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第一部 身の程知らずなご令嬢 ~第一章 毒花は開花する~
30. リネアと対峙
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シェリーナと約束を交わした三日後の週末のこと。
「お嬢さま、少々よろしいでしょうか?」
自室で準備をしていたマリエンヌにシーラが声をかける。
「何かしら?」
「シェリーナさまからお手紙が来ています」
「あら、早かったわね」
マリエンヌは手紙を受け取り、封を切る。内容を読み進めると、レスティードへのプレゼント候補がある程度揃ったので、近いうちに見に来てほしいとのことだった。
「シーラ。帰ったら仕事を頼むことになるわ。準備しておいて」
「は、はい。かしこまりました」
シーラは困惑していたが、マリエンヌは手紙を見てニヤリと笑った。
◇◇◇
約束していた、ルクレツィアとのお茶会。マリエンヌも、今だけはリネアたちのことは忘れて、このなごやかな空間を楽しもうとしていた……のだが。
「そういうことなので、今後はロジェットさまに関しては口出しは無用になりました」
嬉しそうに話すのは、ミルレーヌである。先日、レオナルドからそれとなく話を聞いたのだが、ミルレーヌはライオネルに婚約解消を持ちかけたそうだ。
サロンでのことで公表していないのと、まだロジェット侯爵家が公式には了承していないため、表向きは婚約状態が続いているが、公式のものとなるのは時間の問題だろう。
だけど、サロンを貸しきってのお茶会とはいえ、この場で言うことだろうか。
「よく王家が了承しましたね。ブロランス家との繋がりは断ちたくないと思いましたが……」
ルクレツィアが不思議そうに呟く。
本人たちが個人的にどう思っていようが、家のために行われるのが政略結婚である。
特に、ミルレーヌの婚約は王命だ。個人の感情で簡単に解消できるものではない。
「婚約を解消しても、現在の価格での取引に応じることを、レオナルド殿下を通じて陛下にお伝えしましたので」
マリエンヌは、以前のレオナルドとミルレーヌの会話を思い返す。確かに、ミルレーヌはそのようなことを頼んでいたし、自分も聞いていた。だが、もう国からの返答が届いていたとは思わなかった。
(陛下も、学園での話を耳にしていたのかしら?)
まぁ、ブロランスとロジェットのどちらを取るかと聞かれれば、国としてはブロランスを取るだろうから、よほど無茶な要望でもない限りは国は答えてくれるだろうが。
でも、自分にも話してくれてもよかったのではないか、とマリエンヌは思ってしまう。
「……マリエンヌさま、いかがなさいましたか?」
「わたくしもその場にいたというのに、何も知らなかったので……」
「あら。マリエンヌさまだって、以前にわたくしに内緒でお手紙のやり取りをしていたではありませんか。わたくしも、あまり事を大きくしたくなかったのです」
それを言われると、マリエンヌも何も言えない。自分がやったことを棚にあげることはできない。
後でレオナルドには一言くらい言ってやろうと八つ当たりにも近い考えを持つくらいだ。
「あ、あの。ライオネルさまはどのように思っていらっしゃるのでしょうか?」
おそるおそるたずねるシェリーナに、ミルレーヌは優しく微笑む。
「よく知りませんけど……せいせいしていらっしゃるのではないでしょうか?これで何の憂いもなくリネアさまと交流が持てるわけですもの」
憂いなど欠片もないような笑みを向けるミルレーヌに、改めて自分と同類なのだと再認識するマリエンヌだった。
◇◇◇
お茶会が終わり、マリエンヌは自室へと戻って現状整理をしていた。
ひとまず、ライオネルはほとんど片づいたといっていいだろう。リネアも、だいぶ孤立させることができた。
リネアが高位貴族を誑かしてるのを見て、おこぼれに預かろうとしていた貴族たちは、早々に離れているそうだ。まぁ、そんな理由で近づくような貴族たちは、リネアと運命を共にしようなどとは考えないだろうから当然といえば当然だが。
(そろそろ、次の段階に移ろうかしら?)
