勇者の血を継ぐ者

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【199.5話】 リリアとピエンと油絵と ※当日午前中の話し※

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「よし、活動開始」お粥の朝食を済ませるとピエンは小さく、しかしはっきりと呟き露店のテーブルを発つ。
ピエンはナト村に取材に来ている。もちろん数年ぶりにデュラハンが出現するというので取材に来たわけだ。
今日が一年宣告の当日。
「出来れば今日来て欲しいけど…」小さいが心の声が口からあふれ出た。
本来デュラハンの取材は無い予定だったが辺境の地の村が大騒ぎになりルーダリア王国の勇者とデュラハンの対決が注目を浴びていると情報が入ってきた。

「仲間から聞いたがどうやら結構な騒ぎになっているようだ、予定になかったが取材に行った方が良いな… 急だが誰か行ってくれないか?」
上役がミーティングで言うのでピエンは即座に反応した。
「はい!僕が行きます!」


ピエンは昨日の日没過ぎにナト村に到着した。辺鄙な場所だが最寄りの登録村からシャトル馬車が出ていて騒ぎの規模が既にうかがえた。最終便に乗りここに到着。
「久々にリリアに会えますね」
ナトに着いたピエンは期待したが、昨晩リリアは見張り当番でダノン家に入ったっきりで会えなかった。
時間も遅いし情報紙仲間に声を掛けられて飲み、宿泊テントに泊って一晩を過ごした。

朝、早めに起き、朝食を簡単に済ませると取材を開始。
明るくなって改めて見ると屋台と設置テントが目立つ物の集落はすっかり町規模に様変わりしている。看板、横断幕、人込み、わくわくする雰囲気がある。
「地方にサーカス団が回ってきたような感じですね」ピエンは呟きながらメモと絵を描く。

取材を開始
ピエンは仕事としても個人的もリリアに会うのを楽しみにしている。公認勇者という肩書のわりに記事としての扱いは大したたこと無いが自由で表情豊かでハツラツとしたリリアを取材するのは個人的に楽しい時間。リリアは今のところピエンの周囲にいる女性の中で一番ドキドキさせる存在だ。
取材をしたが、どうやらリリアはかなり忙しく動いているようだ。
リリアはデュラハン撃退の中心人物ではあるが、他のギルメン達と連携をとり警備している。ダノン家を警護し、パトロールに出て、当直時間は有る物のいつ村に戻っているかは誰も把握できな状況。
「今日はデュラハンが現れるとされる当日ですから… 仕方ないですね」ピエンは呟く。
話題になっているのでピエンが取材に来たが勇者リリアへの世間の関心はあまりない、明日の午後にはこの村を出なければいけない。
「デュラハンが今日来てくれるのを神に祈るしかないですね… あの人ならあるいは…」ピエンは思い出したように人を探し始めた。

「いたいた、ディル、やはり来ていましたね」
ピエンは商人ギルドが設置した大きなテントの日陰でコーヒーを飲んで座っているディルを発見した。
「ピエンか… リリアの取材ですね。見ての通り大騒ぎ」ディルが少々苦々しく答える。
「リリアの取材をディルなら何とか出来ると思いましたが、その様子だと相変わらずのようですね」ピエンが笑いながらテーブルを挟んで席につくと商人ギルドのお手伝いさんがコーヒーを持って来てくれた。
「ここに来ればリリアの動向がわかるかもと思ったんだけどなぁ…」ピエン。
「リリアの行動を理解するには、リリアになるしかない」
「確かに…」
ディルが言うとどちらからともなくうっふっふと笑いが出た。

