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第一章 あくまでも働きたくない
2. 図書室で調べもの
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父上に宣言した通り、僕はメアリーを伴って図書室に向かう。
メアリーに事情を説明したところ理解を得られ、普通についてきてくれた。それどころか、ダメだと言われようがついていくと意気込んでいた。
図書室に着くと、メアリーから質問が飛んでくる。
「どの資料をお探しですか?」
「う~ん……ひとまずは市井に関することをいろいろと読んでみるつもり」
剣や魔法よりは、内政面から当たってみるのがいいだろう。記憶力に関しては他の兄弟よりも秀でている自信はあるし、それを生かせる仕事か、そのヒントが見つかるかもしれない。
「かしこまりました。該当するものをお持ちいたしますので、そちらのテーブルでお待ちいただければ」
メアリーが手で示したのは、図書室の一角にある読書スペースである。ここはお城の図書室なので、基本的に持ち出しは禁止だ。
外に流出したところで問題のない内容ばかりだけど、貴重な書物もそれなりにあるので、紛失を防ぐ必要はあるためだ。
「うん。じゃあ、よろしーー」
よろしくと言いかけたところで、僕はあることに気づいてメアリーに尋ねる。
「……メアリーって、この図書室の本の位置を覚えてるの?」
「はい、そうですが……?」
なんでそんなことを聞くのかとでも言いたげに首を傾げてるけど、絶対に僕はおかしくない。
別に、覚えていることに疑問を感じているわけではない。記憶力に優れていれば、本の位置くらいは覚えられるだろうし、僕もやろうと思えばできると思う。
でも、メアリーは幼い頃から僕の世話係をしていて、僕が呼べば五分もせずに駆けつけてくるくらいには常に僕の側にいた存在だ。
一体、いつ本の位置を覚える時間があったのだろう。僕が寝ていたときにでも覚えたんだろうか?
「……とりあえず、持ってきて」
僕は深く考えるのをやめて、メアリーにおつかいを頼んだ。
◇◇◇
僕が読書スペースでうつらうつらとしながら待っていると、肩を軽く揺すられる。僕にこんなことをするのは、もちろんメアリーである。
「お持ちいたしましたので、起きてください」
「寝てはないよ……」
ふわぁと大きくあくびしながらそう言ったところで、まるで説得力がないだろう。
メアリーも、はぁとため息をついている。
「こちらがお求めのものです」
メアリーは積み重ねられた本の中から一冊を僕に渡してくる。
僕は目を擦りながらそれを受け取った。
「ねぇ、これって読んでもいい?」
「そのためにお持ちしたものですよ?」
メアリーは訳がわからないといった顔をする。理解されていないのに気づいた僕は、言葉を変えて再度尋ねる。
「そうじゃなくて……読み上げてもいいかって意味だったんだけど」
「……失礼でなければ、理由をお尋ねしても?」
「読み上げたほうが覚えやすいから」
別に黙読でも記憶できるといえばできるのだけど、その場合だと文字ではなく記号のようなものとしての認識のほうが強くなってしまい、思い出す……正確には解読するのに時間を要する。
でも、声に出して読めばきちんと文字として記憶されるので、解読の手間が省けるというわけだ。
「かしこまりました。では、なるべく小声でお願いいたします」
「わかった」
メアリーからのお許しも出たので、僕は本のタイトルに目を通す。
「平民の暮らし。著アラン・ルーベル」
タイトルに書かれていたことを読み上げて、僕は本を開く。
「この国の人口の多くは平民である。平民は税を納めることで国を支え、文化や産業を生み出している」
そのままずっと読み進めていくと、平民の生活や暮らしについて大まかにわかってきた。
この本の著者は実際に見聞したのか、かなり詳しく記されている。お陰で、この国の平民の生活は想像に難くない。
最後まで読み終えると、僕は次の本を手に取り、再び題名から読み始める。
それを繰り返していると、僕の手に別の誰かの手が重なる。
「アレクシスさま。昼食のお時間ですので、一度中止してください」
メアリーの制止の手を、僕は軽く振り払う。
「これが読み終わるまで待って。キリがいいところまで読まないと覚えにくいから」
僕が読んでいる書物は残り十ページほどとなっている。数分もすれば終わるだろう。
メアリーも僕が動く気がないことを察したのか、読み終わるまで待ってくれるようで、それ以上急かすようなことはなかった。
しばらくして本を読み終わった僕は、パタンと本を閉じる。
「お待たせ。行こう」
「はい、どうぞ食堂のほうに。本は私が片づけますので」
「あっ、待って」
メアリーが本を回収しようとするのを止めて、一つ指示を付け足す。
「読んでないやつは部屋で読むから、持ち出しても問題ないなら借りておいてくれる?」
「かしこまりました」
