転生精霊の異世界マイペース道中~もっとマイペースな妹とともに~

りーさん

文字の大きさ
8 / 30
第一章 辺境の街 カルファ

8. 呼び出し

しおりを挟む
 僕が目を覚ましたのは、体を大きく揺らされたときだった。
 気持ちよく寝ていたけど、ガクガクと揺れるような感覚があって、目を開くと、そこには先ほどの兵士がいた。
 僕と目が合うと、兵士はカッと目を見開く。

「ようやく起きたな!何度も呼びかけたのに、ぐーすかと眠りこけやがって!」
「ご、ごめんなさい……」

 前世の僕なら、呼びかけでちゃんと起きられたのに、激しく揺らされるまで気づきもしないとは。
 恐るべし、精霊の本能……!

 思えば、ルーナも体を揺らさないとなかなか起きないもんな。ルーナが怠け者だからかと思ったけど、それ以外に、本能が休みたがってたのもあるんだろう。

 そういえば、ルーナは起きたのかな?

 僕がルーナのほうに視線を向けると、とろんとはしているものの、目はちゃんと開いていた。僕が揺らされたときに衝撃で起きたのかもな。

「ねぇ、僕たちを起こしたなら、手続きっていうのは終わったの?」
「いや、ちょっと手続きで問題があってな。それで、手続きした奴が、確認したいことがあるからお前らを呼べって言うんだ」

 手続きに問題?一体、何がいけなかったんだ?
 日本とかなら、機械の故障とか、身分詐称とかだろうけど、異世界じゃ手続き方法から違いそうだから、問題の検討もつかない。
 わからない以上、下手に抵抗しないで、素直に従うほうがいいな。

「わかった。どこに行けばいいの?」
「俺について来ればいい」

 そう言うので、兵士の後を、僕はルーナの手を引きながらついていく。
 案内されたのは、先ほど兵士が出ていったドアの先で、そこは先ほどの部屋とは違い、装飾が施された広い部屋だった。

 部屋の中央にはテーブルと、それを挟むようにソファが向かい合って置かれている。

 先ほどのがただの待機部屋ならば、ここは応接室のようだ。

 そして、ソファの奥の執務机で何やら資料らしきものを睨んでいる強面な男がいる。
 呼んでいるというのは、この男のことだろう。

「連れて参りました、兵士長」

 僕たちを連れてきた兵士が、ペコリと頭を下げる。
 あの男、兵士長だったのか。国全体で見たらわからないけど、兵士の長ならば、この街ではそれなりの立場ではあるのは間違いない。

 そんな彼が、僕たちに何の用なんだ?

「ご苦労。お前は仕事に戻っていい」
「で、ですが……」
「悪いようにはしない。なにせ、子どもだからな」

 字面だけなら、安心感を誘いそうな言葉だけど、ニヤリと不適な笑みを浮かべられ、子どもという部分が、どこか含みのあるように聞こえてしまうと、警戒してしまう。
 ルーナも同じなのか、男のほうを見据えて、眠る気配も見せない。

 まさか、僕たちの正体に勘づいたというのか。だとするならば、いつ、どうやって?

「かしこまりました。失礼します」

 僕たちを連れてきた兵士は、そう言って部屋を出ていった。
 これでこの部屋には、僕たち以外は兵士長の男しかいない。

「そんなところに突っ立ってないで、座ったらどうだ」

 僕は、ごくりと息を飲んで、ルーナの手を引いて、ソファに座る。

 かなりふかふかのソファだ。ルーナのお気に入りのクッションと感触が似ているから、これはフラッフィーのソファかもしれない。

 ルーナ、寝たりしてないよね?

 僕がちらりと横を見ると、ボーッとしている感じはあっても、寝てはいなさそうだ。さすがのルーナも、こんな空気では眠れないらしい。

「さて、お前らは呼んだのは他でもない。聞きたいことがあったんだ」
「……なに?」
「単刀直入に聞く。……お前らは何者だ?」

 男の言葉に、僕はわずかにほっとする。
 どうやら、違和感を覚えているだけで、精霊まではたどり着いていないらしい。
 それなら、うまくごまかせるかも。

 精霊と言ってしまえば早いけど、人型の精霊は、本当に珍しいのだ。
 精霊界で百年以上暮らしてきたけど、精霊界全体に数百万以上いる精霊のなかで、人型の精霊は、お城で暮らしていた十数人以外にいなかったくらいだから。

 精霊界でも珍しい人型の精霊と知られたら、絶対に面倒事しか持ち込まれない。

「なんでそんなこと聞くの?」
「街に入るには、仮の身分証を発行する必要があるが、その身分証には、種族の記載が必要だ。そのために、お前たちに魔道具を持たせて、魔力を回収した」

 僕は、最初に持たされたビー玉を思い出す。
 あれって、魔力を回収するための道具だったのか。

「その魔力を、専用の道具に通すことで判別するが、お前たちの魔力は、俺たちの管理しているどれも反応しなかった」
「……どれもって?」

 僕が尋ねると、兵士長は立ち上がって、僕たちの向かい側に座る。
 その右手には、小さい金属の板のようなものがあった。板の上部には、小さくて丸い窪みがある。ちょうど、ビー玉がはまりそうなサイズだ。

「これは、人間用だ。ここにこれを嵌め込んで判別する」

 そう言って、兵士長はビー玉を嵌め込む。すると、金属の板が淡く輝きだした。

「これには、俺の魔力がこもってるが、俺は人間だから、これに反応している。他にも獣人やエルフ、ドワーフなんかもあるが、お前らのはそのどれにも当てはまらなかった。つまりは、お前らは単純に俺たちの知らない珍しい種族か、もしくは魔力が隠蔽されてる訳アリってわけだ。そんなやつをほいほいと通すわけにはいかねぇんでな」

 ……なるほど。これは、ごまかせなさそうだ。

 僕は、ちらりとルーナを見る。ルーナも、真剣な顔でこくりとうなずいた。

 それを確認して、僕は兵士長を見据える。

「僕たちは……精霊です」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

七億円当たったので異世界買ってみた!

コンビニ
ファンタジー
 三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。  ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。 「異世界を買ってみないか?」  そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。  でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。  一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。  異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。 チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。

町工場の専務が異世界に転生しました。辺境伯の嫡男として生きて行きます!

トリガー
ファンタジー
町工場の専務が女神の力で異世界に転生します。剣や魔法を使い成長していく異世界ファンタジー

処理中です...