勇者の血を継ぐ者

エコマスク

文字の大きさ
上 下
423 / 514

【212.5話】 ミノタウロス事件

しおりを挟む
「大丈夫のようね」リリアは一安心。

シルキーをドラキュラ伯爵邸まで届けてルーダ・コートの街に戻ってきたリリア。
街中で騒ぎを起こし犠牲者までも出してしまったが魔族の子ということでフェアな裁きを受けられないと考えたリリアの咄嗟の判断で、シルキーをドラキュラ城に連れて行った。ドラキュラ伯爵の元なら魔族のシルキーも平穏に暮らせるだろう。
リリアは二泊三日の逃避行の後、今さっきルーダ・コートの街に戻ってきたのだ。
呼び止められるのではないかとドキドキしながら門を通ったが何ともない。
街中でも衛兵とすれ違ったが特に何もないようだ。指名手配の似顔絵が出回っている様な事も無さそう。
「心配する事もなさそうね。とりあえず帰ったらおやつを食べて寝だめモードよ」
午後の街中をリリアは足早にルーダの風に向かう。

「リリア!リリア!待ちなって!」
リリアは呼ばれて腕を掴まれた。振り返るとコトロとユイナがリリアを引き留めている。
「コトロ、ユイナ、今戻ってきたよ、とりあえずギルド…」
リリアが言い終わらないうちに「ちょっといいから、こっちに来なさいよ」とグイグイ腕を引っ張られて… 拉致っていく。
「リリアを東門で見たって連絡があって探しに来ました。とりあえずアーマー&ローブのギルドへ行きます」コトロもリリアの腕を引く。


で、リリアは冒険者ギルド・アーマー&ローブの建物に拉致られた。
コトロを始め何人かの冒険者がいる。もちろんペコとアリスもいる。それにリリアが街中でコトロ達に手を引かれているのを見て一緒に来た者達。
「あら?…えぇっと… 皆さんお揃いで、うっふっふ… リリアちゃん今帰って来たところです」リリアは愛想笑い。
よくわからないけど、こんな時こそ友好ムードが大切。
「皆さんお揃いで!っじゃないでしょ。ちゃんと皆にわかるように説明しなさいよ」ペコが怖い顔をしている。
「あぁ… やっぱりそれね…そうだよね…ちゃんと説明はするわよ… あの、ちょっと食べながらでよい?強行スケジュールでお腹すいて倒れそうなの」リリアが言う。

で、リリアは出されたコッペパンとお茶を口にしながらシルキーとのいきさつを皆に説明した。
「…そうか シルキーが…」
その場の全員リリアの説明を聞いて頷いた。
シルキーの複雑な心境は理解できる、冒険者になる者は孤児が多い、産みの親と育った者でも二男二女以降の長男長女が親の後を世襲して腰を落ち着ける立場にない者達がほとんど。何らかの形で隔たりを感じている。
「あたし、いけなことしたのかな…」リリアが言う。
「… すっきりしないがシルキーが捕まって刑を受けたとして被害者が戻ってくるわけではない… 事故だと考えるしかないだろ」
大方の意見はこんな感じだ、正直誰もシルキーが罰を受ける事を望んでいないだろう。
「それで、リリアの居ない間はどうだったの?」
説明が終わるとリリアの方から皆に質問した。リリアはコッペパンとお茶をおかわりしながら聞く。

リリアが留守にしている間の様子は以下の様だった。
ミノタウロスが倒れると、衛兵と冒険者達で周囲の小火を消火して怪我人の応急処置、遺体の収容を行った。
事件解明のため周囲が調査され、シルキーの屋敷の破壊と祭壇部屋等が発見されシルキーに容疑がかかった。
執事達等は消滅していたようだ、恐らくシルキーが屋敷を手放したことにより魔力が解けたのだろう。
事件の翌日に犠牲者の葬儀が行われ、シルキーの屋敷は改めて調査され、シルキーは危険魔物及び危険魔獣を召喚した罪、過失、殺人の両方の容疑で捜索中だと言う。
「とにかく、仲間の多くはシルキーがミノタウロスと一緒に消滅した、死亡したと証言しているから」誰かが言う。
「よかった!協力してくれて皆ありがとう!」リリアがお礼を言う。
「のん気な事言っている場合ではないですよ。リリアとシルキーが現場から離れるところを見られていてシルキーは逃亡の容疑、リリアも重要参考人になっています。事件直後からうちにリリアを探しに何回も衛兵がやってきています」コトロが言う。
「えぇ… あたし捕まって、投獄されて奴隷として売り飛ばされちゃうかな…」リリアが心配する。
「とにかくリリアは酔ったユイナをギルドまで送り届けて馬車護衛の仕事で数日留守だと説明してあります。ギルドに戻ったら必ず参考人で呼ばれると思うのでこの数日間の行動を今ここで筋が通るように考えて、落ち着いて対応してください」コトロ。
「わかった… そうするよ。それからシルキーを育ててくれた教会のファーザーには本当のことを伝えて、お墓だけ立ててもらおうと思ってるんだよね」リリア。
「そうですね… そうするのが筋かも知れませんね。シルキーが生きているとしればきっとファーザーも喜ぶでしょう。私も付き添いますからファーザーには真実を話して協力していただきましょう」コトロが言ってくれた。
「とにかくルーダ・コートの街の冒険者ギルド全員でなんとか協力しよう」
全員がそう言ってくれた。


リリアはこの後コトロ、ペコ、アリスに付き添われシルキーが育った教会を訪れた。全てを話し、お墓を立ててくれるようにお願いする。
「そうであったか… シルキーも長年教会のために尽くしてくれた。彼女も幼い頃から色々苦労があってな、生まれに罪はないものなのじゃが…」ファーザーはシルキーの生存を知って喜んでいた。
シルキーとの思い出話を詳しくリリア達に語ってくれた。
「安心しなさい、この教会は大きくは無いが大聖堂の司祭様と懇意にさせていただいておる、この一件は任せておきなさい」
最後にファーザーは約束してくれた。

リリアがギルドに戻ると待ち構えていたかのように衛兵が数名やってきた。
「リリア殿、ミノタウロスの件で重要参考人となっている、所まで同行を願う」衛兵。
「あぁ… あたし、こう見えても公認勇者なんですけど… 勇者リリアよ」リリアが言う。
「そんなの関係ねぇ」衛兵はあっさり答える。
衛兵にとってはリリアが勇者かどうかなどおっぱっぴーらしい

リリアは事情聴取を知らぬ存ぜぬで通した。


この数日後ミノタウロス事件は証拠不十分と重要参考人死亡で書類を処理されて幕を閉じた。
しおりを挟む

処理中です...