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【233話】 戦えない勇者と戦わない商人と
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昨日の夜はミミックに食べられかけたリリア。
ガスコイン達がミミックに齧られているリリアを救出したが、リリアはしばらく幻想の中にいた。
とにかく回復のポーションを飲まされてそのままテントに寝かされたリリア。
夜中に目が覚めて我に返ったらしく、頻りに体調不良を訴え、今朝はずっと貧血のショック症状でほぼ馬車の荷台で休んでいた。
「あれ?馬車が停まっているね」
休んでろと言われて朝から馬車の荷台でだるそうに何度も寝たり起きたりを繰り返していたリリア。
コロットとアケミが乗っているが停車しているのに気がついてリリアが荷台から見ると、ちょっと向こうでガスコイン、サンキャット、ヒマネコが植物系の魔物相手に奮闘している。
まぁ、正確に言うとガスコインが奮闘していてサンキャット達はチャチャを入れている感じ。
「ガスなら問題ないと思うけど… 大変そうだよね… リリアも手伝うよ」リリアが気にして体を起こすが、体が重い。
「あれなら倒せるだろ、顔色良くないぞリリア、休んでおけよ」ダカットが注意する。
ポーションでも飲んでもう一歩回復したところだが、貧血気味になるのはどうしようも無い。あまり急速に無茶な回復をするとぶり返して体調を悪くしてしまうことも少なく無いのだ。
リリアが見るとコロットとアケミは黙々と操車席に座っている。
「… ねぇ、ちょっと!そこのお二人さん、あんまり言いたくないけど、あたしが欠員の時くらい少しは手伝ってよ」リリアはコロットとアケミに声をかけた。
「あぁ?」二人がリリアを見る。
「少しは動いてよって言ってるの」
ダカットが見るにリリアはまだ顔色悪く声にも力が無い。
今までだったらコロットもアケミも「はぁ?こっちはそんな事させられる話しじゃないけど」的な反応をしてきたと思うが、今朝は少し違う。
馬車全体の雰囲気は少し緊張感が上がった。
リリアが幻の中で血を流していたのがビジュアル的に衝撃だったらしく、冒険者の危険さを少し理解したようだ。
「………」
アケミは黙って前に向きなおしてしまった。コロットは黙ってリリアも見つめている。
「… いや、ほら、見てよ、動ける人数が足りてないっていうか… ガスが大変でしょう、サンキャットとか… あんまり効果はないけど少しは役にたってるでしょう、あれを見て何とも思わないの?」リリアがゆっくりと指を差す。
リリアが指さす先には植物系と戦うガスコインがいる。ツタの攻撃は剛より柔である。要するに力自慢のガスコインでも効率的に戦えない。
「………」
昨日の出来事が身に染みたのかコロットは今までになく黙って聞いている。
「… あのね… あたしも怪我中でこんなこと言うの…あれだけど… ちょっとは仲間を手伝ってっていうか… 商人って仲間意識強いでしょ?物語では、商人って仲間を呼んで、呼ばれたほうも徒党を組んでどこからともなく現れ3回くらい攻撃支援してくれるじゃない… あなた達何とも思わないの?… 確かに昨日のはリリアが迂闊だったし、ちょっと驚いただろうけど、ガスの後ろで支援するだけなら危険も少ないし、ちょっとでも戦力になるじゃない…」リリアが言う。
コロットが黙ってリリアを見る。
「リリア、よせよ… まだふらついてるぞ… この二人に言っても無駄だよ。ガスは心配なよ、まだ寝てろよ」ダカットがアドバイスする。
「リリア…」コロットは呟くように言うとアケミの手を払いリリアの方に居直った。
「うん…そうだよ…仲間同士…ちょっとでも役に立ってよ」
リリアが言いながらクロスボウを差しだすとコロットはリリアに向かって手を伸ばした。
「ガスコインさん、だいぶツタに絡まれていましたが大丈夫でしたか?」サンキャットが尋ねる。
「あぁ、数が多くてちょっと時間がかかったがもう大丈夫だ」ガスコインが答える。
ガスコイン達は魔物を掃除して馬車に戻る。
