勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【143話】 リリアとライカンスロープと

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リリア達はリラックの部屋でライカンスロープしても対応できるように待機していた。
変身しなければいたって日常、雑談をしながらリラックと部屋で過ごす。
何があっても外に出て被害を出さなければ何とか対策を講じられるのではないか…
とにかく、リリアのアイディアとしてはリラックに今月の満月時期を無事に過ごしてもらう。


「うぅぅ… 体が熱い、何か… 血が…騒ぐ」リラックが息苦しそうに訴えだした。
「リラック、ごめんね、我慢して、家族のためよ」
リリアとブラックは大急ぎでリラックをベッドにロープで固定した。
「あぅぅ… なんだか… うぅぅ… 体が… そ、外に出してくれ、外だ…」
ロープでベッドに大の字に固定されたリラックが唸る。
「我慢して!集中よ!ウェアベアにならないように気合よ!心を無にして平常心。リラックス!邪念を追い払うの!闘魂!熊以外の事を考えて気を散らして!徳を積むのよ!」リリアは必死にリラックをなだめる。
「…… 難しいアドバイスだな…」ホウキが呟いている。
「痛い!痛い痛い!手首が!足首が!」リラックが叫ぶ。
「わ!腫れてる!」
リリアが見ると、リラックの手首足首にロープが食い込んでミチミチと音を立てている。
と言うより体が大きくなりだしたようだ。
「痛い?今ちょっとロープを緩めるよ」
「先輩!もう危険です!ロープを緩めたら危ないっす!」ブラックが止めに入る。

“バキバキ!”
変身しだしたリラックが暴れてベッドが大きな音を立てた。
リリアもブラックも反射的に部屋の隅まで飛び下がる。明らかにとんでもない力だ。
「ううぅぅぅ! うおぉぅおぅぉぉ…」リラックが唸りながら暴れる。
一気に体が変化し始めた。腕が太くなり、胸が厚くなり服のボタンが飛び、耳が生え、体毛が伸び、牙が生えそろい…
トラ?… タイガー?… いや…

リラックはウェアサーベルタイガーになった!見事な半獣半人。

「ちょっと、ウェアベアじゃないじゃない!これトラ?サーベルタイガーよ!話が違う!」リリアはブラックに叫んで指を差す。
「… とにかく、危険っす!」ブラックが返す。
因みにリリアはリラックがずんぐりむっくりさんで、毛が濃く、熊の様な容姿なのでウェアベアになると勝手に思い込んでいただけだ。ウェアベアになると信じ込んでいたのはリリアのかってな思い込み。

「ぐおおおぉぉぉぉぉ!」リラックが叫ぶ。すでに叫ぶと言うより咆哮。
「これ!ベッドがもたないよ! あ!奥さん、フローラさん、部屋に入っちゃだめ!何でもないの!大丈夫!見ない方が良いの!」
リリアは慌てて扉に鍵をかける。
リリアは無意識に銀のダガー“ダックン”を手にしている。ブラックも呪文の準備。見るからに危険。
「朝までベッドがもたないよ!」リリアが言いかけた時だった。
“ドバキ!”
破壊音が響き一瞬にしてベッドが四散した。トラになったリラックが立っている。
「…………………」
部屋の中は一瞬静寂になった…
圧倒的パワー…こいつやべぇやつだ… リリアは壁に張り付いている。動いたら負け…
部屋の中の大きなシルエット… 目が輝いている…
「家の中か?何かあったぞ!」外で人が騒いでいる声が遠く聞こえる…

「ぉぐぇ!!」リリアは変な声をだした!
正気を失ったリラックがリリアに襲い掛かったのだ。凄いスピード、凄いパワー。
「肉!!ぐがぁぁぁぁぁ!」
押さえつけるリラックと必死に抵抗するリリアの取っ組み合いが始まった。
「ちょ!やめて!!痛い!爪!!いやぁ!!助けて!やめて!!」
「ごあぁぁ! 肉!!」
「やめて!夕食肉食べたでしょ!あたし肉じゃない! ぃゃ、肉っちゃあ肉だけど、その類の肉じゃないの!いやぁぁ! ぼふぇ!!」
ブラックの衝撃波でリリアとリラックは吹っ飛ばされた。
「先輩!立って!もうだめっす!退治っす!」
「待って!退治はダメよ!」
「ダメって… 死人がでます、無理っす!」
「いたぃ!辞めて!肉じゃないの!ぃゃ、肉だけど… 助けて!! あ、そんなに強く呪文唱えたら! 助けて欲しいけど、手心加えて!」
「先輩、手加減なんて無理っす!」
「気絶させる程度になんとか!!」
「強すぎるっす!無茶っす!」
リリア達は大乱闘中。リラックはリリアを襲い、格闘し、危なくなるとブラックが呪文で助け、暴れて外に出ようとするリラックを引き留め、引き留めては乱闘になり…
とにかく部屋の中を破壊的に暴れ回っている。

リリア達がぎりぎりの戦いをしている。
リリアとブラックは体力的の限界だが、リラックもさすがに疲れが見えてきた。
「ライカンスロープ対策課だ。扉を開けろ!」
外には兵士達が来てドアをノックしている。
「入ってます!間に合ってます!」リリアが汗と血にまみれて答える。

リラックが姿勢を低くし、リリアを狙っている。
「先輩、次来たら思いっきりぶっ飛ばすっす。これ以上は…」ブラックも息が上がっている。
「リリアのダガーはどっかその辺に転がってるはずよ… まぁ、使わないけど… 捕まえて大人しくさせるわよ…」リリアも肩で息をする。
「窓を割って入るぞ!突入するぞ!」
窓の外では声がする。

「先輩… 次あいつが襲ってきたら、ガンガン行こうぜモードっす。もう十分っす…」
「… まだ何もしてないじゃない… 家の中でネコが家具を壊して、来客を引っ搔いただけよ。飼い犬に手を噛まれただけ… まぁ、ネコだけど… このまま朝まで粘る…」
「… 朝までとても… まだ一時もしてないっす… 次来たら手加減しないっす」
「ブラックの言う通りだ。十分やったよ」ダカットは部屋隅で転がっている。
「… 後輩君、まだまだ公認勇者には遠いわね… 次襲ってきて退治されるなら… こっちから襲ってやるわよ!!」
リリアが自らリラックに突撃するのと、リラックが動き出すのが同時だった。
それと同時に窓が割られ兵士達が部屋に雪崩込んでくる…

「ライカンスロープだぞ!」「いたぞ!押えろ!」「退治しろ!」
リリアとリラックは組み合ったまま、入ってきた兵士達に抑え込まれる。
「待って!!皆お願い!まだ悪い事してないの!殺さないで!退治しないで!」
リリアは人だかりの中で叫んでいる。
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