無口なはずの婚約者

田山 まい

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︎︎
「約束だよ」

そう言って無邪気に笑ってくれたあの日。
貴方に初めて恋をしたあの日。

あの日の面影は――

「…………」

全くない。

無愛想で無表情。返事は「ああ」と「そうか」だけ。まともに会話した記憶は三年前で途切れている。

「……」
今は絶賛テーブル挟みにらめっこ中。

「……昨日、刺繍したんです。少し失敗してしまったのですが、楽しかったですわ」
幼子の日記なのかと言いたくなる程だが、これくらいしか話題がない。

まあそれくらい仲良くないってこと。

昔はそれなりに仲が良かった。小さい頃は結婚が何かなんてわかっていなかったから。

しかし思春期に入ると、彼は途端に黙るようになってしまった。おおよそ、友達の誰かに色々と吹き込まれたのだろう。

単純で、純粋。そういうところが気に入っているのだけど。

私はカップのソーサーごと持ち上げて、紅茶を飲んだ。淹れたてだったこの紅茶も、無言に耐えきれず冷えてしまった。

私は小さくため息をついた。すると、彼はばっと顔を上げてこちらを伺い始めた。

これは帰りたいという意思表示だと思っている。よくされるし。

私は後ろを振り返って連れてきたメイドに目で合図をした。

「そうだ、エリオット様。先日父が投資していたオペラハウスのチケットを父から貰いましたの。私は行く相手がいませんから、あげますわ。」

私がこう言ったのには訳がある。彼は学園で想い人がいるらしい。しかも、平民の。それを彼の口からは聞くことが出来ないけど。

お父様から聞いたけど、ボックス席でオペラを見た男女はみんな仲睦まじくなるらしい。

私が今の彼のこと好きなんてそんなこと絶対にない!それに彼には幸せになって欲しい。

お父様は私とエリオットが仲直りすることを望んでいるみたいだけど。


「そうか…………は?」
エリオットは私の口から出た言葉が信じられないみたいで、口をぽかんと開けている。

「ああ!そんな、遠慮しなくても良いのです。私は父に頼めばいくらでも貰えますもの」
胸の前で両手を組み、顔を慈しむような表情にすれば、私はただの優しい女の子だ。
決して、彼と行くのが面倒だからではない。

さあ、貰って頂戴!

「き、君……だって、僕は、君の婚約者だろ……」
エリオットは顔をくしゃくしゃに歪めた。
言葉の最後の方はかなり小さくなってしまっていたが、彼は確かにそう言った。

「え?なんて仰いましたか?」
しかしここで聞こえたように振る舞えばエリオットと行くことになってしまう。彼には申し訳なくないが、全力で断らせてもらおう。

「……いや、なんでもない」
エリオットは分かりやすく項垂れて、またいつもの無表情に戻った。

――まさか、私と行きたかったの?

私は御免だけど。

エリオットはそそくさと帰る私を見送りもせず、ずっと座っていた。


__
自我出して申し訳ないのですが、まだ書き終えてないので失踪するかもしれません!ごめんなさい!全部書き終わったらこの追記消します。
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