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第4章 神の領域
誕生祭
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彼らが『エリトラ』から出立して、数日。『誕生祭』の前日に『エアテール』まで彼らは戻って来た。深夜遅くにも関わらず、領域には様々な奉仕種族が『誕生祭』のための飾りつけを行っていた。既に領域内は花飾りや彫刻などの調度品で装飾を施されている。それを横目に四人はライトの神殿にさっさと帰り、そのまま眠る事にした。
翌日早朝。ルーグは早起きをしてクリスタルをモーニングティーで釣って起こす。普段のモーニングティーとは違う、だが優しい香りがする。
「クリスタル。今日は身支度があるから、早く起きてくれ。」
「んむー……。」
「風呂に入って肌や髪の手入れもしないといけないんだ。さっさと起きてくれ。」
「んー……。しょうがないな。」
クリスタルを風呂に誘導し、ルーグ自身も別の風呂に入る。そして軽く身支度を済ませ、クリスタルが風呂から上がった後の準備を始める。美容液やボディクリーム、香水や化粧品などの準備をしていると、1時間ほどでクリスタルが風呂から出てくる。
「ちょっと風呂で寝てたわ。」
「それ本気で止めてくれ! 溺れるだろ!」
そんな会話をしながら、クリスタルの肌の手入れから始め、身支度を済ませていく。今回は正式な祭典の外賓のため、おざなりな恰好では出席できない。クリスタルも普段なら嫌がる化粧をする。その間にルーグはクリスタルの髪の毛を手入れし、サイドで纏めて飾りをつける。
「俺はこれで準備できたな。後はお前か。」
「直ぐに準備できるから、ちょっと待ってろ。」
ルーグも着ようとしていた衣装に身を包み、髪の手入れとセットを行う。衣装はクリスタルと揃いではあるが、今回もクリスタルよりも目立たないデザインである。
「さて、会場へ行こうか、国王様。」
「へいへい、側近殿。」
クリスタルは差し出されたルーグの手をとり、二人で祭典会場に向かうのであった。
__________
「皆、今日は『誕生祭』に集まってくれて、本当にありがとうございます。『誕生祭』のメインは昼過ぎに行われます。それまでごゆっくり!」
ライトの宣言により、『誕生祭』が開催される。現在は昼時である。あちらこちらで果物をメインとした料理が並ぶ。クリスタルとルーグ、そしてレフトは外賓席に座り、談笑を始める。
「お、このバナナを乗っけて焼いたパン、美味しいな。」
「ルーグ、貴方またパン食べてルの? 他のも食べたラどうなのよ?」
「旨いからな、仕方ない。」
ルーグとレフトのコントを聞きつつ、クリスタルが席を立ちライトの方へ向かう。
「よう、今回は『豊作』だな。」
「うん! 沢山『生まれてくる』よ!」
二人は会場の後ろにある、巨大な果実が幾つも生っている巨木を見上げる。その果実はパステルカラーの果実ばかりで、どれも少しだけ動いている。
「この中からお前の『奉仕種族』が生まれるんだったっけか。」
「そうそう。この果物の数だけ生まれるから、今年は『豊作』って訳!」
「昼過ぎに生まれるんだったか? また『アレ』が見られるのは良いモンだな。」
「フフッ、楽しみにね!」
宴は進み、真上にあった日は少し傾き始める。それを見計らってライトが再び会場の皆に宣言を行う。
「それでは時間になりましたので、これから『誕生祭の儀式』を行います! 皆、大きな樹の方をご覧ください!」
見やればどの果物も動きを増している。それを見つつ、ライトは杖を持ち出し『神力』を使う。
「我が眷属よ、今ここに我が魂を分け与えん……!」
祝詞の様なものを唱えれば、持っている杖から白い光が天へ向けて放たれる。光は千々に分かれ、巨大な果物へ吸い込まれるように入っていく。それと同時に果物が落下する。果物の下で待ち構えていたライトの奉仕種族達が、それを受け止める。
程なくして、受け止められた果物の中身が見え始める。中には『小さな奉仕種族』が、胎児の様なポーズで眠っていた。動物の姿をした、『生まれたての奉仕種族』達は目を開ける。そして果物から出され、彼らは『先輩の奉仕種族』に優しく抱き上げられる。小さな彼らに向けて、ライトが笑顔で話しかける。
「生まれてきてくれてありがとう! 僕はライルート。君たちの神様だよ! よろしくね!」
