勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【176話】 オレンジの夜

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リリアは宿のベッドですやすやと寝ていた。
お酒が入り、仕事を終えたリラックス感もあり、下着姿でお腹に形だけシーツをかけて寝ている。
暑がりリリアは窓を全開にして寝ている。部屋の熱気は風が抜いてくれて心地よい室内温度。

食堂を解散した後リリアが寝ようとしていたら誰かが扉をノックする。
リリアが扉から顔を覗かせるとブラックだった。
「先輩、ダカットの兄貴を預かりに来たっす」ブラックが言う。
「あぁ… そっか… ちょっと待ってね… まぁ、部屋入れば?」
リリアはホウキを渡そうかと思ったが気まぐれにブラックを部屋に入れた。少しおしゃべりしたかったのかも。

寝る時リリアはダカットを部屋に置かないようにしている。ある時寝姿をそのまま見られている事に気づいて依頼、移動中はブラックに預けたり、ルーダの風ではバーで夜間警備させている。
全裸、下着姿でベッドに寝っ転がるリリアは見られるのが恥ずかしいらしい。リリアでも恥ずかしいと思えることがあるらしい。
「酔っぱらったし、最近ブラックと別行動だったし、すっかり忘れてたよ。気が利いてるわね」リリアは酔って機嫌が良いようだ。
「うっす、見ていてすっかり忘れていると思ったっす」ブラックが目を細めて笑う。
「… 後輩君、あなた頑張ってるみたいね。冒険者仲間でも評判良いみたいだよ」リリアが笑う。
「そうっすか?先輩に見習って自分に出来る事からやるようにしたっす。自分が冒険者として何をするか教わった気がします。フリートでも頑張るっす」ブラックが言う。
「… あなたフリートに戻るの?… … まぁ… 仕方ないことか…」リリア少し驚いた。ブラックがそんな事を考えていたとは。
「今もう少し先の話しっすよ。自分はもう少しルーダリアで色々経験してフリートでも自分なりに何かできる事をやるつもりっす」ダカットは言うと笑った。

「… そっか… 帰っちゃうのか…」
風が強くカーテンが波打った。
「先輩には感謝っす。俺も立派な冒険者になるっす。では、おやすみなさい」
ブラックは頻りに感謝するとホウキを手にさっさと自分の部屋に戻って行った。
リリアは後ろ姿を見おくると、下着姿になってベッドに飛び込んだ。
「あぁ、このシーツの感触が最高!」
そんなことを呟いて3秒後には寝ていた。


リリアは夢を見ていた
夢の中でリリアは幼くなっていた。父さん、母さんがいる。何のお祭りか村でBBQを行う。枯れ葉や枝をくべて火を起こし用意された食材を焙る。香ばしい香り、賑やかな村人達、ガウとメルの笑顔…

「………… ………」
リリアは目を覚ました。BBQの香りが続いていて夢の続き…
「…… ……」
リリアは鼻を動かした…

“え!! うっそ!”
リリアはベッドから飛び起きると急いで装備を着だした。と同時に既に叫んでいた。
「火事!火事よーーーーーーー!皆火事! 火事ーーーーーーー!」
絶叫しながら早業で装備を着ていく。

外では既にだいぶ騒ぎになっていて、焦げた匂いが強く風に乗って部屋に入って来る。
声、音、匂い、これは大事になっているようだ。窓から顔を出すと既に辺りはオレンジ色になっている。
「火事!火事ーーーーーーー!」リリアが叫びながら宿の廊下を駆け抜ける。

リリアが通りに出ると風上で木造に家が焼けている。強風に煽られて瞬く間に火の勢いが増したのだろう。
「早く火を消せ!」「家族を非難させろ」「干し草をどかせ、燃える物を置いておくな」
「ウィルオウェスプが村に入ったぞ!」
どうやら運の悪い事にウィルオウェスプの侵入で干し草か何かに着火したようだ。

「おわ!!」
リリアが近づくと火事の現場からいきなりウィルオウェスプが飛び出して来た。慌てて避ける。青白いローブがリリアの傍を飛び去る。
「リリア、大丈夫ですか?」
呼ばれるので振り向くとコトロが追いついてきた。
「コトロ、皆は?」リリア。
「ネーコ、ラビとピエンは村人と一緒に避難するように伝えました。ブラックは部屋を出たようです。恐らくその辺で消火していると思います」コトロ。
「わかった!火の勢いが凄いよ!消火と避難の手伝い」
「わかりました、とにかくやれることを…」


リリア達は夢中だった。
雨の前の湿った風とは言え、火の手の勢いを増すには十分な勢い。燃えた枯草の塊が舞い、家が焼け落ち、叫び声がする。とても井戸水のリレーでは消化どころではない。
戦争文化独特の間取りで集会所を中心に真っすぐ通路を抜けられないように民家が立っている。消化効率が上がらない。

「わぁ!!ダメ!飛び込んじゃだめよ!」
女性の子供達が家の中にいると言って火事に飛び込もうとする。リリアが必死に止める。
「わかるけど… ダメよ!コトロ止めて! 奥さん今から飛び込んでもダメよ!」
パニックになっているのか女性は凄い力を出す。リリアとコトロで必死に止める。

「奥さん、お子さんっす!」
声を掛けられリリア達は目を丸くした。
いつの間にか大きな影が子供を抱えて立っている。
「ブ、ブラック?? まさか?あの火事の中から?…」
「うっす」と答えて唖然としている母親に子供渡した。そして子供の火傷を治癒している。
「ムチャ過ぎる!ちょ、ちょっとこれ飲んで、早く!大火傷じゃないの!」
リリアが無理やりブラックに体力と気力のポーションを口に含ませる。
「ご馳走さまっす。自分は治癒できるしポーションもまだあるっす。先輩はこの親子をお願いします」
そう言うとブラックはあっと言う間に火事に向かって駆け出した。
「ブラック、止めて!無理だって!」
「まだ通路の奥に残っている人がいるっす!すぐ戻るっす!」叫びながら走っていく。
「リリア、ダメです!リリアには絶対真似できません!ここまで来たら待ちましょう」
ブラックを止めようとするリリアを必死に止めるコトロ。
「火の玉だ!」「まだ村内にいるぞ」「なんとかしなければ」人々の叫び声がして青白い球が流れる様に動いている。

「火元をどうにかしないと」リリアは立ち上がった。


「… ァ… リア…     リリア…」声がする…
「… ぅぅ… コトロ?皆?」
リリアが目を覚ますと覗き込むように顔が並んでいる。全身が痛い、あっちこっちヒリヒリする。
「リリア… これを飲んでください。最後の一本です」コトロがポーションを口に含ませてくれた。
「… どうなったの?どうなってるの?」リリアが聞く。辺りは明るくなりかけているようだ。
「火事は収まりました。村の半分とは言いませんが、かなり焼けました。宿は無事ですが馬車は焼けました」

ポーションが効いてきたのか徐々にリリアの意識がはっきりしだした…
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