メアリーは僕が読み終わった本のみを回収して、本棚のほうに向かった。
その姿を確認して、僕は図書室を後にした。
メアリーに事情を説明したところ理解を得られ、普通についてきてくれた。それどころか、ダメだと言われようがついていくと意気込んでいた。
図書室に着くと、メアリーから質問が飛んでくる。
「どの資料をお探しですか?」
「う~ん……ひとまずは市井に関することをいろいろと読んでみるつもり」
剣や魔法よりは、内政面から当たってみるのがいいだろう。記憶力に関しては他の兄弟よりも秀でている自信はあるし、それを生かせる仕事か、そのヒントが見つかるかもしれない。
「かしこまりました。該当するものをお持ちいたしますので、そちらのテーブルでお待ちいただければ」
メアリーが手で示したのは、図書室の一角にある読書スペースである。ここはお城の図書室なので、基本的に持ち出しは禁止だ。
外に流出したところで問題のない内容ばかりだけど、貴重な書物もそれなりにあるので、紛失を防ぐ必要はあるためだ。
「うん。じゃあ、よろしーー」
よろしくと言いかけたところで、僕はあることに気づいてメアリーに尋ねる。
「……メアリーって、この図書室の本の位置を覚えてるの?」
「はい、そうですが……?」
なんでそんなことを聞くのかとでも言いたげに首を傾げてるけど、絶対に僕はおかしくない。
別に、覚えていることに疑問を感じているわけではない。記憶力に優れていれば、本の位置くらいは覚えられるだろうし、僕もやろうと思えばできると思う。
でも、メアリーは幼い頃から僕の世話係をしていて、僕が呼べば五分もせずに駆けつけてくるくらいには常に僕の側にいた存在だ。
一体、いつ本の位置を覚える時間があったのだろう。僕が寝ていたときにでも覚えたんだろうか?
「……とりあえず、持ってきて」
僕は深く考えるのをやめて、メアリーにおつかいを頼んだ。
◇◇◇
僕が読書スペースでうつらうつらとしながら待っていると、肩を軽く揺すられる。僕にこんなことをするのは、もちろんメアリーである。
「お持ちいたしましたので、起きてください」
「寝てはないよ……」
ふわぁと大きくあくびしながらそう言ったところで、まるで説得力がないだろう。
メアリーも、はぁとため息をついている。
「こちらがお求めのものです」
メアリーは積み重ねられた本の中から一冊を僕に渡してくる。
僕は目を擦りながらそれを受け取った。
「ねぇ、これって読んでもいい?」
「そのためにお持ちしたものですよ?」
メアリーは訳がわからないといった顔をする。理解されていないのに気づいた僕は、言葉を変えて再度尋ねる。
「そうじゃなくて……読み上げてもいいかって意味だったんだけど」
「……失礼でなければ、理由をお尋ねしても?」
「読み上げたほうが覚えやすいから」
別に黙読でも記憶できるといえばできるのだけど、その場合だと文字ではなく記号のようなものとしての認識のほうが強くなってしまい、思い出す……正確には解読するのに時間を要する。
でも、声に出して読めばきちんと文字として記憶されるので、解読の手間が省けるというわけだ。
「かしこまりました。では、なるべく小声でお願いいたします」
「わかった」
メアリーからのお許しも出たので、僕は本のタイトルに目を通す。
「平民の暮らし。著アラン・ルーベル」
タイトルに書かれていたことを読み上げて、僕は本を開く。
「この国の人口の多くは平民である。平民は税を納めることで国を支え、文化や産業を生み出している」
そのままずっと読み進めていくと、平民の生活や暮らしについて大まかにわかってきた。
この本の著者は実際に見聞したのか、かなり詳しく記されている。お陰で、この国の平民の生活は想像に難くない。
最後まで読み終えると、僕は次の本を手に取り、再び題名から読み始める。
それを繰り返していると、僕の手に別の誰かの手が重なる。
「アレクシスさま。昼食のお時間ですので、一度中止してください」
メアリーの制止の手を、僕は軽く振り払う。
「これが読み終わるまで待って。キリがいいところまで読まないと覚えにくいから」
僕が読んでいる書物は残り十ページほどとなっている。数分もすれば終わるだろう。
メアリーも僕が動く気がないことを察したのか、読み終わるまで待ってくれるようで、それ以上急かすようなことはなかった。
しばらくして本を読み終わった僕は、パタンと本を閉じる。
「お待たせ。行こう」
「はい、どうぞ食堂のほうに。本は私が片づけますので」
「あっ、待って」
メアリーが本を回収しようとするのを止めて、一つ指示を付け足す。
「読んでないやつは部屋で読むから、持ち出しても問題ないなら借りておいてくれる?」
「かしこまりました」
メアリーは僕が読み終わった本のみを回収して、本棚のほうに向かった。
その姿を確認して、僕は図書室を後にした。
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