Crystal Asiro【クリスタルアシロ】

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第3章 国際首脳会議

首脳会談~バーベキューを添えて~

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 会議の翌日。城から大きく外れた位置にある大森林。森は涼し気な風が吹き、爽やかな印象を受ける。野生の生き物が多く住まい、あちこちから「チチチ……」と鳴き声が聞こえる。やって来た侵入者から逃げるように、忙しなく小動物が動き回っている。

 ザク、ザクと4人分の足音が響く。それに伴い軽く荷物と衣服の擦れる音もする。クリスタルとルーグ、そして創造神ライトと破壊神レフトは開けた場所にたどり着く。料理長から受け取った食材を置き、クリスタルが宣言する。

「ここをキャンプ地……じゃない、バーベキュー会場とする!」

「待ってまシたぁ!」

「開けてるから、火事になりにくくていいな。」

「ねぇ、動物狩りはしなくて良くない?」

 狩りをする事に喜んでいるレフト。有事の際の心配が減ったルーグ。狩りに反対ぎみのライト。反応はそれぞれだが、バーベキュー会場にするのには文句はないようだ。クリスタルがライトの文句に答える。

「狩りたての肉は旨いから仕方ないな! それに、ちょっと鹿が多いんだ。数頭狩っても問題はない。」

「うーん、まぁ、それならまだいいけれども、無暗に狩りすぎないようにね?鹿が可哀そうだもの。」

 生態系に影響が出ると分かり、一先ず納得するライト。その表情からは、納得しきってはいない事が分かるが。話を聞いたレフトは、身の丈ほどの大鎌を担いで走り出す。それに着いて行くクリスタル。片手には剣を持っている。

「じゃあ2頭程狩ラセてもラうわよ? 行ってきまーす!」

「あ、俺も狩りに行くわ。行ってくる。」

「行ってらっしゃい。ライト、俺達は下準備でもするか。」

 女性達は早速狩りに出かけてしまったため、男性達で準備をする事にした。

 ___________

 ルーグとライトはまず火おこしをする事に。しかし、バーベキューセットは荷物にはない。それでも男性達が平然としているのには理由がある。

「ライト、バーベキューセット『創る』のを『頼む』。」

「了解! ちょっと待ってね!」

 そう軽く言うと、ライトは何もない場所に右手をかざす。その手から淡い光を放ったその刹那、先ほどまで何もなかった場所に『バーベキューセット』が現れる。

「こんな感じで『創って』みたよ! 大きさ足りるかな?」

「大丈夫じゃないか? ありがとうな。」

「フフッ、お安い御用だよ、ルーグ!」

 そう言って笑うライト。早速火を起こしつつ、二人は談笑する。

「だが、お前のその『創造の力』は便利だよな。『神頼みすれば創れる』し『自分の創りたいモノも創れる』んだろ?」

  炭に火を入れ、うちわであおぎつつルーグはライトに話しかける。

「制約はあるけどもね。」

 ライトも一緒になってうちわで火を起こしている。

「僕は『創造神』。『神』という種族だから『神頼み事をされて初めて相手の望むモノを創れる』。僕自身が欲しいものは、創るのちょっと遅いし疲れちゃうんだ。」

 「それに、」とライトは続ける。火力が少しづつ上がってくる。

「『何かを創る』なら、破壊神であるレフトに『同じだけの価値・素材のモノを壊して貰わないといけない』。その制約がないと、世界がめちゃくちゃになるから。後でバーベキューセットの対価、消して貰わないとね。」

 ちょっと困った風に笑うライト。ルーグもつられて同じ顔をする。

「ま、等価交換だよな。普通モノ作るのだってそうなんだからさ。お前達は作る工程を無視できるだけ凄いと思うぞ。」

「ありがと! でも、ルーグの『能力』も大概だと思うよ?」

「その『時間操作』のせいで、厄介な仕事入ってくるんだがな。それはクリスタルもそうだが。」

「お疲れ様。火起こしはもう大丈夫そうだね! お野菜切ろう!」

 火おこしが終わった男性達は、ライトが創ったバーベキューセットの中にあるテーブルを組み立て、のんびりと調理の支度をするのであった。

 ___________

 一方その頃のクリスタルとレフトは、

「レフト! 鹿そっち行ったぞ!狩れ!」

「任セなサい!!」

 本日4頭目となる鹿の首を刎はねていた。声も出さずに倒れる鹿の倒れる音に、小鳥達やリス達が逃げ出す。獲物を両脇に抱えた女性二人は、バーベキュー会場に戻りつつ談笑する。

「とこロで大分前遊びに来た時、クリスタル達何か悩んでいたわよね? 何かあったの?」

「お前、ここが『様々な差別及び贔屓を厳禁としている』事は知ってるよな? それの対策練ってた。それと『小麦の農薬を何とかしよう問題』があるんだ。質が悪くなってな。」

 クリスタルの言葉に、レフトが鹿の血抜きをしつつ言う。

「前者はアタシ達には関係ないけど、小麦の農薬なラ、ライトと取引シたラ?あの人の治めてル領域、農作物大国よ?アタシの所は農作物系は管轄外だかラ無理だけど。」

「……それいいな。ライトの治める領域ならば、質は間違いない。」

 話に上がった『ライト』、そして話を出した『レフト』の二柱。彼らはそれぞれ異世界『神の世界』にて、それぞれ国を治める『国王のような立場』である。しかも、クリスタルにとってはライトもレフトも友人である。

