上 下
36 / 36
第一部 身の程知らずなご令嬢 ~第二章 毒花の鉄槌~

36. 各々の企み 1

しおりを挟む
 レオナルドに連れられて、マリエンヌは生徒会室に来ていた。
 二人は客用のソファに腰かける。
 そこで先ほどの出来事を説明する。

「……なので、わたくしに非はございません」
「ああ、確かにそうだな」

 今回の件は、マリエンヌはただ受け答えをしていただけで、責められるいわれはない。だが、レオナルドの反応はあまり芳しくない。

「騒ぎの原因はわかった。だが、あの後何かを企んでいたよな?何をする気だ?」
「大したことではありませんよ?ジェーンさまをどう利用しようかと思案していたに過ぎません。まだ実行には移しませんわ」
「……リネア嬢の足止めか?それとも、敵にするのか?」

 幼少から共に過ごしてきただけはあり、マリエンヌの考えは筒抜けのようだ。

(これはよくないわね……)

 これでは、今後も邪魔されやすくなってしまう。今回は許してくれたが、また許してくれるとは限らない。レオナルドに邪魔されるとかなり動きにくい。何か別の案も考えておくべきかもしれない。

「悩みどころではありますが、悪評を広めるのはよしたほうがいいでしょう。出所が割れることがあれば不利になります」
「そなたがそのような過ちをおかすとはとても思えないが……それなら、私たちのほうから広めても構わんぞ?」
「レオナルドさまからですか……悪くありませんね」

 噂の出所というのは、調べようと思えば調べることはできてしまう。シーラも、三日もあれば調べあげられるだろう。
 地方貴族の男爵令嬢がどこまでできるのかはわからないが、警戒しておくに越したことはない。

「ですが、そうなるとレオナルドさまとリネアさまのよからぬ噂が広まりかねませんね……」

 リネアの評判が悪くなっていくなかで、レオナルドが庇いたてるようなことをしてしまえば、口がさない者たちは面白いように騒ぎ立てることだろう。
 別に自分の悪評が広まる分には構わないが、さすがにレオナルドの悪評は広がってほしくない。単純に、噂でもリネアと恋仲という話を聞きたくないというのもあるが。

「だったら、ジェーン嬢のことを強調するか?」
「そうですわね……」

 それも最善とは言えないような気がした。だからといって、このまま何も手をうたないままでいれば、リネアたちに有利な噂が広まりかねない。
 一番ましなのは……

「リネアさまがすべての責任をジェーンさまに押しつけたという形にしましょう」
「だが、それでは出所が割れれば不利だと言っていなかったか?」
「確かにそうです。ですが、それは相手と言葉を選ばなかった場合ですわ」

 時間はたっぷりある。慎重に事を運べば問題はない。
 ふふと悪巧みの笑みを浮かべるマリエンヌに、レオナルドはふうと小さくため息をつく。

「なら、マリエンヌは女子生徒を優先してくれ。いらぬ諍いを招く必要はない」
「かしこまりました。レオナルドさまには、アレクシスさまのほうも頼みますわ。他の者にはわたくしからお伝えしておきます」
「わかった。私は生徒会の者だけに絞っておくが、マリエンヌはどうする?」
「わたくしは、以前にルクレツィアさまより紹介していただいた方たちがおりますので、そちらだけに留めておきます」

 噂は、積極的に広めすぎてもよくない。あまりにも多くの者に直接広めてしまえば、意図して広めようとしていると思われる可能性がある。それが悪意のあるものだと、マリエンヌが懸念している通りの事態になってしまう。
 どんな小さな可能性でもでき得る限り排除しなければ、貴族社会は生き残れない。
 以前から交流があった人間だけに広めて、後はその人間たちが広めてくれるのを待てばいい。

「では、方針は決まったな」

 そう言うと、レオナルドはソファから立ち上がる。
 そして、マリエンヌのほうに手を差し出してきた。

「……なんですか?」
「帰りも送ろうかと思ったんだが、迷惑だったか?」
「い、いえ。とんでもありません」

 すぐに意図に気づけなかった自分を恥ながらも、マリエンヌはレオナルドの手を取る。

「どうせなら少しばかり大げさに帰るか?」
「あら、それはいいですね。ですが、根をあげても知りませんわよ?」
「そちらこそ、また逃げ出したりするなよ?」

 挑戦的な笑みを浮かべるマリエンヌに、レオナルドも挑発する。
 レオナルドの言葉に、ムッと口を尖らせるが、言い返す言葉が見つからなかったのか、静かに目をそらす。
 その様子を見て、レオナルドは気分が高揚する。普段はマリエンヌに振り回されている分、このように振り回す側に立つのはとても心地いい。

 これでは、マリエンヌを責める資格はまったくもってなくなってしまう。

「当然ではありませんか。では、行きましょう」

 だが、マリエンヌもまんざらではなさそうなので、やめる気はさらさらなかった。

ーーーーーーーーーー

短めですみません。ファンタジーカップの作品を優先するため、今後は少し更新スピードが落ちます。平行して書けるようにするので、気長にお待ちください。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(6件)

ころりんたろう
ネタバレ含む
りーさん
2024.06.03 りーさん

楽しみにしてくださりありがとうございます。確認しておきますね。

解除
たまご
2024.05.12 たまご
ネタバレ含む
りーさん
2024.05.12 りーさん

 マリエンヌは家のためや国のためというよりは、自分が楽しみたいからやっているんですよね。そこが毒花と言われる所以です。さすがに良心はあるので、無実の人に冤罪を着せることはほぼないですが、悪人に対しては膿の排除を建前にして好きに動いています。
 ジェーンに関しては、後々詳しく書くつもりですが、元々平民だったというのもあって、上に対して失礼だというのはわかっていてもそれがどれほどのことなのかはあまりわかってない感じです。
 貴族とも学園に入るまではそこまでは関わっていなかったので、平民としての常識を元に行動している節があります。

 そしてマリエンヌを止める人が多いのは、やっていることを問題視しているというよりは、マリエンヌが欲望のまま突っ走ることを不安視している感じです。
 レオナルドやアレクシスにいたっては、マリエンヌが危険を省みずに敵地に単身で乗り込んだりしたのを知ってますので、なおさらといった感じで。

解除
babochan
2024.05.11 babochan
ネタバレ含む
りーさん
2024.05.11 りーさん

ジェーンのことは、マリエンヌも良い子とは思ってないですよ。まだましかと思っているだけです。
泣き寝入りする気は欠片もないので、このままお楽しみください。

解除
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

愛され転生エルフの救済日記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,307pt お気に入り:101

押して駄目なら推してみろ!~闇落ちバッドエンドを回避せよ~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:255pt お気に入り:3,315

旦那様の溺愛が常軌を逸している件

恋愛 / 完結 24h.ポイント:553pt お気に入り:1,511

猫耳幼女の異世界騎士団暮らし

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,889pt お気に入り:429

【本編完結】偽物の婚約者が本物の婚約者になるまで

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:227pt お気に入り:1,822

【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:4,260pt お気に入り:1,447

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。