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第一章 あくまでも働きたくない
1. ニート生活終了?
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今日もメアリーの目を盗みつつだらだらとニート生活を謳歌していた。そんな時、僕の元に父上であるマクシミリアン国王がやってきた。
「アレクシス」
「……ごきげんよう、父上」
僕は怠けていた体を起こし、父上に礼をする。
相手は国王。親子であろうと最低限の礼儀は必要だ。
「なぜ私がここに来たかわかるか?」
「……朝の挨拶?」
「なわけないだろうが!」
父上からの鋭いツッコミがとんでくる。
「お前ももうすぐ十になる。三年後には学園の中等部に通わなければならないのは理解しているな?」
「まぁ、一応は。納得はしてませんが」
アーベンハルク王国には国立の魔法学院がある。
それぞれ初等部、中等部、高等部と分かれており、十三歳は中等部に入学する年齢である。
魔力検査で基準以上の記録を出した者には通学する義務があり、僕はギリギリ基準値を越えてしまったので、僕にも通学の義務が発生する。
ちなみに初等部は平民などが通う場所であり、家庭教師の勉強で事足りる貴族は、よほどのワケアリでもない限りは通うことはない。
僕も初等部は通わずにのんびりと過ごしていたんだけど、さすがに中等部をスルーするわけにはいかない。
普段、王子としての権利を享受している以上は、義務もこなさなければならないのだ。
だからこそ、納得はしていないものの、通うこと自体は仕方ないと思って諦めている。でも、こんな話を持ち出したということは……
「もしかして、通わなくてもよくなったとかそういうーー」
「そんなわけがないだろう」
父上にバッサリと切り捨てられ、僕は深くため息をつく。
違うだろうとはなんとなく思ってたけど、それでも欠片くらいは希望を持っていたというのに。
「まぁ、通わせなくて済むのならそちらのほうが気が楽なのだが……」
そうボソッと呟いた父上の声を僕は聞き逃さなかった。
「じゃあ、病弱とでも理由をつけて僕は学院には行かないということで……」
「剣と魔法の訓練を毎日受けているのは城中の人間が知っておるのに無理があろう」
逆に言えば、それさえなければ学院に行かせないことも視野に入れてたみたいに聞こえますけど。
「結局、父上は何が言いたいのですか?」
「中等部ではアーベンハルク王国の第四王子として振る舞う必要がある。だが、今のお前ではまったくその期待ができん」
だろうね、と僕は心の中で頷く。
暇さえあればベッドでゴロゴロしていて、訓練や勉強も促されて嫌々やっている王子なんて不安しかないだろう。
でも、これが今の僕だ。直せと言われても直せる気がしない。
「そのため、お前の性根を叩き直すことにした」
「外に追い出したところで怠ける場所が変わるだけですよ?」
何をしても無駄だということを言外に伝えるも、父上は何かを企んでいるようで、まるでいたずらっ子のような笑みを浮かべている。
「できるものならな」
そう告げた父上の言葉に、僕は背筋に寒気が走るのを感じた。
「お前には、王子の勤めを果たしてもらう」
「ええー!!」
僕の口からは大きな不満が飛び出した。王子の勤めというのは、すごく簡単にいえば、王子として国に貢献しろということである。
たとえば、第一王子であるクリストフ兄さんは、国王である父上の補佐として昼夜問わず政務に明け暮れていて、第二王子のジークフリート兄さんは騎士をまとめる騎士団長。第三王子のクローディル兄さんは、王国所属の魔法使いが集まる魔塔の主である魔塔主として。
全員が国有数の実力者となっているスピネル王家だけど、僕は凡人も凡人。よく言えばオールマイティー。悪く言えば器用貧乏。それが僕である。
ちなみに、王族ではなく王子なのは、王女としての役目は政略結婚がほとんどなので、わざわざ勤めとして動く必要はないという理由からだ。
そんなトリビアは置いておくとして。
「僕にできることなんて何もありませんよ」
「何も完璧にこなせと言っているわけではない。王子として国に貢献さえすれば、何しても構わん」
父上にとっては妥協してるのかもしれないけど、僕にとっては大同小異、焼け石に水。大して変わってない。
でも、だからといって断るなんて選択肢は存在していないことはわかる。
「……父上。今日の勉強は中止で構いませんか?」
「……なに?」
僕の提案に父上は不満を露にする。
でも、こんなのは想像の範囲内だったので、僕は焦ることはなく理由を説明した。
「僕は剣も魔法も平凡です。勉学のほうも優れていると言えるものではありません。別に好きでもないですし」
「……つまり、自分ができることを考えるための時間がほしいということか?」
「さっすが父上!」
僕が手をパチパチとさせて褒めると、父上から「茶化すな」と冷たい返答が返ってくる。
ちゃんと本心で褒めてたのに。
すべて説明する前に理解できる頭の回転力はさすがだと思ってるし。
「いいだろう。しばしの間、すべての授業を中止する。その代わり、少しでも怠ける様子が見られたら勉強量を倍増するからな」
「ちゃんとやりますって!」
「どうだかな」
父上からの信用が無さすぎる。いやまぁ、心当たりはありすぎるけど。
「……では早速、図書室に向かってもよろしいでしょうか?」
「構わん。だが、必ずメアリーを連れていけ」
僕が図書室でサボるとでも思ってるのかな?さすがにそんなことはしないけど、父上の信用を勝ち取るためにも言う通りにしよう。
「かしこまりました」
「では、方針が決まったら報告に来るように」
