無口令嬢は心眼王子に愛される

りーさん

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学園入学

19 月日は流れて

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 セルネスの異能を打ち明けられてから数年後、アドリアンネは学園へと通うための準備を進めていた。
 学園の制服は今まで来ていたドレスと少し違うので、違和感を感じている。

(ドレスと比べると少し裾が短いのよね……)

 学園の制服は、男性と違い、上下が繋がっているという点ではドレスと同じだが、ドレスのゆったりとしたものとは違い、男性のスーツのように体のラインがよく目立つものとなっている。
 全体的に白いのも余計に強調する原因だろう。

(コルセット無しでこれだものね……)

 アドリアンネは、自分の胸に手を当てる。
 どちらかというとアドリアンネはささやかなため、コルセットがあろうがなかろうがあまり変わらない。
 でも、コルセットがなくても、多少は強調されているようだった。

(後は、これを羽織るんだったわね)

 扇形の紺色の布を、紐がついているところを前にするように羽織り、ちょうど胸の上の首もとに来た紐を前で結ぶ。
 一度姿見で見てみると、学園の制服に身を通したアドリアンネが映る。

(リボンが不格好になってしまったわ……)

 紐を結ぶなんてやったことがなかったアドリアンネは、見様見真似でやってみたのだが、それを仕事にしている侍女たちのレベルには敵うわけがなかった。

「アドリアンネさま、準備は終えましたか?」

 おそらく自分を呼びに来たのであろうシエナの声がドアの向こうから聞こえる。
 アドリアンネは、ベルを二回鳴らす。
 すると、シエナがドアを開けて入ってきた。

「……リボンを直しますね」

 上から下までさっと見られた後、シエナが胸元のリボンを直し始める。

(シエナから見てもダメだったのね、やっぱり……)

 アドリアンネには少し甘いところがあるシエナは、大抵ならちょっとできなくても仕方ないですねで片づけるが、今回は人前にも出るからか、リボンはさりげなくダメ出しされてしまった。
 それが少し恥ずかしいような、悔しいような、複雑な感情がアドリアンネの心を支配していた。
 そして、すぐに完璧な結び目を見て、アドリアンネの目が余計に冷めてしまった。

「セルネス殿下がお迎えに来てくださっていますよ」

 それを聞いたアドリアンネは、セルネスを待たせるわけにはいかないという気持ちで、少し駆け足で部屋を出ていった。

「あれは……まだまだって感じですかねぇ……」

 それを見たシエナは、そう言いながらはぁとため息をついた。

◇◇◇

 アドリアンネが玄関のほうに向かうと、制服姿のセルネスがそこにいた。

(セルネス殿下は正装とあまり変わらないわね……)

 アドリアンネの来ている服と同じ白を基調としたスーツで、ネクタイが紺色。
 そして、ズボンが黒色だった。

「……どうしたの?アドリアンネ嬢」

 セルネスの質問にアドリアンネは首を横に振る。

「それじゃあ、学園に向かおうか」

 そう言って差し出してきたセルネスの手に自分の手を乗せて、アドリアンネは馬車へと乗り込んだ。
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