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幼少期
18 心通わす二人
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すっと起き上がったアドリアンネは、無意識に目を擦る。
(あっ……寝てしまっていたのね)
最初はぼやっとそう思っただけだった。
でも、意識がはっきりしてくると、アドリアンネは大事なことを思い出した。
(あっ、セルネス殿下が来るのに寝てしまったわ!)
せっかく時間を作って見舞いに来てくれただろうに、寝ていたなんて無礼にも程がある。
アドリアンネは、久しぶりにやらかしたと感じた。
(どうしよう……)
アドリアンネが焦っていると、ドアをノックする音が聞こえる。
その音に、アドリアンネはびくっと体を震わせた。
(あっ、ベルがないから合図ができない……)
そう思っていた不安をよそに、その人物は中へと入ってくる。
入ってきたのは、セルネスだった。その手には、花を抱えている。
「起きていたようですね」
セルネスの言葉に、アドリアンネは苦笑いしかできない。
(怒りは感じないけど、感情が隠れててわかりにくいわ)
そう思いながらアドリアンネがセルネスの様子をうかがうと、セルネスはくすくす笑い出す。
「怒っていませんのでご安心を。お体は大丈夫ですか?」
アドリアンネはこくこくと頷く。
「アドリアンネ嬢は、何か辛いことでもありましたか」
「……?」
急にそんなことを聞かれた理由がわからず、アドリアンネは首をかしげる。
「ずっと気になっていまして。アドリアンネ嬢が、やけに人目を気にしており、常に自分を仕舞いこんでいることが」
そう言いながら、アドリアンネの寝ているベッドの空いている場所に座る。
「なので、ある程度のことを調べて、だいたいの事情は知りました」
そう言われて、アドリアンネは体が震え始める。
(セルネス殿下も私から離れていくのかしら。誰だって傷つくのは怖いもの。仕方ないわよね……)
アドリアンネは今にも消え去りそうなくらいに小さくなっていく。
「その様子からすると、事実のようですね」
セルネスははぁと軽くため息をつく。
アドリアンネは、セルネスの顔が見れなくなっていた。
そのとき、何かがアドリアンネの頭に置かれる。アドリアンネが上を向くと、セルネスの右手がアドリアンネの頭へと置かれていた。
「勘違いしないでほしいのですが、別にあなたを恐れてはいません」
「……?」
「あなたは、その力を悪用しようとはしていないでしょう。ならば、私が恐れる理由はありません」
そう言われても、アドリアンネには信じられなかった。
悪用するつもりがなくても、誰もが巻き添えを恐れて距離を置く。
屋敷には、何十人も人がいるというのに、家族以外で距離を置かない存在は、片手で数えられるくらいしかいない。
そんな状態で十年も暮らしてきたのだから、いきなりそんなことを言われても信じられるはずがなかった。
「……信じられないと言うのなら、私……いや、僕の異能についても話そうか」
アドリアンネは、一瞬セルネスにも異能があったのかと驚いたが、思い返してみると、ミレージュからそのようなことを聞いた覚えがあった。
「僕の異能は、心眼と呼ばれるもの。一般的には、障害物越しの景色を見たり、死角と呼ばれる位置の後ろも見ることができるとされているんだ」
『一般的にはとは?』
「僕は、視界に入れている人物の心が読めるんだ。だから、嘘をついても僕には通用しない」
そう笑いながら、アドリアンネのことを見つめてくる。
心が読めると言われたその目から、アドリアンネはなせか目を反らせなかった。
「どう?考えていることが筒抜けになると知ると、本音を知られたくない者たちは僕から離れていったけど、アドリアンネ嬢もそうなのかな?」
そう聞いてきたセルネスに、アドリアンネは反射的に首を横に振る。
(人が離れていく辛さは私が一番わかっているつもりだもの。自分も同じことなんてできないわ)
そう考えながら、紙に書いていく。
『本音を知られるのはちょっと怖いですけど、だからって離れようとは思いません』
「そう。なら、僕も離れたりはしないから、そろそろ君の声を聞かせてほしい」
セルネスの言葉に、今度は別の意味で首を横に振る。
離れないと言われても、やはり言葉に出すのは怖いもの。その根本的な恐怖は簡単には消えそうにもない。
「まぁ、いきなりは無理だよね。ゆっくりでいいよ。でも、話すと決めたなら、一番に僕に聞かせてほしい」
そう微笑みながら言われたアドリアンネは、頬を赤く染めながら、静かに頷いた。
(あっ……寝てしまっていたのね)
最初はぼやっとそう思っただけだった。
でも、意識がはっきりしてくると、アドリアンネは大事なことを思い出した。
(あっ、セルネス殿下が来るのに寝てしまったわ!)