『君たちの神様』。その単語の意味が本能的に理解出来たのだろう、生まれたての彼らは出来る範囲で頭を下げる。それを微笑ましく見るライトと先輩の奉仕種族。こうして、『誕生祭』は終わりを迎えたのであった。
__________
『誕生祭』の後、四人はライトの自室で酒盛りをしていた。
「今年、総勢148人生まれたんだって? 結構な数じゃないか?」
「そうなんだよ! 近年では本当に多い数だよ!」
「って事は、名前つけるの大変だよな。奉仕種族の名前、全部お前一人でつけてるんだろ?」
「まあね! でもそれも楽しみなんだ!」
ライトが「どんな名前にしようかな」とクスリと笑う。そんな風に談笑していると、突然小さなノックの音が聞こえる。
「誰? 入ってきていいよ!」
ライトが許可を出すと、小さな奉仕種族がよたよたと入ってくる。今日生まれたばかりの奉仕種族だろう。
「かみさま……? わたくしの、かみさまはどなた……?」
たどたどしく話す奉仕種族は、見た目は白い鷹の様な姿ではあるが、翼はない。ライトが奉仕種族に目線を合わせて、優しく微笑んで話しかける。
「僕だよ。君の神様は僕なんだ。よろしくね?」
「……はい、かみさま!」
奉仕種族はライトに抱き着き、頬ずりをする。そんな奉仕種族を抱き上げ、ライトは優しく頭を撫でる。
「君にもお名前つけなきゃね。何がいいかな?」
「『おなまえ』?」
「そう、お名前。君と他の子を区別するための、僕からの大事な贈り物だよ。早く考えなきゃね。」
「おなまえ、ほしいです!」
「フフッ、そうだね! 何か良い名前はあるかな?」
そんなやり取りを見て、クリスタル達が提案する。
「何かにまつわる名前はどうだ?」
「他の世界の言葉を名付けるのもいいよな。」
「なラ、他の世界で使わレていル名前はどうかシラ?」
「そうだね、どれもいいなぁ……。」
暫く悩んだ末に、ライトが「あ!」と言い出す。
「『エルダ』はどうかな? 他の世界の言葉で『信仰する者』の意味があったはず!」
「『信仰心が強い』って事で、いいんじゃないか? 夜中にここまで一人で来ちまうくらい、信仰心がある訳だし。」
「いいじゃない! 『エルダ』、素敵じゃない!」
「君はこのお名前、気に入ってくれるかな?」
ライトは腕の中の小さな奉仕種族に問いかける。
「はい! おなまえくれて、ありがとうございます!」
『エルダ』は、輝かしい笑顔でそう答えた。
翌日早朝。ルーグは早起きをしてクリスタルをモーニングティーで釣って起こす。普段のモーニングティーとは違う、だが優しい香りがする。
「クリスタル。今日は身支度があるから、早く起きてくれ。」
「んむー……。」
「風呂に入って肌や髪の手入れもしないといけないんだ。さっさと起きてくれ。」
「んー……。しょうがないな。」
クリスタルを風呂に誘導し、ルーグ自身も別の風呂に入る。そして軽く身支度を済ませ、クリスタルが風呂から上がった後の準備を始める。美容液やボディクリーム、香水や化粧品などの準備をしていると、1時間ほどでクリスタルが風呂から出てくる。
「ちょっと風呂で寝てたわ。」
「それ本気で止めてくれ! 溺れるだろ!」
そんな会話をしながら、クリスタルの肌の手入れから始め、身支度を済ませていく。今回は正式な祭典の外賓のため、おざなりな恰好では出席できない。クリスタルも普段なら嫌がる化粧をする。その間にルーグはクリスタルの髪の毛を手入れし、サイドで纏めて飾りをつける。
「俺はこれで準備できたな。後はお前か。」
「直ぐに準備できるから、ちょっと待ってろ。」
ルーグも着ようとしていた衣装に身を包み、髪の手入れとセットを行う。衣装はクリスタルと揃いではあるが、今回もクリスタルよりも目立たないデザインである。
「さて、会場へ行こうか、国王様。」
「へいへい、側近殿。」
クリスタルは差し出されたルーグの手をとり、二人で祭典会場に向かうのであった。
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「皆、今日は『誕生祭』に集まってくれて、本当にありがとうございます。『誕生祭』のメインは昼過ぎに行われます。それまでごゆっくり!」
ライトの宣言により、『誕生祭』が開催される。現在は昼時である。あちらこちらで果物をメインとした料理が並ぶ。クリスタルとルーグ、そしてレフトは外賓席に座り、談笑を始める。