今までのは、言わば下準備のようなものだ。リネアの味方が多かったときにぶつかれば、こちらが悪者扱いされて、動きにくかった。マリエンヌの味方も、あくまでも王子の婚約者であり慈悲深いマリエンヌに惹かれてのことだ。
その仮面が早々に剥がれてしまっては、マリエンヌの味方もすぐにいなくなってしまっただろう。
だが、今は違う。リネアを疎ましく思っている令嬢はほぼこちらの味方につけているし、マリエンヌの本性を知りながらも協力してくれる存在ができた。
本格的に動き出しても問題ないだろう。
まずは、ジルヴェヌスのことだ。一応、以前に警告したが、ルクレツィアに向き合うようになってきているのか確認する必要がある。
もしそうなっていないのなら、そちらも対処するが、まだ警告からそんなに時間は経っていないので、もう少しだけ時間を置いてもいいだろう。
(そうなると、リネアさまのほうね)
しばらく接触していなかったし、一度話してみるのもいいかもしれない。これみよがしに恨み言をぶつけてくるか、プライドを投げ捨てて泣きついてくるか。
どちらにしても、マリエンヌにとっては都合がいい。
「シーラ」
「はい、お嬢さま」
すっと背後に立ったシーラに、マリエンヌは命じる。
「レスティードのプレゼントを買おうと思うの。ランタニア子爵家の商会に買い出しに行ってきてちょうだい」
「かしこまりました」
「商会に行ったら、これらを頼んで来てほしいの」
マリエンヌは、デスクに置いてあった紙を手に取り、シーラに渡す。
シーラが紙に書かれた内容を読み終えたのを確認して、マリエンヌは忠告する。
「くれぐれも気づかれないようにね?」
「承知しております」
シーラは力強く頷き、紙を暖炉に放って燃やした。
それを見たマリエンヌは、楽しそうに笑う。これから、さらに楽しくなりそうな予感を感じて。
◇◇◇
翌日、学園へと出向いたマリエンヌの前に立ちはだかる者がいた。
「マリエンヌさま!やっと会えましたね!」
マリエンヌの行方を遮るように立っているのは、リネアであった。
やっとと言っているが、リネアに限っては約束した覚えがまったくない。
「……わたくしに何か?」
「はい。マリエンヌさまとお話ししたいことがあるんです!」
マリエンヌは、チラリと周囲の様子を伺う。ほとんどの生徒が、こちらの様子を伺っていた。最近、学園で話題になっている当事者たちなのだから無理もないだろう。
「……わかりました。交流棟でよろしいかしら?」
「いえ、長くはならないと思いますので、この場で結構です。絶対に逃がしませんから」
「……そうですか」
マリエンヌは、呆れていた。少しは考える頭があるかと思っていたのだが、それはもしかしたら過大評価だったかもしれない。
交流棟での話し合いを提案したのは、別に逃げ出すためではない。廊下での話し合いは、通行人に迷惑だからである。
交流棟は、学年や身分差を超えて交流する場であるが、わざわざ建物まで建てられた理由は、サロンを借りることができなかった貴族たちが廊下で会話をするのを防ぐためである。
交流棟の建設以前は、サロンでのお茶会で情報交換を行ったり、交流を深めるのが主であった。だが、サロンは基本貸し切りであり、数が多いわけではなく、上級貴族の貸し出しが優先されるため、下級貴族はなかなか使うことができない現状にあった。
そんな貴族たちは、廊下で当たり障りない会話を楽しんでいた。だが、廊下は本来、移動するための通路である。それを塞がれてしまっては、目的の場所への移動が困難となる。
特に身分の低い男爵家や子爵家の者たちは、廊下を塞いでいるのが自分よりも家格の高い者だと、どいてくれとも言えなかった。
そのようなトラブルが相次いだため、急遽、交流を深めるための別棟が建設されるにいたったのである。
だからこそ、挨拶以上の会話を交わす場合は、交流棟かサロンを使うのが常識なのだが、リネアはそんな常識は身につけていないらしい。
こうなったら、その無知をとことん晒してもらうこととしよう。
「それで、用件はなんでしょうか」
「私に意地悪するのをやめてほしいんです!」
