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第1章 レイレード国王と側近
魔法と魔術
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ある日の午後、ルーグは騎士達の訓練の様子を見に来た。魔法にも耐性のある特殊訓練所に入れば、待機中の騎士たちが一斉に敬礼する。その最前にいた、騎士団長が挨拶をする。
「お疲れ様です、閣下。本日はこの様な場所にお越し下さり、ありがとうございます。」
「そこまで畏まらなくていい。皆、普段通りに訓練をしてくれ。」
「ありがとうございます。」
騎士団長は部下たちに向かって、「皆は普段通り、訓練をしてくれ。」と言えば、騎士達は指示通り訓練を再開する。魔法を詠唱無しで発動する訓練、剣術と魔法を組み合わせた手合わせの訓練、体力づくりのための訓練、その他にも様々な訓練が行われている。騎士達の気合からか、訓練室に熱気が漂う。ルーグは騎士団長と共に、端からそれらの訓練の様子を見て回る。
「最近の訓練、魔法に力を入れているみたいだな。」
「はい。物理だけでは難しい者を対応するのが我々『騎士』。魔法も極めなくてはなりません。」
「そういうお前は、最近は魔法の使い方はマスターできたのか?」
ルーグの問いに、騎士団長は頬を掻き答える。
「閣下や国王様程ではありません。まだまだ修行中でございます。」
「俺もクリスタルも、永い事時間をかけてマスターしているからな。年月の差があるから、それは仕方ない。その点、30年ほどで団長になったお前は優秀だと思うがな。」
「一応、自分は数多の世界を救ってきた実績はございます。ですが話を聞くところによれば、閣下は城に来てからたった10年で魔法も武術もマスターし、国王様と肩を並べる程になったとか。やはり、才能の違いもあるのではないでしょうか?」
「うーん、それは訓練の差じゃないか?」
腕を組んで悩みつつ、ルーグはそう答える。少しばかり気恥ずかしそうに頭を掻く。そして照れ隠しの様に「そうだ、」と話題を変える。
「騎士団長、久しぶりに手合わせをしないか?今の実力を見たい。」
騎士団長は、頭を下げ礼をする。
「それでは、一戦お手合わせをお願い致します、閣下。」
__________
騎士達、特にルーグの実力を見た事がない騎士達に囲まれる中、ルーグと騎士団長は向かい合う。
「普段戦闘しない側近様が、団長にかなうのか?」
「幾多の国を救ってきた英雄であった騎士団長が負けるのか?」
「俺達でも団長に傷を負わせるのが大変なのに、閣下は無事でいられるのか?」
「そもそも閣下は『影』の団長だろう?まともに向かい合って戦うのは不利では?」
そんな声が聞こえる中、ルーグは騎士団長に言う。
「普段通り、お前は武器を使ってもいい。俺は今回、武器は使わないで手合わせしよう。それぐらいのハンデがないと面白くない。」
ざわめいていた騎士達が余計にざわめく。一方でベテランの騎士達は、騒ぐこともなく待機している。騎士団長は、持っているサーベルを抜く。
その途端、サーベルから凄まじい風が纏う。呼吸をするのも意識しなければ難しい程だ。騎士達は竜巻の様な風に耐えつつ、試合開始を待つ。騎士団長とルーグは、その風圧にも動じない。
「では、手合わせ開始!」
ルーグの言葉を皮切りに、騎士団長は目にも留まらぬ早さでルーグに斬りかかる。
しかし、そこにルーグはいない。気配を感じた騎士団長が、その気配に向けて背後に火炎魔法を放とうとする。 魔法を使うより先に、ルーグが背後から騎士団長を蹴る。特殊な素材の壁に、強かに顔面から強打する騎士団長。それでも騎士団長は瞬時に立ち、剣をルーグに向け、斬る。
今度はルーグはその場にいた。相変わらず、サーベルから吹き出る突風をものともせず。そして、騎士団長はサーベルを持っている手をルーグに掴まれ、抵抗虚しくそのまま体ごと床に叩きつけられる。
動けない騎士団長を見て、ルーグは手を上げて試合終了の合図を出す。唖然とする新米騎士を押しのけ、待機していたベテラン騎士達が騎士団長の元へ駆け寄り、回復魔法をかける。それを見て、ルーグが魔法を使う騎士達にアドバイスをする。
