勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【246話】 混乱のパーティー

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「エンリケ!だめーーー!」
リリアは思わず叫ぶ。
正義感を出したのか、人を切ってみたいと思ったのか、あるいはその両方か…

途端、リリアは道に転がった。
リリアの頭上を矢が数本空気を切って飛び去る。リリアの感、隙を見せた途端に何らかの攻撃があると判断したのだ。

リリアは素早く立ち上がりながら弓を構えなおす。矢を放ったと同時に賊が走り出て来た。通信している暇はない。
「メイリン!馬車を発車! あ!」
リリアは声を飲んだ。
メイリンが馬車を発進させかけたが射られた馬が立ち上がったことでメイリンは座席から前のめりに投げ出されかけた。反射的にメイリンを押えようとしたサラも馬車の上でバランスを崩している。
馬は一度立ち上がったが、メイリンが手綱を離してしまったことで暴走し、右手の木々の間に飛び込んでしまった。

「っく…」
リリアは素早く走り出て来た二人に矢を放つ。
もう剣を抜く時間はない。致命傷は与えられなくても確実にダメージが入る場所狙って射抜く。
五名程だろうか?走り出てきたが、何とか二名にダメージを与え、ダガーを握りなおす。
「メイリン!サラ!エンリケ!逃げて!」
リリアは叫びながら馬車まで戻る。
「リ、リリア、向こうからも!来たぞ!」ダカットが言う。
リリアが見るとエンリケが去った方から二名程賊が走り出てきている。

エンリケはどうなったのだろう?
とにかく、メイリン達とこの事態に対処しなければならない。
リリアが駆けつけると馬車は木にぶち当たって横転しかけている。
馬も白目を剥いてパニック状態。
リリアは散らかる武器のなかから短剣を拾い、兜を頭に乗せながら荷台の下をすり抜ける。
「メイリン!サラ!」リリア。
メイリンは衝突の衝撃で馬車前方に投げ出され、馬車の下でひっくり返っている。
「メイリン、痛がるのは後!死んだら痛がれないわよ!」
リリアはメイリンを荷台の下からひっぱりながらスクロールの入ったファイルを掴んだ。
「サラ!サラ!あなたどこ!」リリア。
「リリア、ここ!荷台の上。荷物が落ちてきて挟まれてる!助けて!」上から声がする。

リリアが何とか荷台の下からメイリンを引っ張りだした時だった。
「リリア!後ろだ!」ダカットが叫ぶ。
「っい…」
リリアの足に矢が刺さり、賊が襲って来た。
「女だ!女だぞ! 奪え!」
「メイリン、立ち上がって!サラ、何とか逃げるのよ!」
リリアが叫びながら応戦する。
「いやぁぁぁぁ!ぎゃああぁぁぁぁ!足掴まないで!放してえぇぇぇ!」
荷台の下にも賊が潜り込んだのかメイリンが絶叫している。
リリアも数名と乱戦になった。

リリアのパーティーは完全に混乱してしまった。

「わあああぁぁぁぁー!やめてーーー!」
荷台の下から這い出て来たメイリンはパニック状態になって、何やらと呪文を乱発しだした。
サラは荷台でもがいている。
エンリケは消息不明。
リリアはメイリンを取り押さえようとする男を切り付け、そのリリアを襲う連中と乱戦になっている。
「メ、メイリン!落ち着いて!助かるから!助けるから!落ち着いて」
リリアは必死に呼びかけながら遮二無二男達に切りかかる。
「ダメだって!やめて!メイリン、お願いやめてぇぇ!」
パニックのメイリンがヒールを乱発するのでリリアは太ももと背中に矢が刺さった状態で治癒をされてしまった。
地獄の様な激痛。
スクロール等発動させる暇もない。
「ぐぅ… うがぁ…」
男達に囲まれながら必死に剣を振るうリリア。
サラがなんとか荷物の間から抜け出て来たようだ。
メイリンがメチャクチャに呪文を唱えるので、リリアも賊も運でヒールが施される。
「メイリン!やめてぇ!あたし死んじゃう!お願い落ち着いてぇぇ!」
リリアが絶叫するが、ほぼ錯乱状態に陥ったメイリンには届かない。
サラは荷台で剣を握りしめ、真っ青になってブルブルと震えている。
「サラ!サラァ!こいつらを切って!お願いぃぃ!!そこから飛んで!切ってぇ!殺してぇぇ!」
メイリンに取り付く賊、その賊に取り付くリリア、そのリリアに取り付く賊…
リリアは切られては治癒され、治癒してもらいたくても治癒がかからず、死の淵を見えると治癒される…
何度も味合わされる狂ったような激痛、死への絶望と生への執着。
切っても切っても、回復されていく賊共…
「メイリン!やめてぇ!サラ!サラァ!切って!」
リリアが必死に叫ぶと、サラがようやく剣を持って荷台から賊の一人に飛び掛かった。
「ぐぅ」男は唸りながら倒れる。

リリアがメイリンにしがみつく男の首をかき切るとメイリンは何か絶叫しなら腰を抜かしている。
サラは男に剣を突き立てたきり、目を丸くして思考が止まったようになっている。
リリアも深く傷ついている。賊はまだ動ける者でも六人はいる。
リリア一人では到底勝ち目はない…

「けっ!手間かけやがってよぉ!」
「押さえつけろ!このまま発狂するまでぶち込んでやる」
「わ、わかった… わかったから… こ、降参、降参よ…」
ボロボロのリリアが絞り出すように言う。
「に、荷物は馬車ごとあげる。あたしのことも自由にしてよいから… この二人は逃がして… お願い… あ、あたし何でもする… 何でもするから… 二人は… 逃がして…」
リリアはボロボロと涙を流しながら男達に懇願した。
屈辱だが、新米二人は何としてでも守らなければ…
「バ、バカか!!リリア、何言ってんだよ!」ダカットが耳元で言う。
「は!この女バカじゃねぇか?もうお前ら全員手に入ったも同然なんだよ!」
「お願い… 荷物と…あたしと引き換えに… この二人だけは…お願い…」リリアが必死に言う。
「この女強いぞ。必死に抵抗されたら死人が増えるだけだ」
「今日の収穫は馬車二台と女一人、悪くはねぇな」
「よし、おまえら武器を捨ろ… 女、おまえもだ…」男が命令する。
「二人を… 二人を逃がすのが先よ… そしたら… 武器を置く」リリアがボロボロになって言う。
「これ以上抵抗されてもたまんねぇ…仲間が来るかもしれねぇ… よし、おまえら二人、行けよ。その代わり仲間でも連れて戻って来たら皆殺しだぞ」
「リ、リリア…」サラが震えた声を出す。
「… 大丈夫… お願いがあるの… ダカットとこれを… お願い…持ち帰って…リリアの村に、ウッソ村に届けて… ダカットは故郷に連れて行けなかったけどごめんね… ペコとアリスにでも… 皆ありがとう…お別れね…」
リリアは泣きながら言うとホウキとペンダントを二つサラに投げてよこした。
「…リ、リリア…」サラはそれらを拾う。
ダカットは何かを叫んでいるようだ。

「よし、おまえらは行けよ!今度会ったら殺すぞ!」
「ごめんね…怖い思いさせて… リリアが未熟だった…ルーダの風の皆によろしく… 皆ありがとう… あたし最後は村に帰って父さん達と眠りたい… 最後のお願い… もう振り返らないで、絶対に振り返らず村にもどって」
リリアがボロボロと泣いている。


勇者として守れるものは守り通さなければならない…
リリアは覚悟した…
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