「……意地悪?」
マリエンヌはこてんと首をかしげるが、内心はニヤリと笑っていた。
(なるほど、そう来たのね)
少々強引ではあるが、決して頭の悪い考え方ではない。何の考えもなしに言い出したならともかく、裏から手を回してマリエンヌに罪を着せられるように細工しているのであれば、人目がある以上、マリエンヌにとって不利になる可能性はある。
「とぼけても無駄です!みんながマリエンヌさまの名前を出すんですから!」
「……詳しく聞かせてもらえますか」
「最近、私の友人がみんな離れていくんです。理由を聞いてみたら、マリエンヌさまが言うからって……」
涙ながらにリネアは訴える。さすがは数多な令息たちを手玉にとっただけはあり、なかなかの演技力だ。見抜ける者はそう多くないだろう。
だが、マリエンヌは演技を見抜ける数少ない人物の一人であった。
「その方々の名前をお教えいただけませんか?わたくしも、預かり知らぬところでそのような話を広げられては困りますから、その方々に確認して参りますわ」
「名前なら、マリエンヌさまもご存じのはずです」
「心当たりがないので尋ねているのです。リネアさまのお話だけでは、それが男性か女性かもわかりませんもの」
これは本音だった。
男性だったら心当たりはいくらでもあるが、女性だった場合は本当に心当たりがない。せいぜい、リネアの立場が悪くなって離れたのかと想像できるくらいだ。
「……男性です。前までは私が話しかけたら笑顔で答えてくださったのに、今は挨拶すら返してもらえないのです」
「それはよくありませんね。わたくしからも話をしておきましょうか?」
「……ありがとうございます」
リネアは、悔しそうにそう言うと、マリエンヌのほうに歩き出した。
そして、すれ違うときにボソッと呟く。
「……これで勝ったなんて思わないでください」
負け惜しみともとれる言葉を呟くと、リネアは歩くスピードを速めた。
「またお話ししましょう、リネアさま」
去っていくリネアを見届けながら、マリエンヌもその場を立ち去った。
「お嬢さま、少々よろしいでしょうか?」
自室で準備をしていたマリエンヌにシーラが声をかける。
「何かしら?」
「シェリーナさまからお手紙が来ています」
「あら、早かったわね」
マリエンヌは手紙を受け取り、封を切る。内容を読み進めると、レスティードへのプレゼント候補がある程度揃ったので、近いうちに見に来てほしいとのことだった。
「シーラ。帰ったら仕事を頼むことになるわ。準備しておいて」
「は、はい。かしこまりました」
シーラは困惑していたが、マリエンヌは手紙を見てニヤリと笑った。
◇◇◇
約束していた、ルクレツィアとのお茶会。マリエンヌも、今だけはリネアたちのことは忘れて、このなごやかな空間を楽しもうとしていた……のだが。
「そういうことなので、今後はロジェットさまに関しては口出しは無用になりました」
嬉しそうに話すのは、ミルレーヌである。先日、レオナルドからそれとなく話を聞いたのだが、ミルレーヌはライオネルに婚約解消を持ちかけたそうだ。
サロンでのことで公表していないのと、まだロジェット侯爵家が公式には了承していないため、表向きは婚約状態が続いているが、公式のものとなるのは時間の問題だろう。
だけど、サロンを貸しきってのお茶会とはいえ、この場で言うことだろうか。
「よく王家が了承しましたね。ブロランス家との繋がりは断ちたくないと思いましたが……」
ルクレツィアが不思議そうに呟く。
本人たちが個人的にどう思っていようが、家のために行われるのが政略結婚である。
特に、ミルレーヌの婚約は王命だ。個人の感情で簡単に解消できるものではない。
「婚約を解消しても、現在の価格での取引に応じることを、レオナルド殿下を通じて陛下にお伝えしましたので」
マリエンヌは、以前のレオナルドとミルレーヌの会話を思い返す。確かに、ミルレーヌはそのようなことを頼んでいたし、自分も聞いていた。だが、もう国からの返答が届いていたとは思わなかった。
(陛下も、学園での話を耳にしていたのかしら?)
