転生王子はあくまでも楽したい~面倒事はごめん被ります~

りーさん

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第一章 あくまでも働きたくない

9. 提案

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 僕はソファでお茶を飲んでいた。メアリーが早速魔道具でお茶を淹れてくれて、念願の温かいお茶が飲めているというのに味がわからない。
 メアリーの機嫌が、魔塔にいた頃と何も変わっていないような気がする。

「……アレクシスさま」
「んぐ!」

 不意に声をかけられて変な飲み込み方をしてしまい、僕はゴホゴホとむせてしまう。
 メアリーが慌てて僕の背中をさすってくれたお陰か、咳はすぐに治まった。

「申し訳ございません、驚かせてしまい……」
「ううん、それよりも何?」

 呼吸を整えつつ尋ねると、メアリーはこほんと咳払いをして言った。

「私が魔塔で発案者としての責任を持つように進言したことについてなのですが、あれはーー」
「わかってる。新たなものを生み出したら生み出した者が責任を取るべきなんでしょ」

 子どもの問題行動は親が責任を取り、商品に問題があれば生産者が責任を取るように、この世に物を作り出したらその責任は本人が負わないといけない。
 たとえ使い方を使用者が誤っていたとしても、それを予測できなかったほうが悪いと言われる世の中だ。どんなイレギュラーにも対応できるような安全対策をしたり、注意書きをする場合もあるだろう。

 まぁ、あの保温魔法のかかったティーポットの誤った使い方は何も思いつかないけど。高温じゃないと毒性を保てない毒とかがあるなら悪用されそうだけどね。

「それもありますが……あの魔道具が人々の生活に役立つようなら、王子の勤めを果たしたことになるでしょう?」
「ああ、そういうこと」

 それは考えてもいなかった。この国では制作者が権利を持つことはあっても、発案者が権利を持てることは少ない。
 それは特許にも現れていて、特許の保有が認められるのはあくまでも制作者のみであり、発案者は特許の取得許可はまず降りない。
 基本的に発案者と制作者が同じであることが多いというのもあるけど、思いついたとしても、それを生み出すことができなければ意味がないからだ。あくまでもそれは本人の妄想による偶像としか思われない。
 ようするに、考えただけで金取るのかというものである。

「じゃあ、兄上との共同開発って線でいく?」

 発案者というだけではインパクトに欠ける。誰だってアイデアマンよりはそのアイデアを形にできるほうに注目するだろう。
 理想を語るだけなら子どもでもできるのだから。
 共同開発ということにしておけば、僕とクローディル兄さんの立場は同等になる。発案者は僕なのだからまるきり嘘というわけでもない。

「そうですね。クローディルさまの了承をいただけたらそのようにしましょう」

 メアリーも同じ考えのようだ。

 だけど、これには問題がある。このような方法を取れば、不公平ではないかと言う存在が出てくる。
 僕はアイデアを出しているだけで形にしているのはクローディル兄さんだ。クローディル兄さんが天才であるから失敗もなく作り出すことができるのであって、普通なら何度も失敗を重ねてアイデアは形になる。
 一発で何もかもうまくいくなら誰も苦労しない。
 失敗するたびに素材は無駄になるし時間も多く浪費する。その間苦労するのは制作者だけであって、発案者はただ待つだけだ。

 それなのに分け前は同じだということに不満が出てくる者がいるのは自然の流れと言える。

 これは、アイデア料という考えを普及させるのも悪くない。そうすれば、発想力に優れた人材を掘り起こすことに繋がるかもしれないし、制作者からしても自分がやりたいと思うアイデアを買い取ればいいのだから不満も出にくいだろう。
 一度父上に提案してみるか。

「クローディル兄上のことはメアリーに任せてもいい?僕は父上に相談したいことがあるから」
「かしこまりました。それぞれに通達を出します」

 メアリーは一礼して部屋を出ていく。パタンとドアが閉まると同時に、僕は机に向かう。
 提案するからにはちゃんとプレゼン内容を考えておかなければならない。まずは資料作りからだ。