せっかく時間を作って見舞いに来てくれただろうに、寝ていたなんて無礼にも程がある。
アドリアンネは、久しぶりにやらかしたと感じた。
(どうしよう……)
アドリアンネが焦っていると、ドアをノックする音が聞こえる。
その音に、アドリアンネはびくっと体を震わせた。
(あっ、ベルがないから合図ができない……)
そう思っていた不安をよそに、その人物は中へと入ってくる。
入ってきたのは、セルネスだった。その手には、花を抱えている。
「起きていたようですね」
セルネスの言葉に、アドリアンネは苦笑いしかできない。
(怒りは感じないけど、感情が隠れててわかりにくいわ)
そう思いながらアドリアンネがセルネスの様子をうかがうと、セルネスはくすくす笑い出す。
「怒っていませんのでご安心を。お体は大丈夫ですか?」
アドリアンネはこくこくと頷く。
「アドリアンネ嬢は、何か辛いことでもありましたか」
「……?」
急にそんなことを聞かれた理由がわからず、アドリアンネは首をかしげる。
「ずっと気になっていまして。アドリアンネ嬢が、やけに人目を気にしており、常に自分を仕舞いこんでいることが」
そう言いながら、アドリアンネの寝ているベッドの空いている場所に座る。
「なので、ある程度のことを調べて、だいたいの事情は知りました」
そう言われて、アドリアンネは体が震え始める。
(セルネス殿下も私から離れていくのかしら。誰だって傷つくのは怖いもの。仕方ないわよね……)
アドリアンネは今にも消え去りそうなくらいに小さくなっていく。
「その様子からすると、事実のようですね」
セルネスははぁと軽くため息をつく。
アドリアンネは、セルネスの顔が見れなくなっていた。
そのとき、何かがアドリアンネの頭に置かれる。アドリアンネが上を向くと、セルネスの右手がアドリアンネの頭へと置かれていた。
「勘違いしないでほしいのですが、別にあなたを恐れてはいません」
「……?」
「あなたは、その力を悪用しようとはしていないでしょう。ならば、私が恐れる理由はありません」
そう言われても、アドリアンネには信じられなかった。
悪用するつもりがなくても、誰もが巻き添えを恐れて距離を置く。
屋敷には、何十人も人がいるというのに、家族以外で距離を置かない存在は、片手で数えられるくらいしかいない。
そんな状態で十年も暮らしてきたのだから、いきなりそんなことを言われても信じられるはずがなかった。
「……信じられないと言うのなら、私……いや、僕の異能についても話そうか」
アドリアンネは、一瞬セルネスにも異能があったのかと驚いたが、思い返してみると、ミレージュからそのようなことを聞いた覚えがあった。
「僕の異能は、心眼と呼ばれるもの。一般的には、障害物越しの景色を見たり、死角と呼ばれる位置の後ろも見ることができるとされているんだ」
『一般的にはとは?』
「僕は、視界に入れている人物の心が読めるんだ。だから、嘘をついても僕には通用しない」
そう笑いながら、アドリアンネのことを見つめてくる。
心が読めると言われたその目から、アドリアンネはなせか目を反らせなかった。
「どう?考えていることが筒抜けになると知ると、本音を知られたくない者たちは僕から離れていったけど、アドリアンネ嬢もそうなのかな?」
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「まぁ、いきなりは無理だよね。ゆっくりでいいよ。でも、話すと決めたなら、一番に僕に聞かせてほしい」
そう微笑みながら言われたアドリアンネは、頬を赤く染めながら、静かに頷いた。
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