勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【163話】 リリアとギルド・ルーダの風の仕事

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リリアは足を忍ばせ歩く。ドラゴンを起こしてはいけない。
ここはフォート・ランカシムから北に上がった山中にある塔の最上階。
ドラゴンの食べ残しが目の前にある。
リリアはその食べさしに手を伸ばす…

“ガッチャン!”
足元で何かが音を立てた!
「しまった!わぁ!!」
うっかり音を立ててしまったリリアは慌ててバランスを崩して目の前のテーブルに大きく手をついてしまった。
“カランカラン!”
食器類が触れ合う音…

「むぅぅ…」
ドラゴンがゆっくりと目を覚ましてしまった…


二週間程遡ったある日
バー・ルーダの風に所属するヘボ勇者リリアを訪ねてきた人物がいた。名をギュインターと言い遠いが王族の親族に位置する貴族だと名乗った。

「そう、王族と遠い血のつながりなんですね。リリアも遠い勇者の子孫だけど全然それっぽい能力を引き継がなかったわよ。お互い血筋なんて大した保障のないものよね」
自称王族の遠い親族ギュインターの自己紹介の後、リリアはバーカウンターでコーヒーを飲みながら屈託なく以上のように語った。

ギュインターがリリアに依頼するのはドラゴン退治だと言うのだ。
正確にはドラゴン退治のお手伝いをする。
更に正確に言えば、塔のドラゴンを倒すお手伝いをし、塔に監禁されたお姫差を救い出す騎士様のお手伝いをする仕事なのだそうだ。

簡単に詳細を書くと以下の感じ
この大陸には塔に連れ去られたお姫様を王子様がドラゴンを倒して救い出し、恋に落ちて結婚する物語がいくつもある。
伝説の勇者エジンも結婚には至らなかったものの似たような事をやってのけ、良い思いをしていたような記述が残されている。
その他、経緯、経過に大同小異あるものの同じようなストーリーが蔓延っている。
本来は囚われた者が強い者に救い出され、尊敬だの愛情だの掴みどころのない感情が芽生えた結果結ばれるのであるが、こんな伝説があるのだから「ワシの娘と結婚したくば何々を倒してこい」とか言い出すバカ親が現れ、バカ娘にも「私にも白馬に乗った王子様が現れて連れ去ってくれるの」とか「この身を救ってくださる強き者こそ私の配偶者に相応しい者」とか白昼夢を真顔で語る者が出てきたのだが、そんなに都合よく身の安全を保障したコレクトマニアな魔物が誘拐してくれるはずもなく、誘拐された先の環境が快適な暮らしとの保証もなく、常識からいってそんな物騒な事件に一人で乗り込んでいって魔物をぶっ倒すようなもの好きも居るわけなく…
思案した挙句「ドラゴンに囚われたお姫様と救い出す王子様を演出して結婚の運びとしよう」とどこかの誰かが自演して結婚させたのがブームになって偉い人の娘と誰かが結婚する際の慣例というか儀式化したものを時々やるようになったのだ。
ギュインターは愛娘のためにそのドラゴンに囲われた姫と救い出す王子様演出のお手伝いを勇者リリアに頼みに来た。

「… ふーん… それって一時期ブームだったみたいよね… 未だにそんなとぼけた妄想を抱いている人っているのねぇ… 慣例的に王族同士の結婚式前にやるって聞いてたけどすごい資金なんでしょ?ギュインターさんも大変ねぇ、まぁ、仕事になるならリリアちゃんが引き受けるわよ」リリアはコクコクと頷いている。

「ギュインターさん、失礼ですが何故リリアに依頼なのですか?」コトロが不思議がって聞く。
当然だ、普段は国を挙げてのイベントで国が全部取り仕切るのだ。たまに王の親族や貴族が真似るが、たいていは国がらみかイベント企画ギルドが行う。
吹けば飛ぶような小ギルドの無名冒険者リリアに頼みにくるだなんて…
何でリリアに頼むのだ?… 当然の質問…

「今回は国王様に申し出たのだが… まぁ色々あった結果独力で行う事となり… いや、遠くあっても親族は親族なので国が所有するタワー・オブ・エリフテンの使用は快諾をいただいているのだが… 国もここのところ紛争と戦争が続いておるようで… ここ二年ばかり穀倉地帯の魔物達が… ルーダ港の貿易も盛んになってきたが設備等しと拡張工事で… (長いので省略) まぁ、今回は娘もこじんまりとした規模の結婚を望んでいるようなので… 親としては… (長いので省略) それで今回王国は人を動かせないが、国に所属するが暇している、ちょっと強い女を紹介すると言われてリリア殿に依頼に…」

“うゎ、空気貴族が体よく国から空気勇者を紹介されて追い返された的な話しなんだ…”コトロは思う。
「ドラゴン退治の演出とこじんまりがミスマッチに思えるけど… 何だか面白そうなのでやるわよ」リリアは自信満々のようだ。

で、“ガッチャン!”「しまった!わぁ!!」の場面に戻って来る… 前に今までの流れ。


今回のコアメンバーはパーティーリーダーにコトロ、メンバーはリリア、ネーコ、ラビ…
そう、ルーダの風のメンバー総ぞろいになった。
因みにコトロは
「パーティーリーダーはリリアで良いですよ。ギルマス=リーダーを務めなければいけない規則はないですから… リリアの仕事なのでリリアがやってくだ… いや、やっぱり私がやっておきます」と、安全策を取った。

ギュインター家とリリアのミーティング
「えぇ?男冒険者は連れて行けないの?何でですか?… 男が娘さんに?…万が一?… えっへっへ、それならまずリリアちゃんのお胸に惚れるでしょ… 塔の最上階で数日間身の回りの世話があるから男は除外?… まぁ、はいはぃ…」
今回ブラック等男性冒険者はリストから除外。
「しばらく使われていない塔内の掃除と管理?適当に魔物を各階に置いておいて最上階付近で安全を確保しながらお嬢様とドランゴンのお世話をする?… うーん… 複雑というか… まぁ、あんまり戦闘は無いけど身の回りの世話ね…」
そんな感じで戦闘等より掃除、洗濯、料理が出来るメンバーとしてルーダの風全員出動となった。
「一週間程ならバーを閉めます。こじんまりと言っても貴族ですね。確かに計画に対して規模小さいですが、仕事としては少数精鋭で支払いは悪くないです。来年のギルド存続に向けて我々も野外活動の記録を残すのは良いことですから」
コトロが仕事を引き受けてくれた。

「やっほー!一度ギルドの皆で野外活動したかったんだよねぇ!」リリア。
「ネーコはバーの方がいいニャン。でも、野外活動も大事でお小遣いも上がるならうれしいニャン」ネーコ。
「ラビも一度リリたん達と冒険者っぽい事したかったピョン、楽しみピョン」ラビ。


細かい話は後ほどとして、ルーダの風メンバー、総出陣の仕事がスタート
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