「お、このバナナを乗っけて焼いたパン、美味しいな。」
「ルーグ、貴方またパン食べてルの? 他のも食べたラどうなのよ?」
「旨いからな、仕方ない。」
ルーグとレフトのコントを聞きつつ、クリスタルが席を立ちライトの方へ向かう。
「よう、今回は『豊作』だな。」
「うん! 沢山『生まれてくる』よ!」
二人は会場の後ろにある、巨大な果実が幾つも生っている巨木を見上げる。その果実はパステルカラーの果実ばかりで、どれも少しだけ動いている。
「この中からお前の『奉仕種族』が生まれるんだったっけか。」
「そうそう。この果物の数だけ生まれるから、今年は『豊作』って訳!」
「昼過ぎに生まれるんだったか? また『アレ』が見られるのは良いモンだな。」
「フフッ、楽しみにね!」
宴は進み、真上にあった日は少し傾き始める。それを見計らってライトが再び会場の皆に宣言を行う。
「それでは時間になりましたので、これから『誕生祭の儀式』を行います! 皆、大きな樹の方をご覧ください!」
見やればどの果物も動きを増している。それを見つつ、ライトは杖を持ち出し『神力』を使う。
「我が眷属よ、今ここに我が魂を分け与えん……!」
祝詞の様なものを唱えれば、持っている杖から白い光が天へ向けて放たれる。光は千々に分かれ、巨大な果物へ吸い込まれるように入っていく。それと同時に果物が落下する。果物の下で待ち構えていたライトの奉仕種族達が、それを受け止める。
程なくして、受け止められた果物の中身が見え始める。中には『小さな奉仕種族』が、胎児の様なポーズで眠っていた。動物の姿をした、『生まれたての奉仕種族』達は目を開ける。そして果物から出され、彼らは『先輩の奉仕種族』に優しく抱き上げられる。小さな彼らに向けて、ライトが笑顔で話しかける。
「生まれてきてくれてありがとう! 僕はライルート。君たちの神様だよ! よろしくね!」
『君たちの神様』。その単語の意味が本能的に理解出来たのだろう、生まれたての彼らは出来る範囲で頭を下げる。それを微笑ましく見るライトと先輩の奉仕種族。こうして、『誕生祭』は終わりを迎えたのであった。
__________
『誕生祭』の後、四人はライトの自室で酒盛りをしていた。
「今年、総勢148人生まれたんだって? 結構な数じゃないか?」
「そうなんだよ! 近年では本当に多い数だよ!」
「って事は、名前つけるの大変だよな。奉仕種族の名前、全部お前一人でつけてるんだろ?」
「まあね! でもそれも楽しみなんだ!」
ライトが「どんな名前にしようかな」とクスリと笑う。そんな風に談笑していると、突然小さなノックの音が聞こえる。
「誰? 入ってきていいよ!」
ライトが許可を出すと、小さな奉仕種族がよたよたと入ってくる。今日生まれたばかりの奉仕種族だろう。
「かみさま……? わたくしの、かみさまはどなた……?」
たどたどしく話す奉仕種族は、見た目は白い鷹の様な姿ではあるが、翼はない。ライトが奉仕種族に目線を合わせて、優しく微笑んで話しかける。
「僕だよ。君の神様は僕なんだ。よろしくね?」
「……はい、かみさま!」
奉仕種族はライトに抱き着き、頬ずりをする。そんな奉仕種族を抱き上げ、ライトは優しく頭を撫でる。
「君にもお名前つけなきゃね。何がいいかな?」
「『おなまえ』?」
「そう、お名前。君と他の子を区別するための、僕からの大事な贈り物だよ。早く考えなきゃね。」
「おなまえ、ほしいです!」
「フフッ、そうだね! 何か良い名前はあるかな?」
そんなやり取りを見て、クリスタル達が提案する。
「何かにまつわる名前はどうだ?」
「他の世界の言葉を名付けるのもいいよな。」
「なラ、他の世界で使わレていル名前はどうかシラ?」
「そうだね、どれもいいなぁ……。」
暫く悩んだ末に、ライトが「あ!」と言い出す。
「『エルダ』はどうかな? 他の世界の言葉で『信仰する者』の意味があったはず!」
「『信仰心が強い』って事で、いいんじゃないか? 夜中にここまで一人で来ちまうくらい、信仰心がある訳だし。」
「いいじゃない! 『エルダ』、素敵じゃない!」
「君はこのお名前、気に入ってくれるかな?」
ライトは腕の中の小さな奉仕種族に問いかける。
「はい! おなまえくれて、ありがとうございます!」
『エルダ』は、輝かしい笑顔でそう答えた。
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