勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【143.5話】 亜人の聖地

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「雨も上がったし、快晴になってきた。よかったねリズ」
リザードマン男がリザードマンの女に話しかける。リザードマンの冒険者カップルがある村に今到着したところだ。
ここはルーダリア王国内にある村。
観光客で賑わう、っと言ったら大げさになるが、亜人の聖地として知られる村。
亜人の聖地と呼ばれる教会があり、亜人を中心に観光の一つとなっている。
亜人の聖地として知られるが少々長い名称なので、古代語の慈悲という意味の言葉から“カッサ村”、“カッサ教会”と呼ばれることが多い。
本当の村の名前等ここでは大して意味のない事…

「お!獣人饅頭って売ってるぜ」
村に到着して、教会傍の屋台を見てリザードマンが言う。
「リチャードは食べる事ばっかりね、それより早く教会に!ねぇ、あそこ案内の女の子が何か説明してるみたいよ」
女性が男性の手を引いた。


「… ですから、この像は男性の若かりし頃、獣人に変身した時の像です」
可愛らしいウサ耳の女性が教会の前に建てられた銅像の前で数人の観光客に案内をしている。カップルは客の傍に並んだ。
「この村の当時の村長の記録や村人の言い伝えた話を記録した書物が教会に保管され、後ほど教会の礼拝堂で一部がご覧になれます。記録によると男性は野山で怪我した際にライカン病を患い、1ヶ月ほどで発症、本人も気が付かないままライカンスロープ化して満月の夜にはウェアサーベルタイガーとなっていたそうです。今でも人々の生活に脅威を与えるライカンスロープは退治の対象となっていますが、当時は今より問答無用の扱いでしたので… 満月の夜な夜な残虐非道の限りを尽くしていたこのライカンスロープも… 村に被害をもたらしていたライカンスロープに村人と国が… しかし、男性冒険者のお供とホウキの妖精を連れた当時のルーダリア公認女性勇者が… 国の兵士に殺されそうになるライカンスロープを必死に女性勇者がかばったことにより… この男性ライカンスロープは一命をとりとめ…」
ウサ耳さんがにこやかに説明を続ける。
「話に聞いたとおりね」リザードマンの女性が彼氏に囁く。

「必死に兵士を説得しライカンスロープの命を助けた女性勇者はその後、家族と村と相談し、教会に銀の枷を寄贈し、ライカンスロープだった男性は毎月、変身する夜は教会の一室で枷に繋がれて過ごす事で家族と離れ離れになることなく過ごしました」
「繋がれるって酷くない?」聞いていた客の一人が言う。
「そうですね… しかし、治療法もなく、現在でも駆除対象になっています。本人で制御出来ない以上はこのような方法を取らざるを得なかったと言うほかないですね。しかし、今のような意見もあり、後に教会が壊れない丈夫な一室を用意し、そこに入ると言う方法にしました。今でもその部屋使われています。後にこの話が広がってライカンスロープを自覚する者が相談に現れたり、自らこの村に移り住むようになって、現在では獣人、亜人等の権利の聖地として有名になりました」
ウサ耳さんの説明を聞きながらカップルも頷く。カップルも亜人としてこの教会を訪れるのが目的で来たのだ。見まわすと亜人の観光客が目に付く。
「当時の勇者、勇者リリアの記録は少なく… 説によると弓一つで砦を救った、男を貪るリリス族の女性であった、サキュバス化した勇者であった、戦場では泣いて逃亡する弱者であった等、色々な説がありますが、フリート帝国では、勇者リリアがマンティコアとドラゴンリザードを退治したと確かな記述があり… 現在でも歴史家の間では賛否両論の勇者のようですが… しかし、私達亜人の中では亜人の権利を守ってくれた人物であり… それでは皆さん、教会の見学がまだのかたは教会にご案内いたしますが何かご質問はございますか?」
ウサ耳さんが丁寧に挨拶する。
「この像は何でこんなポーズなんですか?」リザードマン男性が声を上げた。

見上げると像はウェアサーベルタイガーが半身に立って両腕を肩まで上げているポーズ。

「このポーズですが、直立ではウェアサーベルタイガーとして恰好がつかなかったのでしょう。一見するとファイティングポーズとも見てとれますが、爪が隠されていてとても穏やかな表情をしております」
「… なるほど」
見上げると確かに、とても温和な表情をしている。
「ポーズとのアンバランスさもあり、これも像が有名なポイントでもあります。さぁ、質問が無ければ移動しましょう」
人がゾロゾロと動き出す。


“リラック・ヨフ・ベンダー  658~721”
「ルーダリア王国史上最初の天寿を全うしたライカンスロープ」
日差しを受け台座には刻印が光る
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