「それでは傷跡が残りやすい。魔力が傷口以外の部分にも散っている。もっと魔力を集中させろ。」
「やってみます!」
「……そう、その調子だ。他の者も別の傷に魔法をかけてくれ。」
「「分かりました!」」
魔法を使っている騎士達に団長を任せ、ルーグはその他の騎士に向かって言う。
「見学お疲れ様。せっかくだから、これから魔法の実技講義をする。『魔術』の事も教えよう。」
__________
「そもそもお前達、『魔法』と『魔術』の区別はついているか?」
ルーグの言葉に、一人の騎士が手を上げて発言する。
「自らの魔力で何らかの現象を発動するのが『魔法』、道具を使って魔法を発動させるのが『魔術』です。」
「その通りだ。先ほどの手合わせで例えるなら、騎士団長が使おうとした『火炎魔法』が『魔法』、『サーベルから出る突風』が『魔術』にあたる。そして魔術を発動させる道具である『サーベル』は『魔術具』と称される。」
新人の様子を見たルーグは「そうだ」と言い、話を続ける。
「そもそもだが、『魔力』についてわかっている者はいるか?」
それに対して、最近入った騎士達は「自分は分かりません」と発言する。
「なら今のうちに覚えておいてくれ。『魔力』は『魂が動くことによって発生するエネルギー』だ。体を動かすとちょっとだけだが空気が動いて、風が発生するだろう?この『風』にあたるのが『魔力』だ。」
ルーグは実際に体を動かして説明をする。
「『魂がどれだけ動くか』。これは『魔力がどれだけあるか』という意味になる。普段体を動かさないと体が鈍るように、魔法を使わないと魂も鈍り動きが悪くなる。お前たちが訓練させられているのは、そういった理由があるからだ。ちゃんと魔力増強の訓練も励むように。」
ルーグの言葉に、騎士達は「御意!」といい声で反応する。
「いい返事だ。では早速、今回の試合で俺が使った『肉体強化の魔法』を練習しようか。訓練次第では、指一本で大岩が砕ける程になる。怪我も防げるから、頑張ってみてくれ。」
こうして騎士達は、暫くの期間ルーグの指導の下『肉体強化の魔法』の訓練に励むこととなった。ルーグに負けた騎士団長も含めて。
「お疲れ様です、閣下。本日はこの様な場所にお越し下さり、ありがとうございます。」
「そこまで畏まらなくていい。皆、普段通りに訓練をしてくれ。」
「ありがとうございます。」
騎士団長は部下たちに向かって、「皆は普段通り、訓練をしてくれ。」と言えば、騎士達は指示通り訓練を再開する。魔法を詠唱無しで発動する訓練、剣術と魔法を組み合わせた手合わせの訓練、体力づくりのための訓練、その他にも様々な訓練が行われている。騎士達の気合からか、訓練室に熱気が漂う。ルーグは騎士団長と共に、端からそれらの訓練の様子を見て回る。
「最近の訓練、魔法に力を入れているみたいだな。」
「はい。物理だけでは難しい者を対応するのが我々『騎士』。魔法も極めなくてはなりません。」
「そういうお前は、最近は魔法の使い方はマスターできたのか?」
ルーグの問いに、騎士団長は頬を掻き答える。
「閣下や国王様程ではありません。まだまだ修行中でございます。」
「俺もクリスタルも、永い事時間をかけてマスターしているからな。年月の差があるから、それは仕方ない。その点、30年ほどで団長になったお前は優秀だと思うがな。」
「一応、自分は数多の世界を救ってきた実績はございます。ですが話を聞くところによれば、閣下は城に来てからたった10年で魔法も武術もマスターし、国王様と肩を並べる程になったとか。やはり、才能の違いもあるのではないでしょうか?」
「うーん、それは訓練の差じゃないか?」
腕を組んで悩みつつ、ルーグはそう答える。少しばかり気恥ずかしそうに頭を掻く。そして照れ隠しの様に「そうだ、」と話題を変える。
「騎士団長、久しぶりに手合わせをしないか?今の実力を見たい。」
騎士団長は、頭を下げ礼をする。
「それでは、一戦お手合わせをお願い致します、閣下。」
__________
騎士達、特にルーグの実力を見た事がない騎士達に囲まれる中、ルーグと騎士団長は向かい合う。