父上はそう言い残して部屋を出ていった。
転生しておよそ十年。快適そのものだったニート生活に終わりが見えて、僕はため息をついた。
「アレクシス」
「……ごきげんよう、父上」
僕は怠けていた体を起こし、父上に礼をする。
相手は国王。親子であろうと最低限の礼儀は必要だ。
「なぜ私がここに来たかわかるか?」
「……朝の挨拶?」
「なわけないだろうが!」
父上からの鋭いツッコミがとんでくる。
「お前ももうすぐ十になる。三年後には学園の中等部に通わなければならないのは理解しているな?」
「まぁ、一応は。納得はしてませんが」
アーベンハルク王国には国立の魔法学院がある。
それぞれ初等部、中等部、高等部と分かれており、十三歳は中等部に入学する年齢である。
魔力検査で基準以上の記録を出した者には通学する義務があり、僕はギリギリ基準値を越えてしまったので、僕にも通学の義務が発生する。
ちなみに初等部は平民などが通う場所であり、家庭教師の勉強で事足りる貴族は、よほどのワケアリでもない限りは通うことはない。
僕も初等部は通わずにのんびりと過ごしていたんだけど、さすがに中等部をスルーするわけにはいかない。
普段、王子としての権利を享受している以上は、義務もこなさなければならないのだ。
だからこそ、納得はしていないものの、通うこと自体は仕方ないと思って諦めている。でも、こんな話を持ち出したということは……
「もしかして、通わなくてもよくなったとかそういうーー」
「そんなわけがないだろう」
父上にバッサリと切り捨てられ、僕は深くため息をつく。
違うだろうとはなんとなく思ってたけど、それでも欠片くらいは希望を持っていたというのに。
「まぁ、通わせなくて済むのならそちらのほうが気が楽なのだが……」
そうボソッと呟いた父上の声を僕は聞き逃さなかった。
「じゃあ、病弱とでも理由をつけて僕は学院には行かないということで……」
「剣と魔法の訓練を毎日受けているのは城中の人間が知っておるのに無理があろう」
逆に言えば、それさえなければ学院に行かせないことも視野に入れてたみたいに聞こえますけど。
「結局、父上は何が言いたいのですか?」
「中等部ではアーベンハルク王国の第四王子として振る舞う必要がある。だが、今のお前ではまったくその期待ができん」
だろうね、と僕は心の中で頷く。
暇さえあればベッドでゴロゴロしていて、訓練や勉強も促されて嫌々やっている王子なんて不安しかないだろう。
でも、これが今の僕だ。直せと言われても直せる気がしない。
「そのため、お前の性根を叩き直すことにした」
「外に追い出したところで怠ける場所が変わるだけですよ?」
何をしても無駄だということを言外に伝えるも、父上は何かを企んでいるようで、まるでいたずらっ子のような笑みを浮かべている。
「できるものならな」
そう告げた父上の言葉に、僕は背筋に寒気が走るのを感じた。
「お前には、王子の勤めを果たしてもらう」
「ええー!!」
僕の口からは大きな不満が飛び出した。王子の勤めというのは、すごく簡単にいえば、王子として国に貢献しろということである。
たとえば、第一王子であるクリストフ兄さんは、国王である父上の補佐として昼夜問わず政務に明け暮れていて、第二王子のジークフリート兄さんは騎士をまとめる騎士団長。第三王子のクローディル兄さんは、王国所属の魔法使いが集まる魔塔の主である魔塔主として。
全員が国有数の実力者となっているスピネル王家だけど、僕は凡人も凡人。よく言えばオールマイティー。悪く言えば器用貧乏。それが僕である。
ちなみに、王族ではなく王子なのは、王女としての役目は政略結婚がほとんどなので、わざわざ勤めとして動く必要はないという理由からだ。
そんなトリビアは置いておくとして。
「僕にできることなんて何もありませんよ」
「何も完璧にこなせと言っているわけではない。王子として国に貢献さえすれば、何しても構わん」
父上にとっては妥協してるのかもしれないけど、僕にとっては大同小異、焼け石に水。大して変わってない。
でも、だからといって断るなんて選択肢は存在していないことはわかる。
「……父上。今日の勉強は中止で構いませんか?」
「……なに?」
僕の提案に父上は不満を露にする。
でも、こんなのは想像の範囲内だったので、僕は焦ることはなく理由を説明した。
「僕は剣も魔法も平凡です。勉学のほうも優れていると言えるものではありません。別に好きでもないですし」
「……つまり、自分ができることを考えるための時間がほしいということか?」
「さっすが父上!」
僕が手をパチパチとさせて褒めると、父上から「茶化すな」と冷たい返答が返ってくる。
ちゃんと本心で褒めてたのに。
すべて説明する前に理解できる頭の回転力はさすがだと思ってるし。
「いいだろう。しばしの間、すべての授業を中止する。その代わり、少しでも怠ける様子が見られたら勉強量を倍増するからな」
「ちゃんとやりますって!」
「どうだかな」
父上からの信用が無さすぎる。いやまぁ、心当たりはありすぎるけど。
「……では早速、図書室に向かってもよろしいでしょうか?」
「構わん。だが、必ずメアリーを連れていけ」
僕が図書室でサボるとでも思ってるのかな?さすがにそんなことはしないけど、父上の信用を勝ち取るためにも言う通りにしよう。
「かしこまりました」
「では、方針が決まったら報告に来るように」
父上はそう言い残して部屋を出ていった。
転生しておよそ十年。快適そのものだったニート生活に終わりが見えて、僕はため息をついた。
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