勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【215話】 リリアは山ガール

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リリアとブリザはルーダ港とルーダ・コートの街の東方にある小さな村に来ている。
距離的にはルーダ港の街に寄った感じだ。
高い山ではないが山並みが続き、山間部に道が続いている。特に産業もなく、木こり、狩人、小さな畑を持った人が集落を作っている。
ルーダ港を出発した旅人等もここでは早すぎて休憩を取らず、ルーダ港に向かう者もここまできたら街まで向かってしまうだろう。
この一帯はウェセフと呼ばれているのでウェセフの集落、ウェセフの村と呼ばれているようだ。
リリアも何度か北東に抜ける時に通過したことがあるが、足を止めるのは今回が初めて。
登録村ではないが教会、というより納屋兼祠を兼ねるような小さな無人教会があり、周囲の人に頼んでリリアとブリザはそこに寝泊まりさせてもらうようになった。
村長や代表者といった人はいないがとりあえず村に対して宿泊費を払う事にしてこの教会のような… まぁ、教会と呼んでおくことにする建物に住み込み。

リリアとブリザは王立学校アルケミスト課の教授と助手という設定になっている。この周辺で薬草等の原材料になりそうな植物、錬金術に使う動物や昆虫の調査と野外授業の下見で何日間か滞在するという設定。
ブリザはそれっぽい恰好をしている。
リリアはいつものハンター装備。


潜伏初日
リリアとブリザは村の人と交渉して荷物を教会に置くと早速周辺の確認で出て来た。今通ってきた道を引き返すように村から街のある方面に道をたどる。

「決行の日まで徹底的に散策してこの辺の地形を知っていくしかないよね。まぁ地図作成に便利。後はやみくもに山中に入っても疲れるだけだから街道や道を下見だね。道を辿りながら待ち伏せできそうな場所探し。街道の方で賊が出るなら必ずどこからか見張っていてターゲットを絞っていると思うんだよね。ってかリリアならそうするよね。って事は道から見て見張りが出来そうな場所を探す… ここなら…ほら、あそこの丘の木とか、あの辺の崖なら道が遠くまで見えてそうでしょ?あんな場所から見張りが連絡してるんだよきっと。だからそういう高所や高台を道から見つけて逆にそこに忍べば賊を見つけられるかも。それで後はアジトまでついて行く… 後は実際に襲って帰るところを追跡するとか… そんな感じ…」リリアはブリザに説明しながらキョロキョロしている。
「それが一番の正攻法か… リリア一人で広大な山はカバーできないし、一番良い方法だ」ブリザも頷く。
「リリアちゃんってば、これでもローゼンさんに勧められて軍の下士官学校に二週間いたからね、軍隊仕込みのステルス作戦よ。あ、ローゼンさんってね国民生活指導なんちゃらの人でとっても美人で…」リリアは自信あり気、ローゼンさんと自分のなり染についておしゃべりしながら歩いて行く。
日差しは間もなくお昼時になるような位置。秋の山は静か。

「ブリザも一緒に来るって思っていなかったからちょっと驚きだよね」リリアが笑う。
「宿が無いとは思わなかった。正直あの掘っ建て小屋では長く過ごせない。あの規模の村ではそこで時間潰すのも目立つ、それに最初はリリアの仕事ぶりも見ておかないといけないし」ブリザが言う。

リリアとブリザは気になるポイントを調べながら街方面に道を戻る。
何カ所目かの高台に登ってリリアが言う。
「ここも見晴らしはいいけど、人が使った形跡はないみたいだね。何でわかるかって?まぁ、感だよ… この場所も人が頻繁に使っている形成ないでしょ?落ち葉がフカフカしているっていうか… 上がってくる時の道筋とか足をかけて来た岩場とか自然のままっていうか… 人が使っている道かわかるんだよ」リリアは地図やメモを確認しながら何気なく言っている。
「そう、リリアは山育ちだったかしら?」ブリザが高台から見下ろすと山道が木々に隠れながらも長く伸びているのが見える。景色が良い。
「そうだよ、リリアは山と弓で育って来て、自然と調和の神を信仰して来たからから山の恩恵を受けているんだよ… うーん、このブリザがくれた賊の出現場所表を見ても、もっと街の方に行かないと確率低いみたいだね。午後からはもっと街に寄ってから調べようか… じゃ、お腹空いたし道に戻ってお弁当たべようよ」リリアは言うとメモをしまった。
「道に戻って?… 景色が良いしここでお昼で良くない?」ブリザが意外そうに言う。
「さすがのブリザでも、リリアちゃんの山の知識には勝てないみたいね。リリアちゃんってばこう見えても生粋のハンターだからね、うっふっふ。あのね、賊が使いそうな場所に痕跡残したらアウトよ。まぁ、ここは誰も使わないだろうけどね。食べ物を残したり、踏み散らかしたりしたらばれちゃうでしょ?足をかけて登ってきた岩場とかも必要なら枯れ葉をかけなおして戻るんだよ。それでも相手にウルフマンとか鼻の良い種族がいたら通っただけでバレますけどねぇ。とにかく下りて道端でご飯だよ」リリアが言う。
「そうか… なるほど…」ブリザが深く頷いた。


リリアとブリザは道に戻って適当な場所を探すとお弁当を食べ始めた。
「あたしね、山賊おにぎりとトンカツ持ってきたの。おにぎりは昨日の晩御飯の残り。トンカツは買ったの。山賊に勝つように縁起担いだんだよ、ブリザにもあげるよ、縁起物だよ。そのかわりそのおかずちょっとちょうだい」リリア。
「弓の腕も凄いけど、ハンターの経験もすごいのね、ゴーレム。安心して任せられそうね」ブリザが言う。
「ハンターなら当然だよ。まぁ、下士官学校の知識も役に立ってるよね… あんまり人を射たくはないけど、国民の命と財産を守るのが仕事だからね、それに誘拐事件も解決できたらいいよね」リリアがおにぎりを食べながら言う。
「荷物の強奪が激化しているのは確かね。私は稼げればよいけど」ブリザ。

「さぁ、食べ終わったし、リリアちゃんはお昼寝タイム。休憩終わったら起こしてね。この体勢なら二人とも寝やすいよ」
リリアはブリザに寄り添って昼寝を始めた。

「… 寝やすいのはあなたじゃないの…」
ブリザは苦笑いしながらしばらく同じ姿勢を続ける。

確かに木陰にいると涼しくて昼寝にはちょうど良い天気
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