転生王子はあくまでも楽したい~面倒事はごめん被ります~

りーさん

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第二章 あくまでも一人でいたい

14. 婚約者

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 怒涛の日々を過ごしながら一ヶ月がたち、僕はついに十歳となった。
 商会のほうは今のところ順調に経営できていて新たな魔道具の案やレシピなどを売ったりしてお小遣いも少しだけ増えた。

 そんなある日のこと、僕は父上から呼び出しを受けて、執務室に顔を出していた。報告は三日前にやったばかりなので報告の催促ではないはずだけど、呼ばれた理由がわからない。

「陛下、お呼びと聞きました」

 プライベート以外では国王のことを父上と呼ぶことは許されておらず、王子であろうが陛下と呼ばなければならない。
 まぁ、執務室ではそこまで咎められたりはしないけど、こういうのは普段からちゃんとやってないと大事な場面でやらかすものだ。

「お前に伝えることがある」
「……なんでしょうか」
「お前の婚約者が決まった」

 ……はい?父上、今なんと?

「こ、婚約者……ですか?」
「そうだ。相手はウェアルノフ公爵の妹のローゼマリー・ロキシー・ウェアルノフ。お前よりも三つ下になる」

 僕は、思わず側に控えるようにして立っている公爵に目を向ける。
 公爵は僕の視線に気づくとにこりと微笑む。

「公爵は僕が婚約者でいいの?」
「はい。妹が王子殿下の婚約者になったことは、公爵家にとっても光栄なことですし、妹も喜ばれるかと思います。よく王子が出てくる物語を読まれ、王子に憧れを抱いておりますから」
「ふーん……そう」

 いまいち納得がいかないけど、国王である父上の命に否などと言えるはずもない。
 ひとまず、当たり障りない関係を続けておけばいいか。

「顔合わせはいつになりますか」
「三日後だ。準備をしておくように」
「かしこまりました」

 さて、メアリーに伝えに行くか。

◇◇◇

 三日後、顔合わせが行われることになった。メアリーはいつも以上に張り切って僕の用意を整えている。
 僕はというと起きた時から気分は憂鬱だった。僕と同類と思われる公爵の妹とは、一体どんな人物なのか。

「メアリーはローゼマリー嬢のことは聞いたことある?」
「噂程度でしたら」

 メアリーはそう前置きをして説明してくれる。

 ローゼマリー・ロキシー・ウェアルノフは今年で七つになり、二十六歳の公爵とは十九も年が離れている。
 ローゼマリーが生まれたとき、出産の影響で公爵夫人は亡くなっており、父親である先代公爵も事故で亡くなっているため、親の顔を知らないそうだ。
 彼女は内向的な子どもでありあまり人と関わりを持とうとしないため、彼女の人となりを知っている人物はほとんどいないそう。

 でも、噂では美しいと評判だった公爵夫人の美貌を受け継いでいるらしく、公爵がとても可愛がっていると聞く。

 その話を聞いて僕はますます気分が下がった。悪い噂を聞かないという意味で公爵と同類の可能性があるし、同類でなくても公爵のお気に入りであることは変わらない。

「ねぇ、貴族の令嬢って何が好きなものなの?」
「通常はアクセサリーやお花であることが多いかと」
「わかった。参考にしておくよ」

 とりあえず好きなものをプレゼントして好感度をあげておくかな。

◇◇◇

 顔合わせは城の庭園の東屋で行うこととなった。王子の婚約者の顔合わせとしては質素であるような気もするけど、第四王子だからこんなものかなと思っている。
 まぁ、外部の人間がいるからか護衛はつけられていて、メアリーも一緒だけど。

「あっ……あれかな」

 東屋に向かっていると、一人の男と小さな女の子がこちらを向いて立っていた。
 一人の男は遠目からでもわかる。ウェアルノフ公爵だ。
 隣にいる女の子は桃色の髪なのはわかるけど、他は顔つきなどはわからない。

 でも、公爵が可愛がっているようには見えた。噂は真実である可能性が高そうだ。

「すまない。待たせた」

 王子が相手を待たせたところで謝る必要はないんだけど、思わず謝罪の言葉を口にしてしまう。
 でも、その子と目を合わせた瞬間にわかった。この子は僕と同類ではない。普通の子どものようだ。

