勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【245話】 素人パーティーとヒューリザード

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「メイリン!こっちよ!エンリケを治療してあげて!」
戦闘を終えたリリアが怪我をしたエンリケを見てメイリンを呼ぶ。
道すがらエンカウントしたヒューリザードを倒したリリア達。


二日目の道中
リリアはエンリケ達と弱い魔物を見つけては基本練習を繰り返しながら進んでいる。
大きな冒険者ギルドで基礎を習っていないリリアだが、最初の冒険でペコとアリスに基本をある程度教わった。傭兵経験もある。
それを真似しながら教えている。
本当に最初は戦闘の基本と連携から始めた。
スライム一匹を囲んで立ち回りを教える。冒険者4人でスライムを囲む。
「こら!笑うな!今習わないと本当に死ぬ時はあっと言う間に死んじゃうよ!仲間も危険にさらされるよ!」リリアは真剣。
メイリンはもちろんサラも真剣、そして最初は笑っていたエンリケも魔物が強く、本格的になると結構真面目になってきた。
それぞれ、冒険者を志願するだけの事はあるようだ。

三人とも、実践的な内容に関心が高いよう。
「リリアさん、大きなギルドって新人はテントを張ったり、武器を手入れしたり、馬車を掃除したりで、実際に戦闘なんてほぼ始めてなんですよ」メイリンが言うと皆頷いていた。
「まぁ、それは仕方がないところもあるわよ。実際に戦闘より大事なサバイブ術はいっぱいあるし、リリアは山育ちである程度自己流でなんとかしたけど、最初はペコとアリスに教わったよ。今でも誰かに教わったり、見学したりするよ。実際は戦闘の要素なんて冒険のほんの一部だものね」リリアが言う。
「俺はこっちがいいな!見た?さっきの一撃。名剣は切れ味が違うぜ」エンリケが剣を天にかざして言う。

エンリケはとにかく剣を振り回す理由が欲しいようだ。戦闘には積極的だが、言う事は聞かず、リリアが臨機応変に対応していると言わざるを得ない。
とにかく、剣を振り回しながら切り込むので怪我が多い。
「… わたし… 出来ればバックアップがいい…」サラは言う。
もともとバックアップ志望の彼女は実際に少し戦闘をしてみて、自分には合っていないと思っているようだ。
これも当然の反応、憧れて冒険者になる人間でも実際の生々しさに嫌気がさす者も多い。まぁ、まともな感覚の持ち主とも言える。
「うん、サラもよくやってるよ。基本だけ教えるから、別に無理して戦闘に参加する必要はないよ。馬車の子守をして、自分の身を守ったらいいよ」リリアがニコニコと答える。
向かない者、嫌がる者に無理はさせない、リリアもよくわかっている。
何度か練習をしながら進み、夕方近くとなり今夜泊まる村が見えてくるあたりまで来た。


エンリケとメイリンは少々疲れが見える。リリアも普段より疲労を感じている。
エンリケは怪我が多く、強めの回復をしているが実戦する中で疲労感が出てきている。
メイリンはエンリケに行う治癒の量が多く、それが疲労となっているようだ。気力のポーションを飲んでも、慣れないと積み重なる疲労は蓄積する。
リリアは完全に気疲れ。リーダーとしてリリアを頼ってきている全員を生還させなければならない。
馬車では一番サラが元気なようだ。
「もうすぐ、次の村だし、今日はもうこのまま村に行こうか」護衛席でリリアが言う。
「それが良いです。少し疲れました」メイリン。
「そ、そうか?俺はまだ切り足りないぜ」エンリケ。
「今夜は部屋で泊るの?それともテント張るの?」サラ。
「サラ、野営準備したい?… うっふっふ、そう思った。今夜は部屋に泊まって休もうか」リリア。
「やったー!」一同。
そんな話をしていたら路上にヒューリザードがウロウロしている。
ヒューリザードはリリア達の馬車を見て逃げるどころか、襲って来た。
「わぁ、最後に今日一の相手だね。しょうがない、今日の練習の成果よ。命大事に!」リリアは素早く、馬車から矢を放った。


「メイリン!治癒してあげて!エンリケを治癒」リリアが呼ぶ。
メイリンがすぐに駆け付けて、腕から血を流すエンリケにヒールを始めた。
「痛えな、ちくしょう!おまえら戦力になってんのか?俺の剣頼りじゃねぇかよ」エンリケが文句を言っている。
リリアは黙って聞いている。


ヒューリザードは初心者には強敵だ。茶色と黒の斑点ボディ、硬い皮膚。特に頭部は大きく棘のようなものがついていて矢が通らない。
リリアが素早く矢を何本か放ったが、頭部の硬い肌で弾かれた。
「いい?あいつは石頭だけど敵に対して威嚇で頭を高く上げ、口を開けるわよ… って!ちょっと!」
リリアが作戦を伝える前にエンリケは剣を振り回しながら突撃。
「何してるのよ!かってに飛び込まないで!奴の弱点は腹部と首下よ!」
リリアは伝えるがエンリケは無理して切りかかる。
接近されてリザードは頭を低くし、突進、噛みつき、尻尾攻撃でエンリケに反撃する。
エンリケは怪我が増え、リリアも弓で弱点が狙えない。
「エンリケ!下がって!無理押しはだめだよ!下がって!」