まぁ、ブロランスとロジェットのどちらを取るかと聞かれれば、国としてはブロランスを取るだろうから、よほど無茶な要望でもない限りは国は答えてくれるだろうが。
でも、自分にも話してくれてもよかったのではないか、とマリエンヌは思ってしまう。
「……マリエンヌさま、いかがなさいましたか?」
「わたくしもその場にいたというのに、何も知らなかったので……」
「あら。マリエンヌさまだって、以前にわたくしに内緒でお手紙のやり取りをしていたではありませんか。わたくしも、あまり事を大きくしたくなかったのです」
それを言われると、マリエンヌも何も言えない。自分がやったことを棚にあげることはできない。
後でレオナルドには一言くらい言ってやろうと八つ当たりにも近い考えを持つくらいだ。
「あ、あの。ライオネルさまはどのように思っていらっしゃるのでしょうか?」
おそるおそるたずねるシェリーナに、ミルレーヌは優しく微笑む。
「よく知りませんけど……せいせいしていらっしゃるのではないでしょうか?これで何の憂いもなくリネアさまと交流が持てるわけですもの」
憂いなど欠片もないような笑みを向けるミルレーヌに、改めて自分と同類なのだと再認識するマリエンヌだった。
◇◇◇
お茶会が終わり、マリエンヌは自室へと戻って現状整理をしていた。
ひとまず、ライオネルはほとんど片づいたといっていいだろう。リネアも、だいぶ孤立させることができた。
リネアが高位貴族を誑かしてるのを見て、おこぼれに預かろうとしていた貴族たちは、早々に離れているそうだ。まぁ、そんな理由で近づくような貴族たちは、リネアと運命を共にしようなどとは考えないだろうから当然といえば当然だが。
(そろそろ、次の段階に移ろうかしら?)
今までのは、言わば下準備のようなものだ。リネアの味方が多かったときにぶつかれば、こちらが悪者扱いされて、動きにくかった。マリエンヌの味方も、あくまでも王子の婚約者であり慈悲深いマリエンヌに惹かれてのことだ。
その仮面が早々に剥がれてしまっては、マリエンヌの味方もすぐにいなくなってしまっただろう。
だが、今は違う。リネアを疎ましく思っている令嬢はほぼこちらの味方につけているし、マリエンヌの本性を知りながらも協力してくれる存在ができた。
本格的に動き出しても問題ないだろう。
まずは、ジルヴェヌスのことだ。一応、以前に警告したが、ルクレツィアに向き合うようになってきているのか確認する必要がある。
もしそうなっていないのなら、そちらも対処するが、まだ警告からそんなに時間は経っていないので、もう少しだけ時間を置いてもいいだろう。
(そうなると、リネアさまのほうね)
しばらく接触していなかったし、一度話してみるのもいいかもしれない。これみよがしに恨み言をぶつけてくるか、プライドを投げ捨てて泣きついてくるか。
どちらにしても、マリエンヌにとっては都合がいい。
「シーラ」
「はい、お嬢さま」
すっと背後に立ったシーラに、マリエンヌは命じる。
「レスティードのプレゼントを買おうと思うの。ランタニア子爵家の商会に買い出しに行ってきてちょうだい」
「かしこまりました」
「商会に行ったら、これらを頼んで来てほしいの」
マリエンヌは、デスクに置いてあった紙を手に取り、シーラに渡す。
シーラが紙に書かれた内容を読み終えたのを確認して、マリエンヌは忠告する。
「くれぐれも気づかれないようにね?」
「承知しております」
シーラは力強く頷き、紙を暖炉に放って燃やした。
それを見たマリエンヌは、楽しそうに笑う。これから、さらに楽しくなりそうな予感を感じて。
◇◇◇
翌日、学園へと出向いたマリエンヌの前に立ちはだかる者がいた。
「マリエンヌさま!やっと会えましたね!」
マリエンヌの行方を遮るように立っているのは、リネアであった。
やっとと言っているが、リネアに限っては約束した覚えがまったくない。
「……わたくしに何か?」
「はい。マリエンヌさまとお話ししたいことがあるんです!」
