13 / 61
十一、
しおりを挟む「あー・・おはよう?」
にこり、と。沖田は苦笑った。
(なぜ俺は、ここに?)
ぼやけている思考のなかを彷徨いつつ、沖田は枕がわりだった斎藤の白い太ももに視線を落とす。
その先で。己の手の下にあった斎藤のものが、肌蹴た裾の下、
覗く下帯に、かたちを成しているのを見た。
「・・・悪い。コレ、俺の手が原因か?」
もういちど苦笑いに逃げた沖田へ、斎藤の睨みが飛んでくる。
「・・何故ここで寝ていたのか、まず説明しろ・・・」
朝から紫にさせられた斎藤が、その背にゆらりと怒気をくねらせつつ。
耐えていた。
まだ場合によっては許してやろうと。
友を想う斎藤の寛容な努力が、当人の沖田にも、ひしひしと感じられる。
沖田は懸命に記憶の糸を辿った。
「・・・厠に行った」
思い出したのは、まずその事実。
「それから、戻ってきて、・・布団が冷えてた」
ぴく、と斎藤は眉を上げた。
沖田はポン、と手を打ち。
「寒かったからおまえの布団に入らせてもらった」
思い出すことに成功した沖田は、すっきりした表情で晴れやかに笑った。
「ちょっとくらい我慢してられんのか・・?」
布団くらいすぐに温まるだろうが、と斎藤の紫顔は呆れ顔にと変わり。
怒る気も失せたように、がばりと掛布団を被った。
沖田はすっきりしても斎藤のほうは全くもってすっきりしない。
収まるまで天井の目でも数えていようと斎藤は、いったん顔まで被った布団を少し、ずり下げた。
「なァ、斎藤、」
斎藤の現れた顔半分を見ながら、さすがの沖田も今度ばかりは済まなそうな声を出す。
「抜いちまえよ?」
「何?!」
続いたその言葉に斎藤はぎょっとした。
「土方さんの所でも俺は行ってっから」
そうだ、
と沖田は行李へ向かい。
「これ、貸すよ」
渡されたのは、色も鮮やかな冊子。
「おい、沖・・」
「じゃ」
済まねえな、と微笑い沖田は片手を上げると、出て行ってしまった。
「・・・」
手にした冊子をぱらり、と開く。
(!!)
視界に飛び込んできた淫ら極まる絵に、斎藤の神経は一瞬にして総立った。
(な、なんだこれは!?)
春画本ならば馴染み深い斎藤でも、今手にしているそれはもはや春画の域を越しており。
(こんなものが巷に出回ってるのか??)
拡大され描かれた接合部。濡れびたる男女が色彩鮮やかに戯れ、その交わりは細部に及ぶ文によって克明に描写され。
(・・沖田、あんたって奴は)
さらに頁をめくった斎藤は、瞬間、はっと息を呑んだ。
そこに描かれた一組の存在は、男女のそれではなく。
斎藤は食い入るように見つめた。
両膝をついた男の下。
高く掲げた腰を抱かれ、股をあられもなく開いた別の男の、
まるでこの世の快楽を一身に得たかのような恍惚とした表情。
ぐらり、と、
斎藤の中、何かが崩れた。
・・・今まで。
沖田と土方が恋仲で、そういう関係だと、頭では理解していても、
実際にふたりがどんな愛を交わすのか、斎藤には全く想像がつかなかった。
だが、今。斎藤の網膜には、確かな映像が与えられ。
『・・嗚呼、許してくれと云ふ』
溢れるような情景が、脳裏を走った。
『・・その卑猥な悲鳴に男、情欲を掻き立てらる。滴る菊の口へと、更に深深と突き入れば・・・』
(っ・・)
びくり、と斎藤の芯が震え、
咄嗟に急かすような感が込み上げた。
ぺらり、と頁をめくり。
『・・男は如何して欲しゐと、言ひ哂った・・』
己の猛ったものへと。
手を伸ばした。
『其れを呉れと涙を流し請ふ・・』
既に主張するその場所は己の手に触れ、硬く張り詰め。
ゆらりと。
(・・は・・っ・・あ・・)
『・・斎藤、』
掻き始めて。
『どうしてほしい』
鼓膜に蘇った沖田の声に、
『・・ほら、止めてもいいのか・・?』
(っ・・)
『斎藤』
掻き抜く速さを、増し。
いつも己を、
(おき・・)
道場の。あの幻の霧の中、
(沖田)
凍えた床へと叩き臥せ、
見下ろしてくる男の。
「・・・つ・・」
加虐的な、
「続け・・・」
その眼が、網膜に。
浮かんだ。
・・光の消えた、狂気を
奥に灯す、闇の眼は。
幾度も、
「は・・、・・っ・・」
斎藤を攫み。
『・・男はよく云ったと哂ふ、』
息を乱し斎藤は、喘ぐ。
『自ら両脚を開けば、男は待ってゐたとばかりに・・』
ゆっくりと、股を開いてゆき。
腰を浮かせ。掻き急ぎ。
手がぬるぬると濡れそぼり、指の隙間からそれは零れ。
「ぁ・・あ・・」
『・・奥へ突き入る感覚に堪らず嗚呼と、こゑをあげ・・』
突き上げてくる快楽に、
斎藤は背を仰け反らせた。
「う・・ぁあ・・っ・・・!」
ぱさり、と手から本が落ち。
「・・ぁ・・はぁ・・」
斎藤は、己の吐き出した精液を呆然と見つめた。
「はあ、はぁ、・・」
息を取り戻すために荒く呼吸を繰り返して、斎藤は。
網膜に残る沖田の闇の眼に、ぶるりと体を震わせた。
1
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?


目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる