18 / 18
おれはここにいる
しおりを挟む
北山組総本部の奥には供養塔が建ててあり、そこには組のために命を懸けた男たちが眠っている。ブラックフォーマルに身を包んだ慈雨と静は塔の前に立ち手を合わせた。
「いつ見ても綺麗にしてあるな」
打ち水し、花立に新しい花を差す。水鉢に水を注ぎ酒と煙草を供えると、静が線香を差し出してくれた。線香を上げ、二人はもう一度合掌した。
「望のことだ、あの世でじいちゃんを待ち構えているだろうな」
「地獄の鬼にまで睨みを効かせていそうだ」
「有能だから閻魔様にスカウトされて働かされているかも」
「……望さんは優秀な若頭だった」
全焼した倉庫の跡地からは、何一つ出て来なかった。自らを焼き払い、二人は跡形もなくこの世から姿を消してしまった。
「別の場所に辿り着いたかもしれないけど、向こうで三人が出会えることがあったらいいな」
「梢は嫉妬深いから、悟さんは困っているだろう」
「キャットファイトならぬドッグファイトだな」
静がおもむろに胸元から何かを取り出す。それは鈍色に光る銃弾だった。
「梢がおれの肩に撃ち込んだ銃弾だ。ここはヒトの供養塔だが、一匹イヌが紛れ込んだところで誰も気にしないだろう」
「……悟さんが上手くフォローしてくれるよ」
煙草の隣に銃弾を置き、静はいつものように口端を引きつらせて笑った。
「初仕事が待ってる。行こう、静」
慈雨は静の左手を引いた。
山間に位置するこの場所は風が強い。慈雨は階段の途中で立ち止まり、静の髪からほどけた一束を直してやった。背伸びをした足元のまま腰を引きつけられ、慈雨は咄嗟に静の胸に手をついた。眼差しと眼差しが、心と心が、一本の糸で結ばれているように引きつけ合う。慈雨は静に求められるがまま、口端から走った傷に口づけた。
「地獄でも、天国でも、この世でも、傍にいて」
強い向かい風が深い口づけを交わす二人に吹き付ける。……けれど二人は離れなかった。
静の左手が慈雨の温みを確かめようと時折動く。慈雨はそのたびに静の手を握り返した。おれはここにいる。そういう言葉に、代えて。
【終】
「いつ見ても綺麗にしてあるな」
打ち水し、花立に新しい花を差す。水鉢に水を注ぎ酒と煙草を供えると、静が線香を差し出してくれた。線香を上げ、二人はもう一度合掌した。
「望のことだ、あの世でじいちゃんを待ち構えているだろうな」
「地獄の鬼にまで睨みを効かせていそうだ」
「有能だから閻魔様にスカウトされて働かされているかも」
「……望さんは優秀な若頭だった」
全焼した倉庫の跡地からは、何一つ出て来なかった。自らを焼き払い、二人は跡形もなくこの世から姿を消してしまった。
「別の場所に辿り着いたかもしれないけど、向こうで三人が出会えることがあったらいいな」
「梢は嫉妬深いから、悟さんは困っているだろう」
「キャットファイトならぬドッグファイトだな」
静がおもむろに胸元から何かを取り出す。それは鈍色に光る銃弾だった。
「梢がおれの肩に撃ち込んだ銃弾だ。ここはヒトの供養塔だが、一匹イヌが紛れ込んだところで誰も気にしないだろう」
「……悟さんが上手くフォローしてくれるよ」
煙草の隣に銃弾を置き、静はいつものように口端を引きつらせて笑った。
「初仕事が待ってる。行こう、静」
慈雨は静の左手を引いた。
山間に位置するこの場所は風が強い。慈雨は階段の途中で立ち止まり、静の髪からほどけた一束を直してやった。背伸びをした足元のまま腰を引きつけられ、慈雨は咄嗟に静の胸に手をついた。眼差しと眼差しが、心と心が、一本の糸で結ばれているように引きつけ合う。慈雨は静に求められるがまま、口端から走った傷に口づけた。
「地獄でも、天国でも、この世でも、傍にいて」
強い向かい風が深い口づけを交わす二人に吹き付ける。……けれど二人は離れなかった。
静の左手が慈雨の温みを確かめようと時折動く。慈雨はそのたびに静の手を握り返した。おれはここにいる。そういう言葉に、代えて。
【終】
24
お気に入りに追加
83
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる