二人静

幻夜

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十一、

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「あー・・おはよう?」

にこり、と。沖田は苦笑った。

(なぜ俺は、ここに?)

ぼやけている思考のなかを彷徨いつつ、沖田は枕がわりだった斎藤の白い太ももに視線を落とす。

その先で。己の手の下にあった斎藤のものが、肌蹴た裾の下、

覗く下帯に、かたちを成しているのを見た。

「・・・悪い。コレ、俺の手が原因か?」

もういちど苦笑いに逃げた沖田へ、斎藤の睨みが飛んでくる。

「・・何故ここで寝ていたのか、まず説明しろ・・・」

朝から紫にさせられた斎藤が、その背にゆらりと怒気をくねらせつつ。

耐えていた。

まだ場合によっては許してやろうと。

友を想う斎藤の寛容な努力が、当人の沖田にも、ひしひしと感じられる。

沖田は懸命に記憶の糸を辿った。

「・・・厠に行った」

思い出したのは、まずその事実。

「それから、戻ってきて、・・布団が冷えてた」

ぴく、と斎藤は眉を上げた。

沖田はポン、と手を打ち。

「寒かったからおまえの布団に入らせてもらった」

思い出すことに成功した沖田は、すっきりした表情で晴れやかに笑った。

「ちょっとくらい我慢してられんのか・・?」

布団くらいすぐに温まるだろうが、と斎藤の紫顔は呆れ顔にと変わり。

怒る気も失せたように、がばりと掛布団を被った。

沖田はすっきりしても斎藤のほうは全くもってすっきりしない。

収まるまで天井の目でも数えていようと斎藤は、いったん顔まで被った布団を少し、ずり下げた。

「なァ、斎藤、」

斎藤の現れた顔半分を見ながら、さすがの沖田も今度ばかりは済まなそうな声を出す。

「抜いちまえよ?」

「何?!」

続いたその言葉に斎藤はぎょっとした。

「土方さんの所でも俺は行ってっから」

そうだ、

と沖田は行李へ向かい。

「これ、貸すよ」

渡されたのは、色も鮮やかな冊子。

「おい、沖・・」

「じゃ」

済まねえな、と微笑い沖田は片手を上げると、出て行ってしまった。



「・・・」

手にした冊子をぱらり、と開く。

(!!)

視界に飛び込んできた淫ら極まる絵に、斎藤の神経は一瞬にして総立った。

(な、なんだこれは!?)

春画本ならば馴染み深い斎藤でも、今手にしているそれはもはや春画の域を越しており。

(こんなものが巷に出回ってるのか??)

拡大され描かれた接合部。濡れびたる男女が色彩鮮やかに戯れ、その交わりは細部に及ぶ文によって克明に描写され。

(・・沖田、あんたって奴は)

さらに頁をめくった斎藤は、瞬間、はっと息を呑んだ。

そこに描かれた一組の存在は、男女のそれではなく。

斎藤は食い入るように見つめた。

両膝をついた男の下。

高く掲げた腰を抱かれ、股をあられもなく開いた別の男の、

まるでこの世の快楽を一身に得たかのような恍惚とした表情。



ぐらり、と、

斎藤の中、何かが崩れた。

・・・今まで。

沖田と土方が恋仲で、そういう関係だと、頭では理解していても、

実際にふたりがどんな愛を交わすのか、斎藤には全く想像がつかなかった。

だが、今。斎藤の網膜には、確かな映像が与えられ。

『・・嗚呼、許してくれと云ふ』

溢れるような情景が、脳裏を走った。

『・・その卑猥な悲鳴に男、情欲を掻き立てらる。滴る菊の口へと、更に深深と突き入れば・・・』

(っ・・)

びくり、と斎藤の芯が震え、

咄嗟に急かすような感が込み上げた。

ぺらり、と頁をめくり。

『・・男は如何して欲しゐと、言ひ哂った・・』


己の猛ったものへと。

手を伸ばした。

『其れを呉れと涙を流し請ふ・・』

既に主張するその場所は己の手に触れ、硬く張り詰め。

ゆらりと。

(・・は・・っ・・あ・・)

『・・斎藤、』

掻き始めて。

『どうしてほしい』

鼓膜に蘇った沖田の声に、

『・・ほら、止めてもいいのか・・?』

(っ・・)

『斎藤』

掻き抜く速さを、増し。

いつも己を、

(おき・・)

道場の。あの幻の霧の中、

(沖田)

凍えた床へと叩き臥せ、

見下ろしてくる男の。

「・・・つ・・」

加虐的な、

「続け・・・」

その眼が、網膜に。

浮かんだ。

・・光の消えた、狂気を

奥に灯す、闇の眼は。

幾度も、

「は・・、・・っ・・」

斎藤を攫み。

『・・男はよく云ったと哂ふ、』

息を乱し斎藤は、喘ぐ。

『自ら両脚を開けば、男は待ってゐたとばかりに・・』

ゆっくりと、股を開いてゆき。

腰を浮かせ。掻き急ぎ。

手がぬるぬると濡れそぼり、指の隙間からそれは零れ。

「ぁ・・あ・・」

『・・奥へ突き入る感覚に堪らず嗚呼と、こゑをあげ・・』


突き上げてくる快楽に、

斎藤は背を仰け反らせた。


「う・・ぁあ・・っ・・・!」



ぱさり、と手から本が落ち。



「・・ぁ・・はぁ・・」


斎藤は、己の吐き出した精液を呆然と見つめた。

「はあ、はぁ、・・」

息を取り戻すために荒く呼吸を繰り返して、斎藤は。

網膜に残る沖田の闇の眼に、ぶるりと体を震わせた。








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