Crystal Asiro【クリスタルアシロ】

wiz

文字の大きさ
上 下
19 / 59
第2章 異世界での冒険

討伐クエスト

しおりを挟む
 オンシー集落近辺の洞窟。クリスタルとルーグはその入り口付近で草木に紛れて隠れている。洞窟の中からは相当数のオークらしき気配がする。

「めちゃくちゃ多い魔物の気配がする……、けどオークよりは強い気配がするな。」

「オークの進化先であるオーガの可能性もあるだろう。気を付けて進むぞ。」

 そう言った瞬間、ルーグはナイフをクリスタルの背後に向けて投げる。すると、クリスタルの背後に立っていたオーガの左胸に刺さり、その場に倒れた。

「やっぱりオーガか。各個撃破、または一掃か……。」

「一掃する事も出来るけど、それだと生死の確認が面倒だよな。」

「おま、えたち、にんげ、んに……!」

「え!?」

「何だ?」

 突然の誰かの声に、二人は辺りを見回す。先ほどのオーガが胸を押さえて立ち上がって喋り出した。

「おれ、たち、の、こきょ、うを、うばった、にん、げんごと、きに……!」

 オーガは胸から血が出るのも構わず、両腕で武器を振り下ろす。しかし、その力も虚しく二人には当たらず地に落ちた。クリスタルとルーグは顔を見合わせる。

「『俺達の故郷を奪った』? どういう事だ?」

「これは訳アリだろうな。ルーグ、コイツに回復魔法を。話が出来る、という事は『高度な知性がある』という事だ。俺は洞窟の中のオーガ達と話をして来る。」

「分かった。うっかり殺すなよ?」

「分かってるっつーの。」

 クリスタルはルーグに背を向け洞窟へ向かう。ルーグは倒れているオーガに『治癒魔法』と『身体活性魔法』をかける。険しかった顔が幾分か楽そうになったところで、オーガの体を楽な体勢に動かしてやる。暫くは目を覚ます気配はない。

「クリスタル、大丈夫か……? 手加減出来ればいいんだが……。」

 一方その頃クリスタルは『身体強化』を使い、襲いかかるオーガ達の頭を軽く叩く。叩かれたオーガ達はその場に頭をめり込ませて気絶している。どんどん進んでいき、最後の一体にチョップをかましたところで、ようやくクリスタルの足は止まった。目の前にはボスオーガがいる。

「ここまで来るとは……。姑息な人間は、余程俺達が邪魔らしいな。」

「その事で、ちょっと話を聞かせてくれ。俺は他所の世界の者でな、事情を知らないまま『オーク大討伐クエスト』を受けたんだ。そもそも種族違うし、入り口で会ったオーガが何やら言ってたんで気になったんだ。お前達に非が無いなら、話を聞くべきだと思ってな。どうだ?」

「ふむ……。なら事の顛末を話そう。その前に皆を気絶させた理由を聞きたいんだが?」

「話を聞くにしても、皆冷静じゃなかったからな。ちょっと眠って貰おうとな?」

「そ、それもそうか……?」

「とりあえず、入り口にいる相方を連れてきていいか? 一緒に話しを聞きたいしな。」

「それは構わない。では、皆が起きてから話をしよう。」

 ボスオーガは構えていた武器を降ろし、気絶している仲間を起こし始めた。

 ______

「故郷であるオンシー集落が占領された?」

「ああ、そうだ。隣の領主にな。」

 オーガ達に囲まれて、クリスタルとルーグはボスオーガと向かい合い話を聞いていた。出された少量の水を飲みながら、クリスタルが問う。

「その領主の言い分は何だ? 占領するからには言い分があるはずだ。」

「それが『娘であるメツマが、オンシー集落のオーガに攫われた』と。俺達は一切そんな卑怯な真似をしていない!」

 周りにいるオーガの一体が、そう言って地面を強く叩く。周りのオーガ達は地面を叩きはしないものの、怒りに震えている。ボスオーガは皆を宥めて落ち着かせる。

「皆、ここにいるクリスタル殿とルーグ殿が何とかしてくれるかもしれない。今は落ち着こう。」

「ちなみにですが、そのメツマ嬢はオンシー集落に立ち寄ったりしたのですか?」

「近場には寄ったそうだが、集落には立ち入っていない。見張りからの確かな情報だ。」

「で、そのメツマは今どうしてるんだ?」

「『護衛がその場でメツマ嬢を助けた』とされて、今は領地内にいるはずだ。冒険者の嘘の証言のせいで我々はオンシー集落を追われ、生活が出来ず困窮している。」

「嵌められた訳ですか。」

 ルーグの言葉に、ボスオーガは力強く頷く。その手と瞳は震えている。

「なるほど。お前達の証言が本当なら、訳も分からず嵌められて土地を追われ、途方に暮れているのか。災難だな。」

 クリスタルが水を飲み干し、そう言い放つ。彼女のその態度に、ボスオーガが物申す。

「我々のこの状況が、『災難』という言葉だけで済まされるものか! 突然仲間以外の全てを失い、満足な食料も食べられず、病人もまともに治療できない! そしてすでに死人が出でいるのだ! だがブヤマキ領主の力が強すぎてどうにも出来ずにいる我々を! 『災難』のたった一言で済ますな!」

 ボスオーガは地面を思い切り殴る。ズドンという音と共に地面が割れる。それに怯む事も無く、クリスタルが続ける。

「お前が嘘をついていないのは、態度や仕草で分かる。だが、こちらは証拠を得て『オンシー集落のオーガはブヤマキ領主に嵌められた』のが正しい出来事だとしたいんだ。今の話だけで証拠にならないのは、お前ならわかるだろう?」

「……ならば! どうすればいいのだ!」

 クリスタルがニヤリと笑う。

「簡単な話だ。当時の犯行現場を俺達が見ればいいのさ。」
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

P.I.G. VS M.E.

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

死から始まる異世界冒険譚。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:17

宰相夫人の異世界転移〜息子と一緒に冒険しますわ〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:2,038

君が笑うまで。〜婚約者を裏切った僕は猫になって彼女につくす

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:48

平行世界

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

処理中です...