リリアが休んでいる今日は特に、避けられるなら避けたい戦闘だが、馬や馬車に絡みつかれて面倒になっても困る。馬車を置いて掃除を開始したが数が思ったより多かったのと、なかなか根絶やしにできず手こずってしまった。
「すみません、矢がなかなか当たらなくて」サンキャットとヒマネコがすまながる。
「はっ!良いってことよ、もともとあんな細い体に当てられると期待してないぜ。まぁ、ちょっと時間稼ぎしてくれただけでも善戦したぜ、リリアの調子が戻るまでの辛抱だ」ガス。
「そうですねリリアが… 今日いっぱいは安静でしょうか」
三人が話しながら馬車へ。
「おまえが魔物の危険さを、身をもってわからせただろ!戦いたくねぇって言ってんだよ!!」
「あんた達それでも商人の端くれ?商人魂はどこ行ったのよ!仲間が戦ってるんだから手伝えって話しよ!!」
「だったらおまえが行けよ!勇者だろ!いつまで荷台で寝てんだよ!」
「悪かったわね!こっちだって寝たくて寝てんじゃないわよ、ミミックに食べられかけたんだから仕方ないじゃん!動ける人間が動いてって話しよ!」
「勇者が寝てて一般人が戦うのかよ!無理に戦わせるのは人権問題ぜ!勇者ハラスメントだ!」
「何が一般人よ!商人でしょ!少しは野外活動のたしなみを持ってんでしょ!3回くらい攻撃しなさいよね!商人魂よ!」
「俺は商人の息子ってだけで本業は自称遊び人なんだよ!戦わねぇんだよ!」
「どっちでもいいわよ!遊び人だって戦うでしょ!勢いよく転んだり、居眠りしたり… えっと… 何だか閃いたり… そうだ、はげましたり… あぁ!!奇妙奇天烈な踊りをしたり… 何かちょっと努力しなさいよ! せめて石投げるくらいできるでしょ!!」
「だったら勇者のおまえがやったらいいじゃねぇかよ!俺は絶対戦わねぇよ!死にたくねぇよ!勇者の特技は荷台で居眠りか?そんな事物語にあったのか?違うだろ!戦えよ勇者」
「ふじゃけんじゃねえぞ!普段全然勇者扱いされてないのにこんな時だけ!勇者、勇者ってこんな時だけ持ち上げやがって、リリアは戦えないからおまえらやれって話しだ!」
「… おぅ、何か…馬車ではすげぇバトルになってるな…」
「…本当ですねぇ… どうしてこうなった?」
ガスコイン達が戻ると戦えない者と戦わない者同士が物凄い戦いをしていた…
ガスコイン達がミミックに齧られているリリアを救出したが、リリアはしばらく幻想の中にいた。
とにかく回復のポーションを飲まされてそのままテントに寝かされたリリア。
夜中に目が覚めて我に返ったらしく、頻りに体調不良を訴え、今朝はずっと貧血のショック症状でほぼ馬車の荷台で休んでいた。
「あれ?馬車が停まっているね」
休んでろと言われて朝から馬車の荷台でだるそうに何度も寝たり起きたりを繰り返していたリリア。
コロットとアケミが乗っているが停車しているのに気がついてリリアが荷台から見ると、ちょっと向こうでガスコイン、サンキャット、ヒマネコが植物系の魔物相手に奮闘している。
まぁ、正確に言うとガスコインが奮闘していてサンキャット達はチャチャを入れている感じ。
「ガスなら問題ないと思うけど… 大変そうだよね… リリアも手伝うよ」リリアが気にして体を起こすが、体が重い。
「あれなら倒せるだろ、顔色良くないぞリリア、休んでおけよ」ダカットが注意する。
ポーションでも飲んでもう一歩回復したところだが、貧血気味になるのはどうしようも無い。あまり急速に無茶な回復をするとぶり返して体調を悪くしてしまうことも少なく無いのだ。
リリアが見るとコロットとアケミは黙々と操車席に座っている。
「… ねぇ、ちょっと!そこのお二人さん、あんまり言いたくないけど、あたしが欠員の時くらい少しは手伝ってよ」リリアはコロットとアケミに声をかけた。
「あぁ?」二人がリリアを見る。
「少しは動いてよって言ってるの」
ダカットが見るにリリアはまだ顔色悪く声にも力が無い。
今までだったらコロットもアケミも「はぁ?こっちはそんな事させられる話しじゃないけど」的な反応をしてきたと思うが、今朝は少し違う。
馬車全体の雰囲気は少し緊張感が上がった。
リリアが幻の中で血を流していたのがビジュアル的に衝撃だったらしく、冒険者の危険さを少し理解したようだ。
「………」
