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第一章 幼少期

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 次は、ヴィオレーヌお姉さまになります……。
 私が元気がないのは、ヴィオレーヌお姉さまが少し苦手だからです。
 ヴィオレーヌお姉さまは、王家での長子にあたり、正妃の娘のため、王位継承権は、シルヴェルスお兄さまに次いで、第二位になります。王妃であるシュリルカお母さまの子どもなので、この二人とは同腹となるわけですね。
 ヴィオレーヌお姉さまは、一言で言うなら完璧です。
 学力は、学園では首席を取る。魔力も首席。文武両道のお姉さま。
 そして、お姉さまは氷魔法と雷魔法という希少属性を二つも持っており、風魔法も、ルーカディルお兄さまの鍛練相手が唯一務まると言われるくらいの実力者です。
 魔法だけなら、ヴィオレーヌお姉さまが、数段は周りの兄弟よりも秀でています。
 ですが、女性らしいというべきなのか、武力がからっきしらしく、やはり総合力ではエルクトお兄さまに分があるそうです。
 唯一使えるのが弓だそうです。それでも充分すぎるほどすごいと思うけどね。
 そんなヴィオレーヌお姉さまは、氷魔法の使い手であることと、表情筋がピクリとも動かないようなお方なので、アルウェルトの氷姫ひょうきなんて異名がついているお人。
 私が苦手な理由も、他の兄姉たちと違って、何を考えているのかよくわからないし、ものすごく厳しいお人だからです。
 お食事会などでマナーの指摘をするのは、アリリシアさまとヴィオレーヌお姉さまだけですので。
 そんなお姉さまにお菓子はいかがなものかと、私は頑張って刺繍したハンカチを持っていくことにしました。
 そして、私はハーステッドお兄さまに言われたのもあり、使用人を連れています。
 連れているのはフウレイ。フウレイなら呼び捨てできるからという理由。ヴィオレーヌお姉さまは、そういうところも厳しいところがあるので。

「そういえば、アナスタシアさま。ザーラが話したいことがあるから、後で部屋に行くって言ってましたよ」
「しょうなの?わかった」

 このときの私は、なんか用事でもあるのかな~とのんきに考えていた。
 その甘い考えは、すぐにひっくり返されることとなるのも知らずに。

◇◇◇

 ヴィオレーヌお姉さまの元へとやってきました。
 使用人さんにはすんなりと通され、お姉さまと向き合っています。
 姉に会っているだけなのに、気分はまさに、圧迫面接のようです。

「用は何ですか」
「お、お姉しゃまに誕生日プレゼントをと思いまして……」

 フウレイに持っててもらったハンカチをお姉さまに手渡しました。
 何て言われるでしょう……下手くそ?それとも、そんなものはいらない?

「……ありがとう。使わせてもらいますわ」
「……ほへ?」

 予想外の反応に、私はすっとんきょうな声を出しました。
 お姉さまは、それに反応するように眉間を寄せます。
 まずいまずい。お姉さまの前では、言葉遣いに気をつけねば。

「……何ですの?」
「え、えっと……ダメ出しされるかなぁ……な~んて……」
「ダメ出しされるようなものという自覚があるのですか」
「しょ、しょれは……」

 まずい。墓穴を掘ってしまった。お姉さまの前で墓穴を掘ってしまったら、本当に穴に埋まることになる。
 絶対に見逃してくれないもん。
 私がどう言い訳しようかと思考を張り巡らせていると、お姉さまがはぁとため息をつく。

「……あなたがわたくしをどう思っているのかは存じませんが、贈り物にケチをつけるほど、わたくしは狭小ではございませんわ。これは素敵なものだと思いますわよ」
「あ、ありがとうございましゅ!」
「まぁ、もう少し腕を上げるべきとは思いますが」
「は、はい……しゅみましぇん……」

 さすがお姉さま。上げてから落とすまでのスパンが短すぎます。もうちょっと持ち上げたままでもいいじゃありませんか。

「あの……ちょっと気になったんでしゅけど」
「何ですか?」
「お姉さまの宮に贈り物が一切なかったのは何ででしゅか……?」

 私は今まで、三人の兄たちのところに行ってきたけど、全員、貴族たちから誕生日プレゼントが贈られていた。
 でも、私がヴィオレーヌお姉さまのところに来たときには、プレゼントが見当たらなかった。
 すぐに受け取った……は、ないな。今までが今までだし。
 それなら、来た瞬間に捨てたとか?それはさすがにひどすぎると思うけど……

「突き返していますわ。あんなご機嫌取りなんていりませんもの」

 もっとひどかった!まだ他のお兄さんたちは受け取ってはいたのに……!
 絶対に、一生懸命考えて選んでくれただろうに、突き返されるのは、捨てられるよりも辛いと思う。

「せ、せめて受け取るくらいしてあげても……」
「アナスタシア。不要物は捨てるのではなく、そもそも手にしないことですわ」
「え、ええ~……」

 ごめんなさい、お兄さま。皆さまのほうが、ずっと常識的なお方でした。

「むしろ、突き返されるとわかっているのに贈ってくるほうも贈ってくるほうですわ」

 初犯じゃないんかい!

「で、でも、私とはちがって、貰えるだけでもしゅごいでしゅし、しょれだけ慕われてるってことだと思いましゅし……」

 だから、ちょっとは大事にしてあげてという思いを遠回しに伝えてみるけど、お姉さまが引っかかったのはそこではなかった。

「私とはちがってとはどういうことですか」
「そのままの意味でしゅけど……?」
「贈り物がないと?」
「はい、そうでしゅ」

 少なくとも、私に前世の記憶が戻ってから、家族や貴族の人から誕生日プレゼントなんて貰ったことがない。
 せいぜい、手作りのハンカチやぬいぐるみを侍女さんたちから貰ったくらいで。

「……そう。わかりましたわ。今年は少し変えることにしましょう」

 そう言うと、お姉さまは近くの使用人を手招きし、何やらこそこそと話している。
 使用人は、軽く頭を下げて、その場を後にした。

「申し訳ないけど、用ができてしまったから、今日は帰ってくださる?」
「は、はい……わかりました。行こう、フウレイ」
「はい、アナスタシアさま」

 お姉さまの尋常ではない雰囲気に、私は逆らうことなく、その場を後にした。
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