうですね」

リリスは今度こそ笑った。

私も覚悟ができた。将来を誓い合った仲、私は一度それを放棄しようとした。それでもまたチャンスがやってきた。

私はエリオットの方を見た。

彼は友人たちと和気藹々とした雰囲気の中課題を進めている。それを見て私は課題のことを思い出した。
そしてたった今、先生がこちらに向かってきていることにも気が付いた。

「そこのお嬢さん方、今は授業中ですよ」

私は本日二度目のお叱りを受けることとなった。



放課後、私は心配だというリリスと落ち着きのないエリオットを連れて、クライヴの所へ向かった。二年生という情報しか手に入れられなかったけれど、二年生の棟でうろうろしていればそのうち見つかるはず……。

私はクラスまで聞かなかった朝の自分の迂闊さを憎んだが、どこか楽観していた。初めて三人で話す事新鮮さと嬉しさが不安を打ち消しているのだ。

そうは言っても、かなり気まずい。沈黙が続いている。リリスなんか何度も欠伸をしている。

「……ええと、皆さんこれからどうしますか」
沈黙を打ち破ったのは私からだった。

「どう、とは?」
リリスは目尻に拭い損ねた涙を煌めかせ問い返した。

「確かに、埒が明かないな」
エリオットは私の言いたいことを理解して会話をしようとしている。

基本的に、この学園では横に交流はあっても、縦で交わることはない。三人とも二年生の中に知り合いは居ないようで、辟易している。

皆で頭を抱えて知恵を出し合おうとしているその時、丁度私たちに声をかける人が現れた。


「すみません、ルーナ嬢。クラスを伝えるのを忘れていましたね」
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