 そこだけはひとまず安心かな。

「彼女が公爵の妹か?」
「はい、妹のローゼマリーです」
「ローゼマリー・ロキシー・ウェアルノフと申します」

 少しぎこちないながらも公爵令嬢としては充分な挨拶を見せる。
 自分よりも年下の子どもがここまでしてるんだから、僕もちゃんとしないと。

「アレクシス・ラーカディア・スピネルという。これから婚約者としてよろしく頼む」

 なるべく自然な笑みになるように心がけて微笑むと、彼女は頬を紅潮させた。

「よ、よろしくお願いいたします」

 少したどたどしい返事を返す。公爵が王子に憧れを抱いていると言っていたのは嘘ではないようだ。

「立ったままでは疲れるだろう。座るといい」
「あ、ありがとうございます」

 僕は手で合図を送り、メアリーに椅子を引かせる。
 椅子に座るのは身分が高い者が先なので、まずは僕が腰かけてから次に公爵、最後にローゼマリー嬢が座った。

 僕は、改めてローゼマリー嬢を観察する。遠くからでは普通の桃色のようだったけど、よく見ると赤みがかっている。コーラルピンクが近いだろうか。髪はウェーブのように波打っている。
 瞳は鮮やかな琥珀色。確かに、人形みたいで庇護欲をそそりそうだ。

「ローゼマリー嬢は普段は何を?」
「ほ、本を読んだり、お兄さまとお茶会をしたり……しています」
「本とはどのような?」

 王子に憧れを抱いているなら童話の可能性が高いけど……実際に王子がいるこの世界の童話って王子が出てこない話のほうが少ないんだよな。

「最近は、『光の王子と闇の姫』というものを」
「ああ、それなら私も読んだことがある」

 『光の王子と闇の姫』は人気の高い童話だ。光の国と闇の国という敵国同士にある国の王子と王女が様々な障害を乗り越えて結ばれるというどこかで聞いたようなお話である。
 僕が読んだのは五歳の頃だけど、初めて見たはずなのにものすごく既視感があった。その頃は前世の記憶を取り戻していなかったけど、前世だと認識していなかっただけで記憶そのものは最初からあったんだろう。

「私は闇の姫が王子に微笑んだ部分が印象に残っているが、ローゼマリー嬢は?」
「私もそこが好きです!ずっと笑わなかった王女さまが王子さまに微笑んだところは思わず声が出ちゃって……」

 女の子が好きそうなシーンを話題に出してみたけど、どうやらローゼマリー嬢の心にも刺さっていたらしい。
 よし、このまま気分のいいまま帰ってもらえば、公爵も満足だろう。

「確か、あの童話は光の国の王子が姫に求婚の指輪を渡していたな」
「はい、あれもとても素敵でした!自国の花をモチーフにした指輪を渡していて、自分は闇の国の花をモチーフにしたペアリングのものを着けていて……」
「わかった。ローゼマリー嬢に贈る時はそこを考慮しておこう」

 ローゼマリー嬢はプレゼントされたときのことを想像したのか顔を真っ赤にしている。ローゼマリー嬢が喜びそうな言葉選びをしたのでこの反応は想定内だけど、内心は焦っていた。

 なるべく童話に乗っとるなら、僕のはウェアルノフ公爵家の家紋の花をモチーフにするといいかもしれない。
 でも、問題はローゼマリー嬢のほうだ。さすがに王家の家紋をモチーフにしたものを婚約者へのプレゼントとして贈るわけにはいかないから、代替案を考えないといけないけど……う~む、難しい。

「アレクシス殿下、お時間です」
「そうか、わかった」

 僕が席を立つと、公爵とローゼマリー嬢も席を立つ。

「今日は楽しい時間を過ごせた。また近いうちに会おう」
「は、はい。殿下」

 ローゼマリー嬢は少しもじもじしているように見える。これが名残惜しさからであれば嬉しい。
 ……と、忘れてはいけない。

「公爵もこれからよろしく頼む」
「こちらも、妹をよろしくお願いいたします」
「ああ、大事にしよう」

 まるで嫁に貰うかのような会話だけど、そんなおめでたい会話ではない。公爵は見る者を魅了するようなその笑みで、僕に静かに圧をかけているのだから。
 さすがは同類。僕とどこまでも似ている。

「では、私はこれで」
「お時間をいただき感謝します」

 ローゼマリー嬢はそう言って頭を下げた。公爵も僕に礼をする。
 そんな二人の様子を見ながら、僕はその場を後にした。
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