勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【137話】 村出身の勇者と村のシェリフと

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リリア達は魔物探索中。お相手はデスナイトとソールイーター。
シェリフ四人とリリア、ブラックの六人一組パーティーだが…
いまいち息が合わない。

シェリフは村の保安官。村と村人を守る仕事。村が魔物に襲われれば集団で自衛する。村人が外で襲われれば当然保護する。が、基本的には自ら道を外れて魔物を探して退治する等は行わない。一対一に強いわけでもない。
「田んぼでスライムが沸いている」「最近何かに畑が荒らさせる」「道で魔物に襲われかけた」と報告があれば、集団で退治に出ていく。
「いたいた!グリズリーだ!」「囲め!まわりこめ!」「皆、せえの!でいくぞ」と数で勝負するのだ。
魔物報告があっても出かけて行っていなければ基本的には探し回ることはなく「いなくなっているな… 巡回の人数を増やして様子見だ」と君子危うきに近寄らずタイプ。

冒険者は違う。
「依頼を受けて魔物討伐!」「ドロップ率高い魔物が沸いているぞ、いくぞ!」「ダンジョンでお宝ゲット」自ら探し出して危険に挑む。
生活するためにはいちいち大勢で動き回っては利益が乏しくなる。一対一に強く、サーチ&デストロイが基本。
冒険者仲間では“へっぽこ巨乳女”扱いのへっぽこ勇者リリアだって、実はかなり個の力は備わっている。まぁ、最低でも今まで生きてきている。


事件の大きさが大きさなので、今回は見つけ次第退治なのだが、はやりリリア達とシェリフ達では考え方が違うのだ。
シェリフ達は基本的に村から、道筋から外れたがらない。
「村と村への通行に支障がなければ様子見で良いじゃん」的。
「今日は夕方まで捜索っぽい事をしたら、明日から人と回数を増やして道筋を巡回したらよい。自分が魔物と出会いませんように」と考えているのが村のシェリフ出身のリリアには手に取るようにわかる。
「村のシェリフだから仕方ないわね」
ウッソ村でも個で働けるのはリリアとアランくらいだった。シェリフはそもそもそれくらいの意識と実力だ。
「こんなんじゃデスナイトは見つけられないわね」
「仕方ないっすよ。見つけられたら確実に仕留めるしかないっす」
リリアとブラックはすごすごとついてくるシェリフ達を時々振り返りながら話す。
振り返って確認していないとすぐ道端に戻っていこうとする。


午後も休憩時になってきた。
シェリフ達と談笑しながら小休止していると
「!… シィ…………」リリアは口元に指を当てて皆の会話を制した。肉感のある形の良い唇。
「……」ブラックも気が付いたようだ。聞き耳を立てる。シェリフ達はキョトンとしている。

「……… 間違いない!行くわよ」
「先輩!さすがっす!行きましょう!」
リリアとブラックは遠くで助けを呼ぶ声に気が付いて駆け出した。シェリフ達も慌ててついてくる。

「人が倒れている!犠牲者よ」
リリア達が声を追って道に出ると既に犠牲者が出ている。奥の林の中で助けを求める声がしている。
「ブラック、治癒して!重症二人、この人とこの人は… とにかく回復してあげて。あたしが魔物を追う」リリアは素早く倒れている人を確認する。
「先輩、俺が魔物を追います。先輩一人じゃ危険っす。先輩が回復を!」ブラックが答える。確かにこのメンバーならブラックが戦う方が良い。
「あたしは治癒できないから!ブラックが治癒よ」
「俺のポーションを分けます。先輩のポーションで最低限回復してください。俺が退治行くっす」
「わかった、何があるかわからないから自分の分のポーションを一本は残して」
ブラックは助けを求めて逃げ回る声のする林の中に入っていく。
「あなた達、誰か他の班に連絡に行って!助けを呼ぶのよ!」リリアが追いついてきたシェリフ達に指示を出す。
「了解だ!」返答。
「待って!ポーションと薬草があるだけ置いて… って、あれ?…」リリアが振り返って呼び止めたが四人全員村に向かって走って行っている…
「ええーーーー!嘘でしょ!」
リリアは思わず叫んだが、シェリフの意識はこんなものだ。大方、全員魔物に立ち向かうより人を呼びに行く方が安全だとで思ったに違いない。

ウッソ村のシェリフだって変わらない。自立行動しているのはリリアとアラン。他は遠巻きに見ている。
「ぼーっとしてないで、あれやってよ!」とリリアが言うとドヤドヤと群れが動く。
「待ってよ!そんな人数いらないでしょ!あっちとこっちに分かれて!」
言うとお互いに顔を見合わせて「どっちが楽かなぁ?」と解散していく程度のだ。

とにかく、あっという間にブラックが一人救援に行き、リリア一人で看護する状況になってしまった。


「しっかり!ポーションよ!ゆっくり飲んで」
リリアは意識のある一人に話しかける。
行商人の一行らしい。倒れている二人の商人は重傷だが意識がある。離れて倒れているのは装備からして、冒険者か護衛者のようだ。無理に応戦して致命傷を負ったのだろう。
「…… 魔物… だ… アンデッドの騎士… 鎌の魔物…」
どうやらデスナイトとソールイーターのようだ。
「わかった… しゃべらないで、仲間が逃げてるのね?」リリアが問いかけると少しだけ林の方向に目をやった。ブラックが追って行った方向だ。
リリアは素早く意識のある二人にポーションを飲ませる。最低限の回復が出来たらブラックの救援に行かなければならない。
「二人とも、苦しいだろうけどなんとかなりそうね。あたし行くから。もし、あそこの護衛さんが目覚めたら… ポーションを… ね…」
リリアはもう一度護衛に近づき確かめる。
護衛の二人は致命傷を負い奇妙な恰好で倒れ、魔法攻撃の痕もある。おそらく…

“見切りをつけて応戦に行くのと、介護に尽くすのとどっちが正解?”
リリアはジレンマの中、少しでもポーションを含ませてみようと一人を抱き起す。
「… ぅっ…」
リリアは小さく唸って元の体勢に戻した。首と胴が離れかけている…
「もう一人…」
リリアはもう一人の護衛を抱き起す。凄い状態で血だまりが出来ている。生死はわからないがリリアが口から少しポーションを流し込む。
「… あぁ… なんだ… だ、だれだ… どうした…」絞り出すように護衛が声をだした。


「…………」
ゼイゼイと息をし、苦し気にあえぐ護衛を見つめながらリリアはかけるべき言葉を探していた。
林の中ではブラックの雄叫びがしている。
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