「名称は発案の特許でいっか。値段は……」

 ひとまず自分の金銭感覚に当てはめ、発案料の徴収方法やアイデアの買取方法もまとめておく。

「よし、こんなもんでしょ」

 資料を書き終えて、おかしな表現や誤字脱字がないかの最終チェックを行う。
 問題なかったので、風で飛ばないように重石を置いておき、僕はベッドに寝転がる。

 疲れたので横になっただけのつもりだったけど、いつの間にか寝てしまっていたらしく、戻ってきたメアリーによって叩き起こされることとなった。

◇◇◇

 三日後、僕は作成した資料を持って父上の元に訪ねた。

「父上、アレクシスです」
「入れ」
「失礼します」

 入室の許可が出たので、ドアを開けて中に入る。
 部屋の中を見た僕は顔をひきつらせそうになった。中には他にも人がいた。一人はクリストフ兄さん。クリストフ兄さんは父上の政務を手伝っているからこの場にいるのは不思議ではないし、大好きというほどではないけど、顔をひきつらせるような相手ではない。
 問題はもう一人。僕と同類と思われる忌まわしき存在のウェアルノフ公爵。
 公爵も宰相だから父上の執務室にいたところで何もおかしくない。
 でも、会いたくないものは会いたくないのだ。

「……お忙しいようなら出直しますが」

 というか、めちゃくちゃ出ていきたい。今すぐ自分の部屋に戻りたい。

「いや、時間は今しか取れん。早めに済ませてくれるのならありがたいが」
「いえ、少々長引く可能性がございます」

 くそっ!公爵がいると知ってたら短い時間で済みそうな別の話題を考えておいたのに!
 だけど、嘆いたところで話題が降ってくるわけではないので、今日は諦めるしかない。今後、父上の執務室に訪ねる時は注意しておこう。

「父上……いえ、陛下に提案したいことがございまして、資料をお持ちしました」

 僕は父上に持ってきた資料を渡す。
 こうなったら、なるべく早く終わらせてさっさと戻るとしよう。

「……発案の特許?」
「はい。この国は開発者への対応はそれなりに行き届いているとは思いますが、発案者の権利があまりないように感じましたので」
「それは、お前が魔道具の発案者だからか」

 もう父上の耳に届いているのか。お城は情報の回りが本当に早いな。

「それもあります。権利が認められねば、私が王子の勤めを果たしていると断言するのは難しいのではないかと」

 たとえば、今のまま共同開発者として名乗りをあげたとしても、僕とクローディル兄さんの取り分は半々になる。
 しかも、クローディル兄さんが魔法の天才であることは有名なので、場合によってはクローディル兄さんの手柄を横取りしようとした王子に見える。

 たとえクローディル兄さんが発案者が僕であることを説明したとしても、本気にしてくれる人はどれだけいるかわからない。

「ならば、お前が魔道具作りを学べばよいのではないか?」
「私の場合ならそれも可能です。ですが、誰もが魔道具を学べる環境にあるとも限らないでしょう」

 僕はいちいちクローディル兄さんに頼るのも申し訳ないので、魔道具作りを学ぶつもりはある。でも、平民はその日を生きるので精一杯の人たちもいる。
 そんな人たちが魔道具作りを学ぶのはまず不可能だし、魔道具を作っている余裕はない。だが、魔道具を提案するだけでお金がもらえるとあらば、平民たちはこぞって集まるだろう。その中から本当に必要だと思うものを購入すればいいのだ。
 あくまでも提案に留まることができるため、発案者のほうにお金の負担はかからない。

「お前の考えはわかった。だが、問題がないわけではない」
「発案者の利益の回収方法、発案者の人違い防止、利益発生時の伝達方法ですか?」

 父上が珍しく目を見開いている。まさか、気づかないで提案したとでも思っているのだろうか。そんなはずないだろう。
 自分で考えられるだけの問題点はあらかじめ見つけてあるに決まってるじゃないか。

「わかっているのなら対応策はあるのか」
「考えはあります」
「……そうか。ならば、改めて時間を作って聞こう。今日は時間がない」
「はい、ありがとうございます」

 僕は一礼して部屋を出ていく。国王の会話に割り込むことはできないとはいえ、ずっと黙ったままなのは助かった。
 僕と公爵はこのくらいの距離感がいい。

「お時間を取っていただきありがとうございました。失礼いたします」

 父上に向かって深く一礼した後、僕は静かにドアを閉めて自分の部屋に戻った。
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