「普段戦闘しない側近様が、団長にかなうのか?」
「幾多の国を救ってきた英雄であった騎士団長が負けるのか?」
「俺達でも団長に傷を負わせるのが大変なのに、閣下は無事でいられるのか?」
「そもそも閣下は『影』の団長だろう?まともに向かい合って戦うのは不利では?」
そんな声が聞こえる中、ルーグは騎士団長に言う。
「普段通り、お前は武器を使ってもいい。俺は今回、武器は使わないで手合わせしよう。それぐらいのハンデがないと面白くない。」
ざわめいていた騎士達が余計にざわめく。一方でベテランの騎士達は、騒ぐこともなく待機している。騎士団長は、持っているサーベルを抜く。
その途端、サーベルから凄まじい風が纏う。呼吸をするのも意識しなければ難しい程だ。騎士達は竜巻の様な風に耐えつつ、試合開始を待つ。騎士団長とルーグは、その風圧にも動じない。
「では、手合わせ開始!」
ルーグの言葉を皮切りに、騎士団長は目にも留まらぬ早さでルーグに斬りかかる。
しかし、そこにルーグはいない。気配を感じた騎士団長が、その気配に向けて背後に火炎魔法を放とうとする。 魔法を使うより先に、ルーグが背後から騎士団長を蹴る。特殊な素材の壁に、強かに顔面から強打する騎士団長。それでも騎士団長は瞬時に立ち、剣をルーグに向け、斬る。
今度はルーグはその場にいた。相変わらず、サーベルから吹き出る突風をものともせず。そして、騎士団長はサーベルを持っている手をルーグに掴まれ、抵抗虚しくそのまま体ごと床に叩きつけられる。
動けない騎士団長を見て、ルーグは手を上げて試合終了の合図を出す。唖然とする新米騎士を押しのけ、待機していたベテラン騎士達が騎士団長の元へ駆け寄り、回復魔法をかける。それを見て、ルーグが魔法を使う騎士達にアドバイスをする。
「それでは傷跡が残りやすい。魔力が傷口以外の部分にも散っている。もっと魔力を集中させろ。」
「やってみます!」
「……そう、その調子だ。他の者も別の傷に魔法をかけてくれ。」
「「分かりました!」」
魔法を使っている騎士達に団長を任せ、ルーグはその他の騎士に向かって言う。
「見学お疲れ様。せっかくだから、これから魔法の実技講義をする。『魔術』の事も教えよう。」
__________
「そもそもお前達、『魔法』と『魔術』の区別はついているか?」
ルーグの言葉に、一人の騎士が手を上げて発言する。
「自らの魔力で何らかの現象を発動するのが『魔法』、道具を使って魔法を発動させるのが『魔術』です。」
「その通りだ。先ほどの手合わせで例えるなら、騎士団長が使おうとした『火炎魔法』が『魔法』、『サーベルから出る突風』が『魔術』にあたる。そして魔術を発動させる道具である『サーベル』は『魔術具』と称される。」
新人の様子を見たルーグは「そうだ」と言い、話を続ける。
「そもそもだが、『魔力』についてわかっている者はいるか?」
それに対して、最近入った騎士達は「自分は分かりません」と発言する。
「なら今のうちに覚えておいてくれ。『魔力』は『魂が動くことによって発生するエネルギー』だ。体を動かすとちょっとだけだが空気が動いて、風が発生するだろう?この『風』にあたるのが『魔力』だ。」
ルーグは実際に体を動かして説明をする。
「『魂がどれだけ動くか』。これは『魔力がどれだけあるか』という意味になる。普段体を動かさないと体が鈍るように、魔法を使わないと魂も鈍り動きが悪くなる。お前たちが訓練させられているのは、そういった理由があるからだ。ちゃんと魔力増強の訓練も励むように。」
ルーグの言葉に、騎士達は「御意!」といい声で反応する。
「いい返事だ。では早速、今回の試合で俺が使った『肉体強化の魔法』を練習しようか。訓練次第では、指一本で大岩が砕ける程になる。怪我も防げるから、頑張ってみてくれ。」
こうして騎士達は、暫くの期間ルーグの指導の下『肉体強化の魔法』の訓練に励むこととなった。ルーグに負けた騎士団長も含めて。
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