勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【140.5話】 リリアとドラゴンのゴン

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「見えたね、ソレドの村だね」
森の木々が途切れて前方が丘陵地帯となり、なだらかな下り坂になっている。
道が這いソレドの村が見えて来た。
リリアはのんびりと徒歩で移動中。村から村の距離が短く、リリアは特に急ぐ用事の無い時はここを徒歩で移動する事が多い。
リリアと一緒にいるのは森の妖精ティアとミア。掌を一回り大きくした体。美しい羽根、均整の取れた体系、くすぐるような声、まさに妖精の王道といったタイプの妖精。
ソレドの森地帯は川があり、草原があり、豊かで恵みも多い。リリアが森を通ると木霊もちょくちょく見かける。
リリアは自然の恵みを受けるハンターだが、幼い頃から自然と正しく付き合ってきた。僅かだが森の恵みの恩恵を受けている。上手く表現できないが、摂理の中で自然と正しく付き合ってきた証といったところか。
それは森の妖精たちに分かるらしい。
この一帯は自然が豊かでリリアは移動がてら道を外れて質の良い薬草を採取することがある。滅多に自ら人間に話しかけない妖精だが、ふとしたきっかけでリリアは妖精と仲良くなった。
リリアがソレドの森を通るとどこからともなくやってきて、森を抜けるまでおしゃべりしてくれる。
「今日は森の外れまで来るんだね」リリアは妖精達に話しかける。
「もう少し先までいけるのよ」ティア。
「村まで行った事あるの?」リリアが聞く。
「近くまではあるわよ。何しているか、どんな場所か気になるし」ティア。
「見つかると厄介だから普段はいかないけど」ミア。
リリアは妖精二人と歩いて行く。
リリアが話しかけると答えるが、妙な間が空くことがある。聞くとお互いは黙って意思の疎通ができるそうだ。発話は人間用だとか。

「危ないから森に戻るわね」
「リリアまたね。また歩いて森を通ってね」
「はいはい、トンビにさらわれないようにね」リリア。
「あら!あの子達、とっても良い子達よ」
ティアとミアは丘の中間くらいまで来るとリリアに挨拶をして森に戻っていった。


「お!何やら村人が騒いている…」
リリアが村に近づくとキャラバンのサイトに人だかりがしているのが見える。
「たぶん、移動の芸人団かな?出店が出て焼きトウモロコシが食べれるパターンね」リリアは村に向かって足を早める。焼きトウモロコシを食べるぞ!

「わお!あたし、コドモドラゴン以外のドラゴンをを初めて間近に見た!」
リリアが村のキャンプサイトに到着すると、移動芸人団でも出店でも焼きトウモロコシでもなかった。
荷馬車に紛れてドラゴンが一匹泊まっている。
どうやらドラゴンは怪我を負っているようだ。ドラゴンライダーである乗り手が世話をしている。村人が珍しがって集まっている。子供達は大騒ぎ、大喜びだ。リリアだってテンションが上がる。
ドラゴンの話し、伝説はよく聞く、本の挿し絵も見る、「昨日ドラゴンが飛んでいるのをみた」「あの峰にはドラゴンが住んでいるらしい」、よくドラゴンの話しを耳にするが実際には希少で間近でお目にかかるのは滅多にない。それが村に停泊中。
村人も商人も通りすがりの冒険者も珍しがって見に来ている。
体だけでも馬車二台分はあろうか、それに長い首、さらに長い尻尾、立派な羽根がある。大きい!ライダーが怪我の治療をしているようだ。左後ろ脚の上に大きな裂傷が見えた。
リリアは感動しながらドラゴンを眺めていたが、とりあえず宿を取りにその場を離れた。

「やっば!!寝過ごしちゃった!」
ベッドから飛び起きたリリア、急いでキャンプサイトに飛び出す。宿に入って少し休憩するはずが寝過ごしてしまったのだ。
ドラゴンは出発してしまっただろうか?リリアは大慌て!
果たして!
ドラゴンは居ました。明日まではお泊りのご様子。もう日没近い時間。人だかりも無くなり落ち着いている。