マリエンヌは、チラリと周囲の様子を伺う。ほとんどの生徒が、こちらの様子を伺っていた。最近、学園で話題になっている当事者たちなのだから無理もないだろう。
「……わかりました。交流棟でよろしいかしら?」
「いえ、長くはならないと思いますので、この場で結構です。絶対に逃がしませんから」
「……そうですか」
マリエンヌは、呆れていた。少しは考える頭があるかと思っていたのだが、それはもしかしたら過大評価だったかもしれない。
交流棟での話し合いを提案したのは、別に逃げ出すためではない。廊下での話し合いは、通行人に迷惑だからである。
交流棟は、学年や身分差を超えて交流する場であるが、わざわざ建物まで建てられた理由は、サロンを借りることができなかった貴族たちが廊下で会話をするのを防ぐためである。
交流棟の建設以前は、サロンでのお茶会で情報交換を行ったり、交流を深めるのが主であった。だが、サロンは基本貸し切りであり、数が多いわけではなく、上級貴族の貸し出しが優先されるため、下級貴族はなかなか使うことができない現状にあった。
そんな貴族たちは、廊下で当たり障りない会話を楽しんでいた。だが、廊下は本来、移動するための通路である。それを塞がれてしまっては、目的の場所への移動が困難となる。
特に身分の低い男爵家や子爵家の者たちは、廊下を塞いでいるのが自分よりも家格の高い者だと、どいてくれとも言えなかった。
そのようなトラブルが相次いだため、急遽、交流を深めるための別棟が建設されるにいたったのである。
だからこそ、挨拶以上の会話を交わす場合は、交流棟かサロンを使うのが常識なのだが、リネアはそんな常識は身につけていないらしい。
こうなったら、その無知をとことん晒してもらうこととしよう。
「それで、用件はなんでしょうか」
「私に意地悪するのをやめてほしいんです!」
「……意地悪?」
マリエンヌはこてんと首をかしげるが、内心はニヤリと笑っていた。
(なるほど、そう来たのね)
少々強引ではあるが、決して頭の悪い考え方ではない。何の考えもなしに言い出したならともかく、裏から手を回してマリエンヌに罪を着せられるように細工しているのであれば、人目がある以上、マリエンヌにとって不利になる可能性はある。
「とぼけても無駄です!みんながマリエンヌさまの名前を出すんですから!」
「……詳しく聞かせてもらえますか」
「最近、私の友人がみんな離れていくんです。理由を聞いてみたら、マリエンヌさまが言うからって……」
涙ながらにリネアは訴える。さすがは数多な令息たちを手玉にとっただけはあり、なかなかの演技力だ。見抜ける者はそう多くないだろう。
だが、マリエンヌは演技を見抜ける数少ない人物の一人であった。
「その方々の名前をお教えいただけませんか?わたくしも、預かり知らぬところでそのような話を広げられては困りますから、その方々に確認して参りますわ」
「名前なら、マリエンヌさまもご存じのはずです」
「心当たりがないので尋ねているのです。リネアさまのお話だけでは、それが男性か女性かもわかりませんもの」
これは本音だった。
男性だったら心当たりはいくらでもあるが、女性だった場合は本当に心当たりがない。せいぜい、リネアの立場が悪くなって離れたのかと想像できるくらいだ。
「……男性です。前までは私が話しかけたら笑顔で答えてくださったのに、今は挨拶すら返してもらえないのです」
「それはよくありませんね。わたくしからも話をしておきましょうか?」
「……ありがとうございます」
リネアは、悔しそうにそう言うと、マリエンヌのほうに歩き出した。
そして、すれ違うときにボソッと呟く。
「……これで勝ったなんて思わないでください」
負け惜しみともとれる言葉を呟くと、リネアは歩くスピードを速めた。
「またお話ししましょう、リネアさま」
去っていくリネアを見届けながら、マリエンヌもその場を立ち去った。
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