勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【200話】 当日の夕方

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リリア達は夕日に染まり始めたナト森を巡回中。正確に言えば緊急出動から引き返し中。
ナト村に押しかけているギルメンで感知魔法を設置できるナザリアが各所に魔法陣をしかけている。デュラハンが村に接近したら場所がすぐに特定できるようにだ。
気が利いているが、他の魔物、動物が魔法陣に入っても反応するので誤報もしばしば。
今も魔法陣から反応があったと言うのでリリア、ペコ、アリスは馬で出発してきたが誤報とわかり戻る途中。

魔法陣から反応があると名を上げたいギルメン達は我先にとスクランブル発進していく。
ここまでは誤報だが、次こそはと勢いごみ、特に今日は宣告当日とあって気合が入っているようだ。

「他の連中に先を越されて… ずいぶんとのん気だけど大丈夫なのか?」背中でダカットがリリアに聞く。
「何が?だって誰かが倒してくれたらそれでいいじゃない、あんまり村から離れると撃退手順違反でリスポーンしてくるみたいだけど、それはそれで委員会から一日でもデュラハンの登場を遅らせてくれって頼まれているから良いんだよねぇ」リリアは軽く答える。
“どっちに転がっても私の勝ちよ”的な余裕…
ペコは渋々といった感じで同行している。喧嘩以来リリアとは全く口をきかない。
ペコはリリアとの喧嘩の後、本当に帰ろうとしていたがアリスに引き止められた。
「アホくさい、付き合い切れないじゃん、帰るよ」とペコは言っていたが「ダメよ、引き受けたからには責任持つのよ」とアリスに結構強く諭されていた。
「… わかったって… 全く…」ペコは思いとどまったようだ。
リリア側からはアリスの表情までは見えなかったがペコの態度が変わるのがはっきりとわかった。
薄々感じるがアリスはペコなんかよりよっぽど怖い人物ではないだろうか、リリアは時々思う。

「リリア、デュラハンの登場を1日でも延長してくれって言われて承諾していたけど、あれはどうするの?」アリスが質問してきた。
三人一緒にいるとリリアとペコの会話が多くアリスはあまり口を挟まない。ペコが渋々といった感じで後方にいるので話しかけてきたのであろう。
「あれね… 一日延びると儲けも違うみたいだね。便乗し過ぎだよねぇ、ここに滞在中は全て王国が費用を出してくれるし、結構楽しいからもう少しいても良いかな?って思えるし、まぁ、さっさと仕事完了して街に帰ろうかとも思えるし… なるようになるよ…」リリアはえっへっへと笑っている。のん気。
「リリア、今は状況が状況だから笑っていられるけど、本来デュラハンは理屈を超えた強敵よ。少しはペコの怒る理由を考えなさいよ、いい加減な返事をしてはだめよ」
「わかったよ… ごめん…なさい…」
リリアが振り返るとアリスは相変わらず微笑んでいたが何だか鳥肌が立つ思いをした。
アリスは言うと馬を止めてペコを待っている。

その時通信が入った
「ナザリアよ。皆、ポイント・ウィスキーで反応したわ」
どうやら別の地点で何かが感知魔法陣にかかったらしい。
「了解」「任せろ、一番乗りだ」複数の応答が入る。

「ペコ、アリス、待って。ウィスキーポイントって結構遠い場所だよね。少し様子みようよ。また誤報かもよ、あんまり離れると今度は村まで戻るのに時間かかるよ」
ペコとアリスを制すリリア。皆は馬を止めて様子をみる。
夕日が傾く森の中はしばらく静寂に包まれていた。夜中から午前中は霧が濃いせいか霧が晴れている今、改めて森を見ると緑が深く濃く見える。山村ガールリリアは深呼吸をする。
「…ずいぶんと時間かかってるね」ペコ。
「場所が外れになるから」アリス。
また少し静寂に包まれる。

「返事ないね… 道に迷ったんじゃないの」ペコ。
「ウィスキー… 魔力があっても通信のイヤリングの範囲からは外れるわ」アリス。
「えぇ、だって、中継係りいるじゃん、誰か中継するでしょ」ペコ。
「普通なら… 中継係りなんて決めていないでしょう」アリス。
「まぁ、でも、取り決めなんかなくたって状況を見て誰かが中継するでしょ」ペコ。
「ウチはギルドとしてハイレベルだから誰かが組織的に動いてくれることが通常だけど、でも寄せ集めメンバーでは期待は難しいわ」アリス。
リリアは離れてペコとアリスの会話を聞いていた。

リリアのイヤリングにも雑音混じりの通信が入ってきた。
「魔法陣…入ったのは…」「… 見当たら…」「… 通って… 言ったって…」「…黒い…」
雑音混じりに耳に入るので何を言っているのかわからない。
リリアはイヤリングをぐっと耳に押し当てて集中する。見るとペコとアリスも同じ様な恰好をしている。
「… ちょっとわからないけど、今回はその辺の魔物でも動物でもないみたい。リリア、行ってみるよ」
ペコとアリスが馬を森の奥へと進ませ始めた時だった。
リリアは何か空気が動くのを感じた。

「二人とも待って!止まって!」
リリアが呼び止めるのと
「…見たって 黒い騎士が爆走…」「…首無し…村に向…る!」
複数の通信が耳に届くのとペコとアリスがリリアを振り返るのが同時だった。

“ドッ!!”
大きな蹄の音がして木々の間から黒い塊が勢いよく飛び出して来た。
ペコとアリスの馬が驚き二人が落馬した。
「森の中から?… ペコ!アリス!」リリアが叫ぶ。
黒い塊はそのまま飛ぶように二人を飛び越えると物凄い勢いで森の道をリリアに向かってくる。

その姿…
黒い騎士、黒く大きな馬体、鎧から上は首が無く左手に首を持ち、右手でしっかりと手綱を握り、疾風のように迫って来る。
勢いに驚いてリリアの馬が立ち上がる。リリアは必死に馬にしがみついた


デュラハンがあらわれた
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