結局、エンリケのゴリ押しのせいで、大苦戦を強いられながら、リリアがようやくヒューリザードの目を射抜いたことで、形勢逆転できた。
硬くタフだが素早い移動と物理的攻撃しかない。しかも所詮は爬虫類のデカいやつ。無理に倒す必要がなければ、適当に攻撃し退散させてもよい。
知識があり、冷静に対応すればリリア一人でもなんとでもなる相手だ。
サラを抜いても普通だったら三人もいれば問題無いはずなのだが…
わざわざ、手強くして相手をしている。無駄極まりない。
「薬草は必要?」
戦闘が終わるとサラも馬車を寄せて、救急バッグを手に降りてきた。
「痛えな… ったく…」
エンリケはぶつくさと文句を言っている。


リリア達は村の宿屋に宿泊している。
夕方きっちり村に到着してパーティーメンバー四人でキャンプサイトの屋台で食事を済ませた。
今回は基本的に食事、宿泊代は全員で割り勘になっている。
食事もそこそこエンリケは近くのテーブルの女性グループに話しかけて調子よく混ざってしまった。まぁ、プライベートの時間なのだ、好きに過ごしたらよい。
リリア、メイリン、サラは適当に食事が終わると夜食を持ち部屋に戻る。
「エンリケ!明日は絶対に時間通り起きてくるのよ」
リリアは気前よくお酒をご馳走し女の子の気を引くエンリケに声をかけると立ち去る。
エンリケは返事もせず女の子に夢中だ。


「あの… リリアさん…」メイリンがちょっと言いにくそうに切り出した。
リリア、メイリン、サラの三人で部屋飲みをしていたところ。
リリア達は部屋をシェアしている。リリア以外は駆け出し冒険者。この方が割安だ。エンリケは異性であり、金持ちでもある。一人で部屋を借りている。

「ん?なぁに?」
トマトの串焼きを口にリリアが答える。
メイリンはチラチラとサラを見ながら切り出す。
「あの… 私、エンリケは… ぅん… あの… 私、あの人と一緒にクエストするの怖くって…」
遠慮がちに理由を述べたが、要するに彼がパーティーにいること自体が危険であり、彼自身にも自分達にとってもプラスではない、っと言ったところ。
「… ん… サラはどうなの?」リリアはコクコクと頷くとサラを見た。
「えへ、サラが決めて良いの?なんちゃって… 後ろから見てても危なっかしいよねぇ。でも、別にあいつが痛い思いするだけでいいんじゃない?」サラ。
「リリアさんはどう思います?」メイリンが聞く。
「正直甘く考えてるよね… 剣士に憧れをもっているだけだよね。別に生活かかってるわけでもないし…」リリアは言うと二人を交互に見つめる。
「でも実際突然パーティーから除隊は無理ですよね?」メイリン。
「えぇ…基本的には一度パーティーを組んだメンバーは本人の承諾なく除隊させられない決まりのはず。あんまり強引に除隊させて事故、行方不明になったらリーダーのあたしはかなりの重罪だったはず。あたしね、こう見えても勇者でたまにリーダーするから、勉強させられたんだよね。ウチのギルマスも結構うるさくてね… えっへっへ… まぁ、でも、ただし書きがあったはずでね、著しく他のメンバー、パーティーの安全と健康に危険を及ぼす場合において除隊する当該メンバーの安全が確保でき、かつそのメンバーが安全に登録先の住所に帰還するに十分な武器と食料と移動手段が保障されている場合にはこの限りではない、とかあったはず」リリア。
「なにそれ… 難しいことわかんなわ」サラ。
「…うん、リリアにも難しいよ。結局エンリケがルーダ・コートの街に帰るのに馬車と食料を残せばこの村に置いていけるってところかな…」リリア。
「えぇ!歩くの?荷物持って?」サラ。
「それくらの体力が無ければやっていけないよ」リリア。
「私は歩いてもいいですよ」メイリン。
「まぁ、まだ除隊と決まったわけではないし…メイリンはそれで良いのね… サラはどうなの?クエスト中止して戻る事も、エンリケを送って出直す手もあるよ」リリア。
「これって多数決?リーダーが決めるんでしょ? あいつはこのまま続けても半年も生きてないんじゃない?知らんけど… サラも遊ぶけどさ、結構ここには本気モードで来てるんだよね。生活あるんよね」サラ。
「…わかった… 明日の朝、もう一度きちんと話してみるよ」
リリアは言うとカップに残っていた発泡酒を一気に飲み干した。

「何かしらけたね… サラはもう寝るわ」サラは笛をしまうとベッドに潜り込んだ。
「私も今日は疲れたから…」メイリンも寝る準備。
「そうだね、スケジュールも遅れてるし、ゆっくり寝て、明日もがんばらないとね」
リリアはメイリンとサラがベッドに入ったのを確認するとランプの灯りを吹き消した。

リリアが窓から見るとエンリケはまだ屋台で女の子と騒いでいるのが見えた。
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