アケミは黙って前に向きなおしてしまった。コロットは黙ってリリアも見つめている。
「… いや、ほら、見てよ、動ける人数が足りてないっていうか… ガスが大変でしょう、サンキャットとか… あんまり効果はないけど少しは役にたってるでしょう、あれを見て何とも思わないの?」リリアがゆっくりと指を差す。
リリアが指さす先には植物系と戦うガスコインがいる。ツタの攻撃は剛より柔である。要するに力自慢のガスコインでも効率的に戦えない。
「………」
昨日の出来事が身に染みたのかコロットは今までになく黙って聞いている。
「… あのね… あたしも怪我中でこんなこと言うの…あれだけど… ちょっとは仲間を手伝ってっていうか… 商人って仲間意識強いでしょ?物語では、商人って仲間を呼んで、呼ばれたほうも徒党を組んでどこからともなく現れ3回くらい攻撃支援してくれるじゃない… あなた達何とも思わないの?… 確かに昨日のはリリアが迂闊だったし、ちょっと驚いただろうけど、ガスの後ろで支援するだけなら危険も少ないし、ちょっとでも戦力になるじゃない…」リリアが言う。
コロットが黙ってリリアを見る。
「リリア、よせよ… まだふらついてるぞ… この二人に言っても無駄だよ。ガスは心配なよ、まだ寝てろよ」ダカットがアドバイスする。
「リリア…」コロットは呟くように言うとアケミの手を払いリリアの方に居直った。
「うん…そうだよ…仲間同士…ちょっとでも役に立ってよ」
リリアが言いながらクロスボウを差しだすとコロットはリリアに向かって手を伸ばした。
「ガスコインさん、だいぶツタに絡まれていましたが大丈夫でしたか?」サンキャットが尋ねる。
「あぁ、数が多くてちょっと時間がかかったがもう大丈夫だ」ガスコインが答える。
ガスコイン達は魔物を掃除して馬車に戻る。
リリアが休んでいる今日は特に、避けられるなら避けたい戦闘だが、馬や馬車に絡みつかれて面倒になっても困る。馬車を置いて掃除を開始したが数が思ったより多かったのと、なかなか根絶やしにできず手こずってしまった。
「すみません、矢がなかなか当たらなくて」サンキャットとヒマネコがすまながる。
「はっ!良いってことよ、もともとあんな細い体に当てられると期待してないぜ。まぁ、ちょっと時間稼ぎしてくれただけでも善戦したぜ、リリアの調子が戻るまでの辛抱だ」ガス。
「そうですねリリアが… 今日いっぱいは安静でしょうか」
三人が話しながら馬車へ。
「おまえが魔物の危険さを、身をもってわからせただろ!戦いたくねぇって言ってんだよ!!」
「あんた達それでも商人の端くれ?商人魂はどこ行ったのよ!仲間が戦ってるんだから手伝えって話しよ!!」
「だったらおまえが行けよ!勇者だろ!いつまで荷台で寝てんだよ!」
「悪かったわね!こっちだって寝たくて寝てんじゃないわよ、ミミックに食べられかけたんだから仕方ないじゃん!動ける人間が動いてって話しよ!」
「勇者が寝てて一般人が戦うのかよ!無理に戦わせるのは人権問題ぜ!勇者ハラスメントだ!」
「何が一般人よ!商人でしょ!少しは野外活動のたしなみを持ってんでしょ!3回くらい攻撃しなさいよね!商人魂よ!」
「俺は商人の息子ってだけで本業は自称遊び人なんだよ!戦わねぇんだよ!」
「どっちでもいいわよ!遊び人だって戦うでしょ!勢いよく転んだり、居眠りしたり… えっと… 何だか閃いたり… そうだ、はげましたり… あぁ!!奇妙奇天烈な踊りをしたり… 何かちょっと努力しなさいよ! せめて石投げるくらいできるでしょ!!」
「だったら勇者のおまえがやったらいいじゃねぇかよ!俺は絶対戦わねぇよ!死にたくねぇよ!勇者の特技は荷台で居眠りか?そんな事物語にあったのか?違うだろ!戦えよ勇者」
「ふじゃけんじゃねえぞ!普段全然勇者扱いされてないのにこんな時だけ!勇者、勇者ってこんな時だけ持ち上げやがって、リリアは戦えないからおまえらやれって話しだ!」
「… おぅ、何か…馬車ではすげぇバトルになってるな…」
「…本当ですねぇ… どうしてこうなった?」
ガスコイン達が戻ると戦えない者と戦わない者同士が物凄い戦いをしていた…
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