勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【164.5話】 リリアはリリス ※昔の話し※

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リリアはリリアスラインと言う名前の略。ミドル・ラストネームはまた別にある。
この大陸ではいわゆるフルネームはよっぽど信用のある相手、一般的には親や家族以外にはなかなか明かさない。
魔法の契約書などに名前を書き込まれてしまうと本人の意思とは関係なく契約を履行させられてしまったり支配を受けてしまうことがあるからだ。
魔法の誓約書は本人直筆である証拠に書類に本人の手を添えて書き込まれないと魔力が発動しないように規定されている等の防止策もあるのだが、悪事を働く人間とは必ず抜け道を作って犯罪を行うものだ。
住民はフルネームを明かさず生活している者がほとんど。

父のガウムドはリリアをリリィと呼んでいたしメルディアはリリアであったが、メルは稀にリリアスと呼ぶことがあり、ウッソ村の人はリリアの正式な名前はリリアスと続く何かと知っていた。


リリアが16歳になろうかという時期。
ウッソ村でリリアは静かな大ブームになっていた。本当に静かな大ブーム。
リリアは成長とともに女性らしくなってきた。青春を迎えた男児たちのリリアに向ける視線が変わってくる。リリアももちろん男女の違いに意識を持ち始める。
リリアは美人!っかどうかは微妙なところ。整った顔立ちで平均点以上ではある。村内にもリリア以上の美人女子はいるだろう、後は好みの問題。
しかし、リリアは活動的で男子とよく遊び回っていたし、何しろ「勇者の子孫」若きシェリフリーダーとして目立つのだ。
村で家事を手伝う他の娘とは明らかに違ったいで立ち、村全体で行う農作業からも別枠扱い。最近急成長中の胸とポニーテールを揺らしながら弓を手に気ままに歩き回っている。
村の同世代の男子たちを意識させてやまない。


「えぇ?あたしと… ミケルが関係を持った?… この前はあたしとロドリゴって言ってなかったっけ?」
リリアは全然身に覚えのない関係について聞かされる。
村内で誰かとそういう関係になったこともないのだがリリアが聞かされただけでも10人近く関係を持っている事になっている。
村の男子からだけではなく、女子と主婦からも噂の的となっている。女子は興味本位、あるいは自分のお気に入りを取られたと敵視するような視線、主婦も「変わり者リリアならやりかねない」と不届き者扱いの視線を送ってくる。
「リリアはこれでも修道女だから、ルール違反してませんけど」リリアは噂を聞かされても意に介している様子はない。
もともと奇異な目で見られながら特別扱いされて育ってきた。リリアはとっては今更な雰囲気。
勝手な噂だがそう言われると思春期の男子の中でも見栄を張るやつも居たりする。
「デイブがリリアと? なぁんだ、俺はそれより前にやってるぞ」とか張り合うような発言をするものが現れる。
リリアの知らないうちに村中の男子と寝たかの様な話しになっている。
「やっぱり勇者の子だなんてとんでもない、あれは魔物リリスの女だよ」
リリアスという名前のせいかそんな呼び名が陰ではやり出した。

「リリアがリリス?」
リリアは改めて魔物リリスについて書物を読んでみた。
ざっくり言うと、極上美人の容姿端麗で性交渉することで相手を魅了、支配し、あるいは骨抜きにして世の中に悪徳を広める一要因となる支配術を持った女性だそうだ。
「フーン… ゎあ… 挿し絵が凄い…」
リリアは挿し絵の凄さに感心している。このページだけなら教会に置いておく書物には相応しくない。


「リリア、あんたちょっとお待ちよ」
リリアが夕方ダックハントから戻ってくると井戸端会議中の主婦につかまった。
ヘルナ、マーヤ、イスナ等小言の好きそうな連中が集まっていてリリアを呼んでいる。
「皆さんにご加護がありますように」
粘るような視線を受けリリアはニコニコと誤魔化してやり過ごそうと足早に…
「ちょいと、呼んでいるんだよ。こっちにおいでって言ってるんだよ」
誤魔化されてくれないようだ…
あまり良い感じではないのが察せるがリリアは足を止めた。

「聞いたよ、あんた村の子を貪ってるんだって?いったいどういうつもりなんだ」
「……… むさぼる?… 農作業をサボってるって事?」リリアが聞き返す。あまり聞きなれない言葉。
「違うよ、あんたマーヤのとこの息子と寝て、エイナさんとこ、ベルの息子とも寝たんだって?」
「聞いただけでも10人以上名前が出てるよ。とんだ阿婆擦れだねぇ、どういうつもりだよ」
「寝るなとは言わないけど節操を守りなよ」
リリアは口をちょっとキュっとして聞いている。
「ヘルナ、子供の噂よ、別にリリアが全員とやりまくってるって決まったわけじゃないよ」
中には少しは話せそうな意見の人もいるが、圧倒的にリリアが見境なく寝取っている意見が多い。
「……… リリアは誰とも寝てませんけど… あたし修道女だし、そんな事してないよ」リリアは淡々と答える。
「たいがいにしなさい。これだけ噂になってるんだよ。無いわけが無い。話半分でも5人はやってるね。別にそれ自体を怒ってはいないよ、誰でもやる事やるさ。あんたは何で大勢とするのかを聞いているんだよ」
「不倫しているわけでもないから勝手にすればいいけど、おかしな事のウチの息子を巻き込まないでくれよ」
「嘘つく必要無いだろう。自分が悪い事していて嘘をつくような事なら最初からやりなさんな」
意見が多数派になれば事実無根も真実。井戸端の民主主義万歳。
「… あたし、干した薬草を取り込まないといけないんだよね。明日も良い日でありますように」
リリアはスタスタと立ち去った…
「あれは魔物の子だねぇ…」
「ウチは嫁には出来ないねぇ、そんなにやりたきゃ街で稼げばいいのさ」
主婦達は怒りとも呆れとも取れないため息をつく。


「ゼフ様、リリアは戻りました」
リリアが教会に戻るとゼフが夕食の用意をしていた。シュエルノ達がリリアを喜んで迎える。
「ゼフ様、煮込みなら後はリリアが作るわ… そこでヘルナおばさん達に話しかけられてねぇ…」リリアは野菜をブチブチと切りながらゼフに言う。
「ヘルナ達がか… さっき教会にも来とったなぁ… 何か言っていたか?」ゼフはギャレー隅にある椅子に腰を下ろす。
「言ってたけどリリアにはちょっとよくわからなかった」リリアが言う。
「そうか… 教会に来て何か言っとったがワシもよくわからんでなぁ…」ゼフは言うと立ち上がって続ける。
「大した用事でもなさそうだったわぃ」
そういうとギャレーから立ち去って行った。


「リリア、また野菜の煮込み?」シュエルノがリリアの傍に来てきく。
「そ、リリアちゃんのスペシャル煮込みよ!」リリア。
「すぺしある?何?」
「特別ってことよ」
「… 毎日野菜のスープか煮込みだよね」
シュエルノが言う。
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