勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【158.5話】 ベッドの上の勇者

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リリアは豪華なベッドの上で目を覚ました。
とても静かで解放された窓から風が入って来る。
「………… ここどこかな?……」
自分の部屋でもなく、宿の一室でもない部屋で目を覚ましたリリアはちょっと混乱した。
「リリア、目を覚ましたのか!」
声がするのでそちらを見るとベッドの傍に椅子がありダカットが置かれている。
「… そっか、ここは伯爵の屋敷のゲストルームね…」リリアが呟く。
リリアは気が付くと飛び起きた。
「あぁ、そうだ… 大丈夫か?ってまだ寝てろよ!」ホウキのダカットが呼びかける。
リリアは立ち眩みを起こしかけてたが、ダカットをひっつかむと杖について必死に鏡の前に立った。

「… 何ともないのね… 夢じゃないよね?リリアどうなったの?」リリアが呟く。
鏡の中の自分は少々青ざめてやつれた感じだが、ケガも無く特に何か変わった感じもない。
「リリア、大丈夫だ。ブラックも伯爵も無事だ。リリアは大怪我して気を失ったけど治癒してもらって二日間眠ってたよ。ブラックも怪我したけどわりと元気だ」ホウキが答える。
「… そう、やっぱりあれは夢でな無いのね…」リリアは再びフラフラとベッドに戻る。
見ると傍のテーブルクロゼットの上に食事が置いてある。
「リリアの目が覚めた時用に食事があるぞ、少し何か食べたらいいよ。食べながら俺が説明してやるよ」ダカットが言う。
「あたし、調子よくないよ、食欲もあんまりないよ…」リリアは呟きながらハムとパンを手にした…
そして「食欲無い」を連発しながらパン、ハム、チーズ、卵料理、トマトと瞬く間に完食した…

「もう食ったのか?… 噛んで無いだろう!早すぎるぞ、まだ全然説明が終わってない」ダカットが驚いている。

あの晩、山側と湖側から合計で12名の侵入者があり、小競り合いになった事、恐らく全員計画的に襲撃して来たこと、湖側の侵入者は全員伯爵が退治し、山側からの侵入者は二名の死亡者を出し、残りは逃亡したことをダカットはリリアに聞かせた。
リリアはベッドに寝っ転がりながら聞くともなく聞いているようだ。
「アスタルテは?」リリアが質問する。
「アスタルテと一人の執事は……… リリアも最後を見ただろ……」
ダカットが言うとリリアは黙って向こうを向いてしまった。

リリアはブシブシと泣いているようだった。
しばらく気まずい時間が流れる… 声のかけようもない…

「でな、リリアが動けなかった間、昨日はブラックが執事たちと村にディルを迎えに行って、昨日からディルもこの屋敷に招待されている。日程を過ぎても戻らなかったら大事になるし、今回の件で伯爵も色々国に聞きたことがあるらしいし… 今朝から話し合いしているよ… 侵入者は国が伯爵退治に賞金を懸けたって言ってたけど、そんな事実は無くて、国王がリリアに討伐を依頼した噂がそうなったんだろう。後は何故討伐の命令が下されているのか、恐らくリリアが元気になったら伯爵自ら城に出向くようになると思う」
ダカットは説明したがリリアはブシブシ泣いていて聞いているかどうか…

「アスタルテ達はどうなったの?…」リリアが聞く。
「昨日の夕方… 湖が見える高台に…」ダカット。
「殺された侵入者は?」リリア。
「それが… わからん… あの後リリアは気を失ったまま屋敷に運ばれ、ブラックも大けがを治癒してもらって、俺は拾われて屋敷に戻って来たけど犠牲者は気が付いたらいつの間にか… 気まずくて誰もどうなったかは聞いていない… 何だか聞かない方が良い気もする…」ダカット。
「あたしね… 恥ずかしいよ… 同じ王国民として… 退治しろって言われて来てみた伯爵はとっても良い人だし、ここの人達って偏見から逃れてここに住み始めたんでしょ?もちろん悪いバンパイアやサキュバスもいっぱいいるだろうけど、それはどの種族でも同じだよね… 今回は私有地に押し入ってきて無差別に殺そうとした側が悪いよね… 村で勉強しただけのリリアにはもう何が何やらわからないよ…」リリアは泣いている。

またしばらくゆっくりとした時間が流れていく。
庭はやたら静かで窓からは野鳥の声以外聞こえない。
「……… なぁ、リリア、勇者なんか辞めたらいいと思うぜ。今は軍も組織され昔の勇者のように一人で万能の力を発揮し、孤軍奮闘しなくて良い時代になったと思うんだ。俺、リリアは勇者として立派だと思うんだ。能力はどうか知らんが… ただ、王国や国民の考える勇者像とは違うと言うか… リリアの考え方は間違っていない、正しい、けどギャップが埋まる事は無いと思う。勇者は単純に強いだけの何も考えない奴にやらせたら良いんだよ。リリアは勇者を辞めて冒険者として自由に仕事と旅行したらとっても良い冒険者になれると思うんだ…」
ダカットはつらつらと語りながらリリアを見るとリリアもジッと聞き入っているようだ。

「…… 何だか… 聞いていられると恥ずかしくなった… まぁ、とにかく… あんまり落ち込むな…」
ダカットはしばらくカーテンが波打ちながら風を運び入れるのを眺めていた。
髪を結ばずローブ姿でベッドに転がるリリアの姿がある。
腰のラインから丸いヒップ、足のラインが流れるようで芸術的に見える。

「リリア、これが終わったらバー・ルーダの風に戻ってコトロと仲直りしたら、中古馬車を買って運送仕事したらどうかな…  俺、このまま故郷に帰るより… もうしばらく………  え?何だ?…」ダカットはリリアが不意に何かを言うので聞き返した。
「………… チキンオムライス… ソースたっぷりで追加… ……z… Zzz…」リリアが何か言っている。


「…………………… 何だよ… 寝言かよ…  寝てるのかよ…  まったく…」

ダカットが黙ると部屋の中は静寂になった。
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