一途な獣は愛にこそ跪く

野中にんぎょ

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おれはここにいる

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 北山組総本部の奥には供養塔が建ててあり、そこには組のために命を懸けた男たちが眠っている。ブラックフォーマルに身を包んだ慈雨と静は塔の前に立ち手を合わせた。
「いつ見ても綺麗にしてあるな」
 打ち水し、花立に新しい花を差す。水鉢に水を注ぎ酒と煙草を供えると、静が線香を差し出してくれた。線香を上げ、二人はもう一度合掌した。
「望のことだ、あの世でじいちゃんを待ち構えているだろうな」
「地獄の鬼にまで睨みを効かせていそうだ」
「有能だから閻魔様にスカウトされて働かされているかも」
「……望さんは優秀な若頭だった」
 全焼した倉庫の跡地からは、何一つ出て来なかった。自らを焼き払い、二人は跡形もなくこの世から姿を消してしまった。
「別の場所に辿り着いたかもしれないけど、向こうで三人が出会えることがあったらいいな」
「梢は嫉妬深いから、悟さんは困っているだろう」
「キャットファイトならぬドッグファイトだな」
 静がおもむろに胸元から何かを取り出す。それは鈍色に光る銃弾だった。
「梢がおれの肩に撃ち込んだ銃弾だ。ここはヒトの供養塔だが、一匹イヌが紛れ込んだところで誰も気にしないだろう」
「……悟さんが上手くフォローしてくれるよ」
 煙草の隣に銃弾を置き、静はいつものように口端を引きつらせて笑った。
「初仕事が待ってる。行こう、静」
 慈雨は静の左手を引いた。
 山間に位置するこの場所は風が強い。慈雨は階段の途中で立ち止まり、静の髪からほどけた一束を直してやった。背伸びをした足元のまま腰を引きつけられ、慈雨は咄嗟に静の胸に手をついた。眼差しと眼差しが、心と心が、一本の糸で結ばれているように引きつけ合う。慈雨は静に求められるがまま、口端から走った傷に口づけた。
「地獄でも、天国でも、この世でも、傍にいて」
 強い向かい風が深い口づけを交わす二人に吹き付ける。……けれど二人は離れなかった。
 静の左手が慈雨の温みを確かめようと時折動く。慈雨はそのたびに静の手を握り返した。おれはここにいる。そういう言葉に、代えて。

【終】
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