Crystal Asiro【クリスタルアシロ】

wiz

文字の大きさ
2 / 59
第1章 レイレード国王と側近

とある国の一日

しおりを挟む
 空が曇り気味なこの日、クリスタルとルーグは『城下町の視察』に来ていた。



 国王であるクリスタルは政治の最終決定権があり、側近のルーグはクリスタルの補佐をしつつも代理を務めることがある。この国、『レイレード王国』は、この二人で国を動かしているというのが実情だ。それ故に、二人は「住民の生活に合わせた政治をする事」「住民の感覚を忘れない事」に気を付けている。そのための視察である。

 二人は市民に混じり旅人の様な服を着ており、普通の国王では着ないような、少しばかり汚れたマントも羽織っている。衣服は綺麗だが、決して目立たない色合いだ。この様な恰好をするのは、今回は『一般人としての視察』だからである。ルーグの腰には短剣が装備されているが、国王の視察に無防備で同行する訳にはいかない為、あくまでも護身用としての短剣である。

 城のお膝元とも言える城下町は、木材を柱としたレンガ造りの民家が並ぶ。路地裏には小さな個人店や民家の玄関が少し見える。ここでは貴族の屋敷といった豪華な建物は見当たらず、見えるのは一般民家ばかりだ。大きな通りには屋台が並び、主に野菜やその場で食べられるような食品が並んでいる。

 屋台のおばさんから焼き鳥を買い、二人でかぶりつく。香ばしい炭火の匂いと甘いタレの風味がたまらない。肉も良い肉を使っているのか、旨味がある。二人は思わず早食いをする。

「最近、屋台の肉が旨くなったよな。良い事だ。」

「一般人用の鶏の飼育業者に、安価で良い餌を卸せるように出来たからな。」

「自国で餌の開発に着手して正解だったな、クリスタル。」

 ルーグが旨味に思わず顔を綻ばす。そして焼き鳥を食べつつ横目でクリスタルを見やる。隣にいるクリスタルは串だけ持っている状態だった。暇つぶしなのか、その串で軽く魔方陣を描いている。

「食べるの早いって! ちゃんとしっかり噛んで食べろ!」

「俺肉好きだし? あんなんじゃ俺の腹は満たされないぜ!」

「だからと言って早く食う必要はないだろ!」

「旨いんだもん! それに他のも食べたいし、仕方ないだろ?」

 城のお膝元である城下町の大通りで交わされる、国の2トップのどうでもいい口論を見る住民達。その目は非常に温かいものである。小さな子供からも「こくおうさまだー!」と指をさして声をかけられている。それに答えつつも、結局二人は口論を続ける。そしてその最中、クリスタルの目にある店が飛び込む。

「___でもな、あ、あのコロッケ旨そうじゃん! 買おうぜ!」

「あのな、お前……。まぁ、コロッケ買うのはいいけど。店員さん、クリームコロッケ2つ下さい。」

 店員は「あいよ!」と愛想よく返事をし、クリームコロッケを二人に手渡す。揚げたてのコロッケは紙越しでも熱いくらいだ。油の独特の香りに紛れて、クリームの良い匂いも混ざって食欲が増す。

「あっつ!! だがそれがいい!」

「熱いのはコロッケだから仕方ないだろ! 頂きまーす。」

 二人がコロッケにかぶりつく。
 しかし、二人は固まる。

「…………クリスタル。コロッケのクリーム部分、なんか味変な感じがしないか?」

「だよな。意図的な味付けではない、変な味だ。」

 二人は顔を見合わせて、ルーグが店主に話しかける。

「店長さん、最近変わったことは無いか?」

「そういえ小麦農家が『農薬が変わった』と申しておりました。」

 その発言に、クリスタルがルーグに話しかける。
 
「小麦農家がよく使う農薬、最近取引先の国が薬品変えたはずだ。覚えてるか?」

「クリスタルに代わって俺が取引したからな。あの時、相手に質問したんだよ。『なんで農薬の成分変えたのか』って。」

「で、答えは『安価な新薬開発に成功したから』だったか? 報告書ではそう書いてたよな、お前。」

「そうそう。その農薬のせいだと思う。」



「「また仕事が増えた。」」


 クリスタルが「面倒な事を。」と言う傍で、ルーグも頭を悩ませつつ『やる事リスト』に『小麦農薬の開発or新しい取引先の開拓』とメモする。店主は戸惑いながら話しかける。

「陛下に閣下、自分は何か悪いことでもしたのでしょうか…?」

「いや、正直に言ってくれて助かるくらいだ。」

「国民が一番飯食うのに、これじゃあ国をまとめる者として失策だな。」

「そうなのですか? でも毎度思うのですが、貴族であられるお二方がどうして屋台の食事状況を把握しているのですか?」
 
「国をまとめる俺達だからこそ、国民と同じものを食うんだ。俺達が良いものばっかり食って、どうして国民は良いものが食えないんだ? おかしくないか?」

 クリスタルが串で店主を指す。店主は「はぁ……。」とイマイチ納得していない。
 ルーグがクリスタルに同意する。

「俺達は他の貴族にも、国民にも、俺達と同じだけ良い物食べて欲しいだけだ。屋台の食べ物でも安心して食べられるだけ、俺達が衛生面も視野に整備したし。今回は店長さんのおかけで『小麦農薬の改善』っていう課題が見えたから、今後はこれに取り組まないとな。」

「国民の立場から申させて頂きますと、お二人にこそ良い物を召し上がって頂きたいですがね。」

「気持ちは受け取ろう。」

「さて、クリスタル。小麦農薬の問題はまずいが、先に視察終わらせよう。その後どうするか考えよう。」

「だな。さて、次の区域に行くか。」
 
 残りのコロッケを平らげ、クリスタルとルーグは店主に別れを告げる。

 二人は街の中央に設備されている『レンガの柱の建物』に向かう。其処には外壁は少ないが内壁は10か所程設置されており、その中には『都市間ワープ装置』と呼ばれる魔方陣が配備されている。二人が乗ろうとしている魔方陣は、薄く青白く光っている。『オーガ区域行』と書かれた魔方陣に乗れば、二人は瞬く間に光の粒子の様に消えていった。

 ___________



 次の視察場所は「オーガ」と称される事の多い種族が住む区域だ。街並みは石を基調とした作りをしており、何処か湿気を感じる。電気の明かりがあるものの、地区が森の中にあるせいで薄暗い印象を受ける。

 ここの住民はある世界では「ゴブリン」、別の世界では「鬼」と言われる種である。クリスタルの国では、頭に角の生えた彼らを「オーガ」とまとめて称されている。そしてその凶暴性の高さから、国民の中でも恐れられている事の多い種族である。

 クリスタルとルーグが街並みを見渡しつつ、おかしな事が無いかを見て回る。賑わいはいつも通りで異常はない。しかし小さな通りを歩いている途中、ルーグが「あ。」と呟く。クリスタルがルーグの見る方向を見れば、昼が過ぎても賑わうレストランがある。

「何? お前も腹減ってんの?」

「そうだけれども、俺が見てるのは店の張り紙だ。これ、『差別対象になる』。」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...