勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【150話】 納屋周辺で

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リリア達はルーダ・コートの街から半日程度離れた場所にある、納屋で寝泊まり中。
川沿いに建てられた納屋で、離れにある畑、水田、川釣り等の道具がしまわれていたりする。収穫時期まで使われず人もあまり寄り付かないような小屋があり、出歩くことが多いリリアはそれらの事情に詳しいのだ。

リリアはコトロと喧嘩して飛び出た日は野営した。
リリアはバー・ルーダの風を飛び出すと「コトロがあんなに石頭だと思わなかった。いつか寝込みを襲ってボウアンドアローを決めてやるわ」と憤慨していたが、買い物してテントを張る頃には案外サバサバしていた。
しかし、テントごときでは不安だ。リリアもブラックも夜通し寝れない。リリアとブラックはここ数日野宿続きでまともに寝ていないのだ。昼間交代でウトウト寝ている。
さすがに体が持たないのでリリアのアイディアで人気のない納屋を借りて昨日は寝泊まりした。久々の爆睡。

リリア、ブラック、ダカットとアメルネスカ、ハイネルの逃避行。
街中ではうっかり名前を呼べないのでリリアがアニー、ハニーとニックネームを付けた。
リリアはブラックと協力しアニーとハニーに着けてあった鉄枷を買い込んできたハンマーとノミで取り外した。
「ふぃー、やっと外れたね。これで奴隷感が全然減る。丸二日かかったね」リリアは満足そう。

「リリアちゃんのジビエ料理よ、街で食べたら豪華料理よ」
鹿を取ってきて納屋の側で火を起こしてニコニコしている。
「…… なぁ、ブラック、このままじゃまずいのわかってるだろ?」
「… うっす…」
ブラックとダカットは何を考えているかわからないリリアを見て心配する。

アニーはリリアより年齢が上のようだ。話を聞くと罪名から想像した通り、貴族の男に言い寄られて、ある日騙し打ちの様に大胆に迫られて拒絶したら、よっぽどプライドに傷がついたのだろう、色々な罪名を着せられて一族捕らえられ自分はオークションにかけられてしまったそうだ。
ハニーは幼いので事情がよくわかっていないようだが、こちらもある日突然家族全員捕らえられ散々な目に合わされて現在に至っている。
ハニーは家族と会いたがっているが案外元気だ。あまり事情が分かっていないのが逆によいのか。
アニーは怯えて事あるごとに「すみません」を連発している。
「大丈夫よ!無問題よ!何とかなるものよ」リリアはケロっとしている。


「なぁ、リリア、何とかならないのはおまえもわかってるだろ」
夜、アニーとハニーが納屋で休むとリリア、ブラック、ダカットの三人でキャンプファイアーを囲んだ。ダカットがリリアに聞く。
「ダカット、ごめんね、一度戻って来ちゃった。ちゃんと故郷に連れて帰るから安心して」リリアが言う。
「いや、そんな事どうでもいいよ。俺、時間に限りがあるわけでもないし。色々味わえてたのしいし… 違うだろ、どうにかなるのかよ!どうにもならないのわかっているだろ」ダカットが言う。
「… あたしね、考えてたの。一人頼れる人を思いついたんだよ。明日はブラックに二人をお願いしてリリアはルーダ・コートの街に行ってくる。ビケットに会ってくる」
リリアは以前Dead or Aliveで知り合った、賞金稼ぎ、情報屋兼探偵業をするビケットの話しをブラックとダカットにした。
「きっと何か協力してくれるわよ。大丈夫、何か色んな知り合いがいて色んな知識があるみたいだよ。何とかならなかったらまた考えればいいわ」
リリアは焼きトマトに塩を振って食べながら言う。
「… ぉ、おう、リリアが信頼できるって言うなら… まぁ、何か進展しそうだな…」ダカットが呟く。
「…… 先輩、焼きトマトうまそうっすね。俺にも作ってくれっす」ブラック。
「何とかなるよ、大丈夫な物よ。二人はブラックに任すとして… ま、逃げたり面倒を起こすことはないだろうけど… ダカットはリリアと一緒に来る?留守番してる?」リリアが聞く。
「… そりゃ、森の掘っ立て小屋にいるよりは街を見たいな。そのベケットも会ってみたいしな」ダカットが言う。
「……… リリアと一緒にいたいんでしょ!それならそう言いなさいよ!そりゃ!あたいに惚れると火傷するよ!」
リリアは突然ニコニコしだすとホウキを掴んで火にかざす。
「わぁ!熱いよ!本当に燃えるよ!」ホウキが慌てている。


「焼きトマトは中がジュワジュワだから気をつけないと火傷するからね。ジュンジュワっよ!あたし、もう寝るから。寝だめしないと不機嫌になって手が付けられなくなるからね。じゃ、おやすみなさい」
リリアは焼きトマトをブラックに渡すとさっさと納屋に入ってしまった。

「リリアは重大さを理解してるのかわからんな。明日、解決法が見つかるといいけど…」ダカット。
「… そうっすね」ブラック。
「… おまえもよくわからんな…」
「… うっす」
「……… それから… 俺、別にリリアに惚れているわけじゃないからな…」
「そうっすね… うっす…」
「焼きトマトうまそうだな… 羨ましいな…」
「うっす」
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