勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【229話】 リリアとガスコインとわけのわからん四人組

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リリアはトラナックバースの遺跡に来ている。
パウロ・コートの街、ルーダ港から西にある遺跡だ。
一週間でミミック三匹を生け捕りにしなければならない。
ミミック自体に危険はそんなにない。いや、危険な魔物なのだがトラップ系であり、いわゆる硬い奴だ。無理をせず時間をかけて倒せばなんとかなる。
ただ生け捕りにしないといけないのが厄介であり、持ち帰らないといけないのが面倒。
しかもミミックは数が少ない。
冒険者というものは「マウンテンライオンか… スルーだな」となっても「ミミックだ!お宝だ!うおおおぉぉぉ!」と絶対ミミックは見過ごさない。生息場所も限られている上、最優先で倒されてしまう事が多い。
仕方が無いので遺跡、廃墟、廃村、廃砦のような生息地帯に探しに出向く。

編成は六人、パーティーリーダーのリリアを筆頭にオーガのガスコイン、フユネコの息子のサンキャット、同じギルド商会のヒマネコ、親の商売もろくに手伝わず近所で暇をしていたコロット、そして何故かコロットが連れて来た女友達アケミ。
この中で冒険者としてパーティー登録しているのはリリア、ガスコイン、ヒマネコの三人。
ただし戦力になりそうなのはリリアとガスコインのみだ。ヒマネコは商人の息子ということでたしなみ程度に格闘とサバイバル術を身に着けている、いわゆる幽霊部員的冒険者、メインは商人ギルドに所属して父親の商売を手伝っている。

「生け捕りって手間なのよ。お持ち帰りで馬車に檻を積まないといけないし、馬車の見張りも必要だよ。馬車なんて野山に放置してたら馬を丸呑みされておわりだよ」
リリアがフユネコに言うと
「ウチの商工会は小さいんだよ。六店舗の寄り合いだから予算があんまりないんだ。勇者だろ?なんとかしてくれよ」
頼まれた。
「無茶だよ、いくらリリアちゃんが万能勇者だって無理がある相談よ。四人くらいのパーティーは必要だけど三人で我慢するからせめて腕の良い氷属性のマスターと魔物使い系は必要だよ」リリアが言う。
「予算がなぁ… わかった、人は何とかする、ウチのドラ息子を手伝いにつけるよ。なぁに少しは俺が剣を教えている、見張りくらいにはなるだろ。それからハムネコさんとこの息子さんも冒険者ギルドに所属しているようだ。なんだか大きなギルドで基礎をマスターしたとか… 言っても商人は交易で外にでるからな、バカには出来んぞ。それともう一人頭数に入りそうな若いのを連れて行ったら良い。喧嘩っぱやいが気の良いやつのようだ。勇者なんだから頼むよ、リリアちゃん」フユネコはけっこう胸を張って言う。
「… まぁ、人がそろうなら何とか…」リリアは渋々承諾。

で、リリアは各酒場とギルドで人を募集したが集まらない。
「そのバイト料で?…あぁ、まぁいいだろう… で、どうするの?… それって泊まりだろ… 一週間をその料金で?はぁ?… おまえバカにしてんのか!いったい冒険者やってどれくらいになるんだ、相場くらい頭に入れとけ、へぼ勇者」
魔法や魔物使い系統のスキルを有する物はたいていこんな返事だった。
世の中はヘボ勇者に頼み込んでくるが、世の中はヘボ勇者の頼みごとを聞いてはくれないもののようだ。
魔法使い等はバイト料が高くなるので物理系で何とかしなければならない。
仕方が無いのでペコとアリスに相談したらアーマー&ローブからガスコインを派遣してくれた。ちょっとプランから外れたがまともな冒険者を一人確保。

出発当日、リリア達は檻を乗せた馬車に乗り、ルーダ・コートの街を出発。
郊外に出たところで個人技の確認をした。

「改めまして、皆がどれくらい戦力になるのか確認したいので少しここでスキルを見たいわね、ガスコインは無問題だね、サンキャット、ヒマネコ、コロット、アケミ、少し剣を振ってみて」リリアが言う。

「サンキャットです。本来は店の切り盛りをしているのですが、今回は親父に人手不足だから手伝って来いと言われて、いやぁ、行商人なら武技のたしなみも必要だと思いますが、私はどちらかというと地元密着型の経営を目指していまして…(長いので省略) しかし、今回は商工会の年末イベントという大事な…」
「… よし、その壮大にして全ルーダリアが泣くストーリーは馬車で移動中リリアが眠くなった時に子守唄代わりにじっくりゆっくり聞かせてもらうから今はまず武技よ武技」
リリアが促すとサンキャットはようやく剣を振ってみせた。
「えい、やぁ、とう」
「馬の後ろ蹴りの方がましだぜ」ガスコインが言う。
「次は僕ですね、僕はこれでも冒険者ギルド登録者なので… えい、やぁ、とう」ヒマネコが武技を披露する。
「マジかよ、学芸会だな」ガスコイン。
「…えぇ、コロットとアケミ…」リリア。
「え?何?俺?声かけられたから来たけど、やばい事やらされるなら帰るよ。郊外にドライブって聞いて彼女連れて来たけど…」
「ウチら遊びに来ただけなんですけどぉ…何かやらせようって言うのぉ?うけるぅ… 傑作なんですけどぉ…」
コロットとアケミは馬車から降りてもこない。
「ふざけてんのかよ、リリア、追い返せよ」ガスコインが怒っている。
まぁ当然の反応だ…
「実際時間がないのよねぇ…何かの役には立つでしょ。いざとなったらあいつら撒き餌にして逃げてきたらいいよ」リリア。
「おまえなぁ、あんな素人のせいで死にかけるのはごめんだぜ、俺は知らねぇからな、おまえが何とかしろよ」
ガスコインはすっかり呆れてしまったようだ。
リリアだって呆れたいところだが実際に仕事を引き受けた身としてはそうも言っていられない。
そんな感じでリリアはガスコインと何だかわけのわからん四人を連れてラナックバースの遺跡までやってきた。


とりあえずサンキャットとヒマネコはそれなりに馬車の留守番と荷物持ち程度にはなっている。コロットとアケミに至っては極力気にしないようにしている。気にしだしたら腹が立って仕方がない。
道中はリリアとガスコインで極力魔物の脅威を排除。わけわか四人組は基本馬車に居残り。道中は極力道筋の魔物だけを相手にしているので特に危険を冒さなければどうにかなっている。
昨晩は最寄りの村で一泊して早朝から出て来た。
最寄りの村から人里離れたラナックバースまでは距離があり、到着したらすっかり昼過ぎ。

「あの林の向こうに見えるのが大石柱の頭よね。やっと到着したわよ、お昼休憩をとったらいよいよミミック保管計画発動!」
リリアは手綱を手に言う。
「夕方村に戻るならあんまり捜索時間がないな、ここでキャンプ張るのにこのメンバーじゃぁ…」ガスコインが心配する。
「それだよね…ちょっと様子見を見てきめようか」リリアは呟くように言う。

遺跡後の石碑からリスが数匹散るように逃げて行った。
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