勇者の血を継ぐ者

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【183.5話】 堀北のリリア

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リリアはオスカルの馬車からルーダ・コートの街の東城門を眺めていた。
夕日が山の向こう側に沈み切り、オレンジとも紫とも言えない空の時間帯。
東門まで100mの所まで馬車を飛ばしてきたが、城門は閉まり始め、リリア達が城門にたどり着いた同時に重厚な音を立てて閉まり切ってしまった。
リリア達の他にもギリギリアウトで締め出された業者や旅人が門前にいる。
「あぁ、間に合わなかったね。今日の門番長は石頭よね」リリアは呟く。
リリアが見上げると影の中、高く立派な城壁がそびえ立つ、見張り台にはバナーがなびいている。番兵が数名こちらを見下ろしている。
「仕方ない北側の門に回ろうか」オスカルが再び馬車を移動し始めた。

今日は“グッズ&ライフサプライ・オスカル“のオスカルと一緒に荷物の配達に出ていたリリア。
魔物に襲われて車輪が壊れたのを修理していたらすっかり遅くなり、今日は午後の早い時間に戻って来る予定だったのだが門でシャットアウトを食らってしまった。


城門
どこの街も城門は門番兵によって開閉される。
開門時間は日出と同時、閉門は日没と同時。早朝は商人等が城門前に待機して日出の開門と同時に移動を開始する。移動してくる者は日没までに城門にたどり着いておく。
この日没の閉門だが恐ろしく気まぐれだ。山の向こうに日が沈むと同時にきっちり閉まる時もあるし、周囲に人がいると入城するまで待ってくれることもある。その日の責任者の気分次第のようだ。
リリアも何回か経験あるが、今日は目の前できっちりと閉められてしまった。
こうなるとここは朝まで絶対に開かない。
リリアとオスカルは北門に回ることにした。

北門はギリギリアウトだった旅人や商人達が集まっていた。リリア達の馬車もその中に加わる。
ルーダ・コートの街は近くの川から用水路を引いている。小さいが支流の一部もそのまま城内に通している。北門は堀があり跳ね橋がかかっている。
跳ね橋と城門の間にスペースがあり、そこで待機していると夜中に城門を一度開いてくれることがあるのだ。また、人専用の鉄扉があり、そこから人だけ城壁内に入れてもらえる。
これも気まぐれ、門番の気分次第。城門は開けてもらえる事もあり、朝まで開けられないこともある。開ける時間も遅かったり早かったり気まぐれ。
人専用扉も気まぐれ。開放して放置の時もあり、一晩に一回から数回思い出したように開放される事もあり、朝まで全く開かれない時もある。
開く事を期待して待つしかない。ルーダ・コートの街には跳ね橋がかかっているのはここしかないので入城したい者はここに集まって来る。

集まってくると食事を提供できる行商はすぐに屋台を出し始めた。
「オスカルさんあたし用水路で顔洗ってくる、そしたらご飯食べて待とうよ。あら?ダコタ、レイノルド、シャンティ達も締め出された? じゃ皆でご飯しよう。ちょっとさっぱりしてくるよ」
こうなったらノンビリ開門を期待して待つしかない。


リリア達は食事を終え… 特にやることもない…
こんな時の時間潰しと言ったらお酒を飲みながら雑談するか、仲間内でギャンブルでもするか、即席娼婦に相手をしてもらうか…
屋台も早々と店を閉める事も多く、退屈な時間になる。馬車で寝て待つことが多い。
「おーい!門をあけてくれ! 娘が病気で薬を持って来たんだ!」
酔っぱらって門番に叫ぶ声がする。いつもの光景、お決まりの文句、城壁の上はシーンとしている。
辺りは雲が早くなり涼しくなってきた。雨がくるようだ。

自前の酒と肴を持ち寄り雑談するグループ、ギャンブルに興じるグループ等ある。
「お、お嬢ちゃんもこっちきてやりなよ」と誘われたがリリアは適当に断った。
遊び方は習ったが大抵リリアは負ける。ギャンブル向きの性格ではないようだし、強くもない。金銭に固執する性格でもなければ、必死に稼ぐ必要がある状況でもない。
生活をかけてギャンブルする人間に勝てるわけが無い。
一晩のアバンギャルドか誰か売春でも始めたか、あっちの馬車からは男女の嬌声が始まった。

リリアとギリアウトだった冒険者仲間達はちょうど良い暇つぶしを見つけていた。
「あれ?風も出てきたし、堀の向こう側にローパー類のゼリー系がうろつきだしたね。もう少し放っておこうよ。もっと集まるよ」
リリアは水回りにゼリー系魔物が集まっているのを見つけた。

で「そろそろやろうか!遠距離攻撃大会始まり!」と弓と火矢を準備し始めた。
「ハンディキャップあげるからリリアと勝負よ!」
皆で騒ぎながら武技大会が始まった。当然リリアは弓で勝負。
闇の中を火矢や火の玉が筋を引いて飛んでいっては魔物を倒していく。
「やったね!リリアちゃんの優勝よ!勇者だからね!リリアちゃん賞金総取りですよ」リリアが遠距離攻撃大会優勝。まぁごく当然の流れ。
「っけ、弓だけは凄いな」「何が遠距離だ茶番だぜ」「これで弓以外ももう少し出来たらね」
言われたい放題だが優勝は優勝。リリアは得意げ。
「ハンディまであげたからいいじゃない」リリアはニコニコしている。


終わると… やることが無くなってしまった。
適当に持ち寄ってお酒を飲んで雑談して、適当に馬車に戻って寝る。
馬車に戻ると少し荷台を掃除してランプの灯りで「ローダス嶋戦記」を少し読む。
「おーい、門は開けるのか?開けないのか?」大声が聞こえ、近くの馬車からは男女が愛し合う声が聞こえる。


「おーい!勝手口が開いたぞ!通るなら今だ!」
夜中に声がする… リリアは起きた、どうやら人用の扉だけ開いたようだ。
声を聞いて辺りの人が動き出す気配がしている。
荷台ではオスカルが寝ている。かなり酔っているようだ。
「オスカルさん、勝手口が開いたみたいだよ」
リリアは何回か声をかけたが起きない。どうせ馬車ごと通れなければ馬主は馬車に残る事が多いのでリリアはオスカルを放って馬車を下りた。

見上げて星座を確認すると夜中は回っているようだ。

「おい、もう閉めるぞ、入りたいやつは入れ!」門番が勝手口で指示をしている。
リリアは急いで扉をくぐった。
十名程度の兵士が城内でランプを手に立っている。
「… 行け…  行け…  行け…」
扉をくぐって来た者を見ては不愛想に指示をだす。
「…よし行け…  …おい、女、待て… 何か証明書見せろ」
門番はリリアが物理系女だと気がつくと声をかけた。
魔法系は通される、以前に丁重な態度になる。高貴な人間、政府関係、高名な冒険者である可能性が高いからだ。弓を所持するハンター風なリリアは止められる。
「………… この街の冒険者か…  行け…」
兵士はリリアのギルド証を確認すると少し苦々しく答えて通行を許可した。
この街の者でなければいちゃもんを付けられ、いかがわしい要求をされたりするらしい。

リリアは無言で歩き去る。どうやら入城者はリリアで最後だったようだ。

「ようし、おまえら通っていいぞ」兵士の声がする。
派手に化粧して薄手の下着姿の女性が数名、香水の香りを残して扉を出て行った。
馬車に残った者相手に商売でもするのだろう。
どうやら今夜は彼女たちの要求で扉が開いたようだ。


リリアはそのままスタスタと雨が降り出しそうな街中をバーに向かっていった。
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