Crystal Asiro【クリスタルアシロ】

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SS 『とある世界』での旅

『知能』のないモノ

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 機械だらけの国に来た次の日。二人は『学習研究所』へ見学に来ていた。施設の案内係のアンドロイドが笑顔で応対する。

「ようこそいらっしゃいませ! ご見学の方でしょうか?」

「そうです。大人二名なのですが、見学料金は幾らでしょうか?」

「無料でございますので、お支払いはございません。こちらへどうぞ。」

「わかった。じゃあ早速見学させて貰おうか。」

 二人は案内係の案内で施設内に進んでいく。最初に見せて貰ったものは、所謂いわゆる『教室』である。多くの人間と数体のアンドロイドが、頭に天井から太い電線の様な物がついたヘルメットを被っている。皆椅子に座り机の資料を見て、何やらノートに記入をしている。案内係は二人に向き直り解説をする。

「ここは『学習室』でございます。頭の機械によって学習の理解度を測定し、出題している問題の難易度の調整を行っております。ここの学習室に居るのは、中級程度の問題を解いている者達です。まだ『住民権』を得るまで時間がかかるでしょう。」
「どの程度の問題なんだ?」
「知能指数が110程度の問題です。上級問題は知能指数140の問題を解くことになりますので、ここの知能指数テストで満点を取らねば話になりません。」

 二人の国の基準としては、かなり高度な問題を解かされているようだ。クリスタルはその解説に対して、何気なく言う。

「その程度の問題なのか? もっと知能指数を刻んで知能指数120の問題を出せばどうなんだ?」

「その加減を、ここでは研究しております。やはり人間の合格者が少ないので、どのような工夫を行えば良いかを日々試行錯誤しております。」

「……他所の世界では、知能指数110でもまあまあだがな?」

 次に案内をされたのは、個室で区切られたスペースだ。多くのアンドロイドに、少数の人間が何かパネルに記入をしている。アンドロイド達の手は殆ど止まらないが、人間達の手は止まっている事が多い。

「ここでは今『知能認定試験』を行っています。ここで合格して初めて『住民権』を得られます。合格ラインは90点。狭き門ですが、これも国の秩序を守るためです。かく言う私もここで合格をして、こうして案内役を行っております。」

「出題難易度は俺達が入国時に受けたモノだろうが、旅人はそうそう合格しないだろう。合格しなかった旅人には何か制限があるのか?」

 案内係は頷く。

「左様でございます。旅の方で合格しない方は、入国から出国までの間担当の者が付き添いサポートします。『認定証』が無い場合、立ち入れない建物もございます。お二人は『認定証』がございますので、ご自由に国を見て回る事が出来るのです。」

「それは何よりです。俺達は好きな様にいろんな場所を見て回るのが好きなので、他の誰かが常にいるとなると落ち着かなくて。」

「そうでしたか。『認定証』試験合格して何よりでございます。では次の場所へ向かいましょう。」


 暫く歩き、たどり着いた場所は。

 「ここが『低知能者保管室』です。」

 多数の人間が一か所に集められた場所。

「出してくれ!! もう嫌だ!!」
 壁を壊そうと殴る者。

「どうして、どうして住民として生きられないの……?」
 隅でうずくまる者。

「……。」
 虚空を見上げる者。

「お願い! もう出して! 私は学習が嫌なの!!」
 泣き叫ぶ者。


 様々な『人間』が『保管』されている光景。そこにアンドロイドの姿はない。案内係が説明を始める。

「ここでは『低知能』判定となった者が集まっています。この国では誕生・製造されてから『住民候補』は脳に直接電気を流すことによって学習を行います。一定年齢を過ぎ『知能測定試験』を受け、『低知能』とされた者がここに集められ、時間になったら知能を上げる『学習』を行います。そしてこの様な『原始的な行動』がどうして『低知能者』に現れるのかを観察しています。」

「『原始的な行動』、ですか…………。」

 ルーグは叫ぶ者達をマジックミラー越しに見て、呟く。程なくして、『保管室』の奥の扉から研究服を着たアンドロイドが何体か入ってくる。

「全員、『電気ショックによる学習』の時間だ。出てくるように。」

 それを聞き皆暴れたり逃げ回ったり、部屋から出てくる様子を見せない。アンドロイド達は無理やり彼らを連れ出していく。扉の先は暗いために見えないが、微かに何人もの悲鳴が聞こえてくる。

 二人は『保管室の中身』がなくなった様子を黙って見届ける。そしてルーグが案内係に話しかける。

「質問があります。『ここから出してくれ』という彼らの行動はどうして行われるか、研究所の見解をお聞きしたいです。」

 解説をしてきたアンドロイドは言う。

「『本来生き物が知能で抑えられている原始的な行動を、知性が低い故に抑えきる事が出来ない』。これが私たちの見解です。」

 ルーグはそれに続ける。

「つまり、アンドロイドの方が『生き物ではない故に』遥かに優れている、と。そう言いたいのでしょうか?」

「結果として、そういう事になってしまいます。実際のデータでは、95%の『住民』はアンドロイドです。『生き物』よりも『アンドロイド』の方が知能がある場合が遥かに高い、と私たちは考えています。見学者様は特別でございますが、ここの『保管室にいるもの』はそうではないのです。」

「そうですか。」

 ルーグはそれ以上、アンドロイドに何も言わなかった。

 __________

「皮肉なモノだな。もとは人間がアンドロイドを作っただろうに、そのアンドロイドにバカにされているなんて。」

 クリスタルは戻ったホテルで、ベッドで横になりつつそんな事をぼやく。ルーグはブラックコーヒーをがぶ飲みしている。昨日感じていた旨さは、微塵も感じない。

「あんなに意思のある者達を、『保管』『原始的』って。そりゃないだろう。確かに生き物は知能にバラつきがあるが、それはアンドロイドとて同じだろうに。」

 イラつきながら話すルーグに、この国のシステムに呆れているクリスタルが答える。

「選民思想なんだろう。俺達の国も『サポートが要るかの知能テスト』がある。だが、それはあくまで生活のサポートをするべきかどうかの指数だ。誰にでも『普通に暮らす権利』はある。あんな扱い、俺は個人としても嫌だね。」

「同感だ。だがこれがこの国のやり方なんだろう。俺達が手助けするのは、この国で普通に暮らす人間やアンドロイドに対してはただの迷惑だ。反面教師として、ここは明日にでも出国しよう。」

「そうするか。今日はもう風呂入って寝ようぜ。」

 二人は手早く旅支度をして、眠りにつく。

 翌朝、二人は出国した。気分のいい朝日に照らされる爽やかさは、『研究所』で感じた二人の不快感を取るまでには至らなかったが。

 今日も何処かで、機械仕掛けの国は動き出す。『生き物を保管』して。
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