「これ、何ドラゴンっていうのかしら?鉄みたいな鱗でかっこいい!」リリアは独り言を言いながらドラゴンを眺める。ボディを一回り見渡し、顔を眺める。ドラゴンはどうやら寝ているようだが…
「俺はアンバードラゴンだ」ドラゴンが目を開いて話した。
「ぉわ!… びっくりしたぁ!寝てるのかと思ってた…」リリア。
「寝ていたが… さっきからおまえが頻りに独り言言うので起こされた。俺はアンバードラゴンだ」ドラゴンが言う。
「なるほど、名前の通りね、かっこいいボディよね」
リリアがドラゴンをしげしげと眺める、夕方のオレンジ色に染まっていることもあるが、鈍く光る鱗は赤茶けた、錆たような模様が入り重厚にして趣がある。
「ねぇ、鱗触ってみても良い?」リリアは鱗をナデナデ。
「人間どもは皆勝手に触ってくるが…あれはいかん… 落ち着かんし失礼だ。お互いいきなりベタベタ触られたら嫌なくせに、相手がドラゴンとなると勝手に触ってくるのだ。失礼の極みだ。その点おまえは感心だな。許可を得てから触れる。まぁ、許可を出す前にすでに触れていたからあまり意味ないようだが、少しは感心させられる」ドラゴンは喉をグルグル鳴らす。
「まぁね、リリアはちゃんってば、こう見えてもお行儀良いからね。よく挨拶代わりにっていうけど、そういうの嫌いなの、ちゃんと名乗ってから右ストレートをお見舞いよ。名前あるの?何で怪我したの?」
「名前はゴンだ… 乗り手が幼い時にドラゴンだからゴンと言い出して… それ以来ゴンだ。今日の傷はグリフィンとの空中戦だ… え?おまえ俺を見下しているな、俺は勝ったよ」
ゴン… ポチみたいな乗りの名前だが、これ程のドラゴンの名前となるとそれっぽく聞こえる。悠然としていて自分の名前がポチ的であるとかどうでも良いことらしい。
さすがドラゴン…
「ねぇ、記念に鱗ちょうだいよ」おねだりリリア。
「記念?売るつもりだろ。皆で鱗ばっかり欲しがりやがる。こっちは抜かれると痛いんだ。おまえ尻の毛を欲しがられて抜かせてやるか?やらないだろう、痛くていやだろう」ゴンは悠然としいて、そう説明されるともっともらしく思える。
「飼い主?知らん、その辺にいるだろう。俺はマネージャーじゃないからいちいち細かい動向までは知らん。トイレに行くとか飯食ってくるとか、女の子とイチャイチャしてくるとか、いちいち報告されたって困る。勝手にどうぞだ。しかも飼い主じゃないぞ。人間はドラゴンが人に跨がれているとまるで主従関係が成立しているような物の言い方をする。見下しているのか?よく考えろ、能力的にもドラゴンが人間に従う理由がないだろう。乗り手か?… 幼馴染だ、俺は誰の命令も聞かないが幼馴染の頼み事には素直に応じるたちなんだ」
ドラゴンは同じ文言を繰り返すのが鬱陶しそうに片目でキョロキョロとリリアを見ている。

疲れて眠たそうだし、傷も痛そうだしリリアは少し会話をして別れた。


次の日の朝
朝起きて何気なく窓からサイトを見るとドラゴンがいない。出発してしまったのか?
リリアは急いで外に出た。見ると少し村外れにドラゴンと乗り手がいる。
正に出発するところだろう。
「待って!!」
リリアはゴン達に向かって走り出した。せっかくなのでちょっと乗っけてもらいたい!
リリアのスーパーダッシュ。Bボタンダッシュ!よっぽど乗せてもらいたいようだ。
ダッシュするリリアの目の前でドラゴンがライダーを乗せて立ち上がる。
ゴンは鉄の兜と朱に染まった手綱を装備されている。翼を広げた大きなシルエットは雄大で幻想的。リリアは走りながら声を出すのも忘れ見とれていた。

ドラゴンは一度体制を低くすると、地面を蹴って伸びやかに翼を羽ばたかせた…

「びゃぅっ!!」
リリアは道の柵まですっとばされてメッチャ頭を打って変な声を上げた。
翼から発生する物凄い風圧にすっ飛ばされて飛んでいったリリア。
考えてみれば当たりまえ。あれだけの巨体が空に上がるのだ。下手に近づいたら飛んでもない事になる。飛んでもないっていうか飛んでしまう。
だから、キャンプサイトから外れたのだ。リリアは理解していなかった。

「いででで…」
リリアが見上げるとゴンは既に上空に…
あっちこっち痛いし、目に砂が入ったし、口の中はジャリジャリしているし…
「一回乗ってみたかったのに…」
リリアは飛び去る影を見送りながら残念がっている。
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