「ここは商人ギルド・ルーダ通商のテントですよね。顔パスなの?」ピエン。
「顔パスか… どうかな… まぁ、こちらが宮仕えとわかると揉み手擦り手だよ。用事があればウロウロして疲れたらここで休んでいるのさ」ディル。
「リリアとは関係ないギルドが出て来て、かってに商人ギルドが管理して、リリアが見世物の様になっているけど… ディルはそれでよいのですか?」ピエンが言う。
「リリアに危険が及んだり、デュラハンを撃退してダノン家を救う本来の目的から離れているならともかく、目的に向かって進んではいるから… 僕は管理室長の命令で付き添っているだけだよ」ディルは淡々とコーヒーを飲んでいる。
「… よし、僕は取材に戻りますよ」
ピエンが席を立つと「あぁ…怪我だけはするなよ」と短く答える。
「リリアに会いたいな、個人的に伝えたり朗報があるのですけどね」
ピエンが言いながらテーブルを後にするとディルは少しばかり視線をあげた。

お昼頃
「ピエン?ピエンじゃない! わぁ!来てたのね、情報紙の人がいるからきっとピエンも来ていると思ったよ!」
人込みの中で不意に声を掛けられたので振り返るとリリアがニコニコしている。
見るとペコとアリスもいる。
「あぁ、あは、実はうちでも取材することになって、今日一日だけ時間をもらっているのですよ。リリアに直接取材をしようと思っていました」
真っすぐピエンを見てニコニコするリリアにちょっと照れるピエン。
「忙しいからすぐに行かないといけないけどOKよ、あたしピエンの書く記事大好きなの。ピエンの情報紙だったら4コマ漫画のサエザさん、運勢占い、恋愛相談、高く買い取り、その後に必ずピエンの記事を探すからね」リリアはグッとサインを出して笑っている。
「あと…それと… リリアに是非伝えたいことがあって… 例の結婚式でリリアがドラゴンに乗った油絵が完…」
「わぉ!!ついにできたのね!ピエン!アイ、ラブ・ユー!完成待ってたよ!ヤッホー!!」
ピエンが言い終わらないうちにリリアが嬉々として抱き着いてきた。
リリアモデルの鎧越しにギュウギュウと抱きしめられた。
汗と深緑の匂いに混じり髪から香水の香りがする。
リリアは大きな身振りでいかにこの時を待っていたか、あらゆる断面から、多角方面にわたり、広く深く、歯に衣を着せず、遠慮なく、表現をわきまえず、人目を気にせず恥じ入ることなく、全身全霊でピエンに伝えて感謝している。
「それほどまで… 記事を書くのに挿し絵は載せますが油絵はあまりしないので、今回は改めて習いなおして仕上げた甲斐がありました。 …いや、万が一があるのでここには持って来ていません。この帰りでもルーダリアの城下街に寄ってください」
ピエンが照れながら答える。

「わかった、そうするね。リリアちゃんってば、昨日死亡事故があったりしていまいち気分が沈んでいたのよね。何かメッチャ元気出てきた。ピエンのおかげよ。今すぐデュラハンを探し出してぶちのめしてやりたい気分。デュラハンが来たら瞬殺よ。リリアちゃんのダイナマイトバディで弾き飛ばすのよ!正拳突き、ワンパンウーマン、瞬殺してやるから、皆瞬き禁止よ!」リリアがニコニコと声を上げる。
ピエンが見るとペコとアリスはちょっと引いて距離を置いている。

「では、せっかくなのでペコさん達も三人でインタビュー…」
ピエンが言い終わらないうちにリリアが口を挟んだ。
「よっし、とっとと仕事終わらせる!あたしこう見えても忙しんだよね、こう見えても勇者だからね。デュラハンを退治してこの国の平和を維持しないといけないから大忙し。リリアの感なら今日デュラハンは来るよ、絶対… まぁ、でも明日以降の事も考えて長期計画は立ててあるけどね… まぁ、絶対今日来るよ。約束は守る、あいつはそういう奴だよ。ペコ、アリス!… あれ?… どこだ?さっきまでここに… あ、いたいた! 皆、元気出していくわよ! 何で顔背けるの?無視するの?さぁ、もう一仕事いくわよ、じゃ、とっととデュラハンをやっつけてくるからぁ!」
リリアはペコとアリスの手を引いてハツラツと去っていく。


「… えぇ… リリア、独占取材…」ピエン

リリアは半ばスキップするようにペコとアリスの背中を押しながら人込みに消えていった。
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