『信頼関係が既にある相手と、新しい取引が出来る可能性がある。』

これはとても魅力的だ。

「さっさと戻るぞ。ライトと交渉しないとな。」

「バーベキューシながラ?」

「いいだろう?」

 レフトの茶化しに、クリスタルも乗る。二人は嬉々として、バーベキュー会場に戻っていく。遠くで煙の匂いが漂っている。

 ___________

「やっぱリ狩リたての肉は美味シいわね!」

「酒持ってくればよかったな。刺身にした鹿肉が旨い。」

「お前ら、野菜も食べてくれ。せっかく焼いたんだからさ。」

「皆ごめんね。焼いてたお野菜、半分くらい僕だけで食べちゃった……。」

 皆でそれぞれ食べたいものを食べつつ食事をする。久しぶりに『国の代表として』ではなく『親しい友人として』集まってのバーベキューは格別である。

「ライト、今お前に『ワイン創って』って頼んだら、何が対価で消える?」

 クリスタルの頼み事の質問に、ライトは眉を下げて答える。

「君の舌を満足させるワインを『創る』なら、今年のこの国のブドウは不作になるね。」

「え? 不作にシちゃう? アタシ頑張っちゃうわよ? ソうソう、バーベキューセットの対価、消シてなかったわね。今消シちゃうわ。」

 今度はレフトが地面に向かって左手をかざす。黒い光を手から放ち、何やら鉱石やら黒い油が現れ、その光に吸い込まれる様に消えていった。

「対価とシて、石油と鉱石を少し無くシたわ。で、ワインはどうスルの?」

「いや、また今度にしよう、城にもワインセラーあるしな。それよりライト、今ちょっといいか? お前の国から欲しい品があるんだが、今その話をしていいか?」

「え? なぁに?」

「お前の国、作物に強い取引しているだろ? 小麦の農薬か、無農薬で質の高い小麦の品種が欲しい。取り引きしたいんだが。」

 クリスタルの『商談』に、ライトが一度箸を止めて人差し指を顎に当てて考える。

「そうだねぇ、安価に取引するなら農薬がオススメかな。無農薬のもあるけど、僕の国のブランド品だから、譲るなら高くなっちゃうよ?」

「そうか、なら農薬をくれ。代わりにそっちからの要望あるか?」

 クリスタルの言葉に、ライトは「確か何かあったんだよね……。」と顎に手を当てて思い出そうとする。



「えーと、何だったかな、……あ! 乳牛が足りなくなりそうなんだ! どうかな?」

「本体だと輸出すると俺の国でも足りなくなるから、頭数増やすのに数年待ってもらう事になる。予め増やすためにコーンとかの農作物が先に欲しい。」

「それなら繁殖後確約で先行売買させてほしいな。こっちでも繁殖しているから、具体的な頭数は今年の繁殖の様子を見て決めさせて!」

「了解。じゃあ城に戻ったら取引の契約書書くか。」

「わかった!」

 真面目な取引の話は直ぐに終わる。大事な問題は片付けられそうだ。そんな国のトップと神の会談を、バーベキューしながら眺めるルーグとレフト。

「凄いシュールな首脳会談だな。大森林の中で行われる首脳会談、ってどんな状況だよ。」

「ソもソも首脳会談なんてやル予定じゃなかったかラ、仕方ないじゃない。焼けていル最後の肉、貰ってくわねー。」

「まだ肉あるから食べてくれ。というか、首脳会談の横で普通にバーベキューやってる俺達も俺達だがな。」

「仕方ないわ。バーベキュー美味シいもの。」

「そして俺の担当だった『小麦農薬問題』の残った仕事が『取り引き先との交渉解除』くらいしか大きな仕事がなくなった。」

「だったラ、クリスタルの仕事手伝えば良くて?」

「側近やっている段階で仕事手伝ってるっつーの。」

 バーベキューをして会話をしつつ、クリスタルご希望のドラゴンの肉が焼ける。

「ドラ肉焼けたぞ。食べる奴は食べろー。」

「俺、食う。半分食う。」

「アタシも食べル!」

「リーフレタスあるから、それにお肉包んで食べてみて! さっぱりするんじゃないかな?」

 その言葉にクリスタルが反応し、ライトの肩を掴んで言う。

「お前、リーフレタス持って来てるとか、なんで最高なことする?」

「ねぇ、今僕褒められてる?」

「褒められてるな。見た目は怒られてるけど。」

「クリスタルって、よく褒めてルのか貶シてルのか分かラない事スルわよね。」

「それより早くリーフレタスをこっちに寄こすんだ! 食べたい!」

「フフッ、もうちゃんと用意してあるよ! お食べ!」

 リーフレタスに肉を挟み、食べる者がいたり。そのまま肉を食べる者がいたり。リーフレタスをそのまま食べる者がいたり。ひたすら肉を焼く者がいたり。そうして首脳会談を兼ねた彼らの食事会は、大森林の中で終始バーベキューの匂いに包まれていた。
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