勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【139.5話】 三人パーティー

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おやつ時くらいになっただろうか、リリアとブラックは大鹿一頭を担いで村に向かっていた。村まであと少しの距離。村の囲いが見えている。
村のキャンプサイトには早めに到着した商人のキャラバンが数台止まっていて人がウロウロしている。

「正面切って戦うのは得意だけど、ハンティングは苦手っすね。でもさすが先輩っす。大鹿を仕留めるなんて!」ブラックが大汗をかきながら引きずるように鹿を運ぶ。
「狩りは得意分野だからね。まぁ、リリアちゃんは何でも得意だけどね。弓は魔法と違って予備動作が静かだから狩り向きよね。でも、ブラックがいなかったら運べないからこれほど大物は獲ってなかったよ」リリアも大汗をかいている。
「………」ダカットは逆さにリリアの背中に担がれているがこんな場合なので我慢。
「先輩、ちょっと誰かに手押し車でも借りてきます。さすがにフラフラっす」
ブラックでも重かったようだ、村に足早に戻っていく。

そのブラックの後ろ姿を見送りながら鹿を下してリリアも一息。
「やれやれ、ブラックがいるから大物狙ったけど… さすがにこのサイズは大変だった」独り言を言う。
「なぁ、ちょっと俺も下ろしてくれよ… ずっと逆さだよ」
リリアはダカットも下ろしてあげた。水筒の水を口に含むと少しだが涼しさが戻ってくる。
「ホウキを逆さまにすると本人まで逆さまって不便ね。精霊ってもっと都合良いのかと思ったら人間みたいなのね。他の精霊もそうなの?」リリアがダカットに聞く。
「俺は… 精霊なのかな?他の事はわからないけど、逆さまにされると逆さまなんだ。気分が悪くなったりすることはないけど、逆さまなんだよ。見なければ良いだけなんだけど、やっぱり見ちゃうんだな…」ダカットが説明する。
「目をつぶっているって事?」
「うーん… 目とかないからな… うまく説明できないけど… 無になるというか…何て説明したらよいか…」
「理屈じゃないのね… 便利なのか不便なのか… ホウキでいるのがいけないのかな?指輪とかコンパクトな物に宿変えしたら? そうよ!今度誰かに頼んでお引越ししたらいいわよ。リリアも持ち運びに楽よ。町の術士に頼んで上とか下とか、前も後ろも、裏表無い物に引っ越そう」
何故今まで気が付かなかったのだろう。名案のようだ。ホウキは色々面倒なのだ。
「ホウキって重くないけど手がふさがって大変なんだよ。魔法使いですか?魔法お願いしますとか、空飛んでくださいとか、魔女の宅急便お願いとか、何かの物語の読みすぎよね」
「… そうか?なんかリリアも適当に魔女気分を楽しんでいるように見えるけどな… だけど、俺、精霊では無いし、霊木の影響で木に入ったから移れるのかなぁ?俺は故郷に帰れれば良いから、リリアが楽な方法で良いだけだが…」
「いっそ、抜け出して宿らないのが一番便利じゃないの?」
「… うーん… 考えたことあるけど… 出来るのかなぁ?移動とか会話とかどうなるのかなぁ?ちゃんと専門家の意見を聞かないと素人考えは危ないぜ」ダカットは心配する。
「そうねぇ… 単体で行動出来て故郷に帰れればいいけど、移動できなくなったら最悪よね」リリアも心配。
「そうだろ?永遠にその場で動けなくて… そのうちソールイーターとかに食われちまったり、魂の腐ったやつになったり… 想像しただけでぞっとする…」
「大きな町で専門の術士にでも相談するしかないのね」
リリア達が話をしているとブラックが台車を引いて戻って来た。


夜、宿ではリリアの部屋でアルコールミーティング中。
夕食は豪華な鹿肉料理だった。リリアは鹿の角代だけもらって鹿肉は夕食に鹿肉をご馳走してもらうのを約束に村にドネーション。大鹿一頭分のお肉がタダなのだ、結構な価値がある。
「今日は鹿肉料理!いえーい!」
他の冒険者仲間も割安ジビエ料理で勇者リリアとしてはハナタカな思いができた。
その後、リリアの部屋でブラックとダカットとミーティング。食堂ではできない相談だ。
例の村長からの頼み事の話し。

「わかったっす。それは変に協力を求められないっすね。村長とドンテロさん一家との秘密っすね」
一通りの説明を聞いてブラックが頷く。
「そうなのよ、村人の中に犯人がいる場合、色々面倒らしいの。あたしは悪人なんだから捕まえちゃったらいいじゃないって思うけど」リリアが発泡酒を口にする。
「恐らく、捕まえるまでがお互い気まずいっていうか、お互いに疑っておいて犯人は野生獣だった場合とか気まずいっすね。しかも、その食い散らかしているのが猟奇的で危険っすね」ブラックが言う。
「りょうき?てき?何?… とにかく二人で何とかしなければならない状況よ」
「勇者って魔物をバタバタ倒すのが仕事かと思ってたっすけど、色んな仕事があるんですね。フリートの勇者はもっと王道で組織的に大型魔物を倒すっすけど、こんな問題は解決してない印象っす」ブラックは鹿肉のソーセージを食べて感心している。
「ルーダリアの勇者、リリアちゃんってば、庶民派なのよ」
「地道な努力からっすねぇ、感心するっす。でも、協力を頼めないなら二人で毎晩夜通し小屋を見張るわけにもいかないっすよ…」
「それね、誰か冒険者に頼んで見張るとか、知り合いの冒険者を呼んで頼むか…」
「先輩がこの村に長期滞在するのも不自然っすからねぇ… 何人も冒険者が連泊して夜な夜な屋外にいたら目立つっす。犯人に警戒されるっす」
「……… やっぱり、基本的に二人でやるしかないかぁ…」リリアがため息をつく。
「二人、二人って俺も一応いるんだぜ」立てかけてあるダガット。
「……… やっぱり二人でやるしかないかぁ…」ダガットをしげしげと見つめていたリリアが再びため息をつく。
「ひでぇなぁ、頭数じゃないのかよ… まあ、何にもできないけど…」ホウキが言う。
「だって、あなた動けないじゃない、置物、オブジェ、デコレーション。今だって立てかけてたら存在忘れ… て… た… ねぇ!あなた寝なくて良いんだよね?無口なホウキさん!」リリアはホウキを手に取った!
「あ?… あぁぁ… まぁ、無になる感じだけど寝ないな… 疲れることはない…… 何だか嫌な予感しかしない…」リリアに握りしめられてホウキはびっくりしている。
「… 案外名案かも知れないっす」ブラックが頷く…

キャラバンのキャンプサイトが近いリリアの部屋にはお酒を楽しむ賑やかな声が流れ込んできている。
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