勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【133話】 ホウキのダガット

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シェスタとリリアに促され、ホウキはつらつらと話し始めた。
「実は… 俺、もともと人間だったんだ…」

もともとホウキさんは、名前をダカットといい、村出身の青年だったらし。
生まれつき病弱だったが村の教会で修学する頃、わずかだか魔力が芽生えたという。
「ちょっと… 恵まれた話しじゃない…」リリアが羨ましがる。
「魔力とは無縁の家系だったから俺も親もびっくりしたよ」ダカットが言う。
村のプリーストに見てもらうとわずかだが確かに少し魔力が育っているし、今後も勉強と訓練次第では魔力が強くなる可能性はあるという。
両親は喜び、教会のファーザーに世話をお願いし、お金を工面して街の魔法学校に入学する事になった。
「わかる!魔法が使えたら人生大逆転だよね。だけど、少しの魔力でも入学できるの?」リリアが話の先を促す。
「学校の魔導士に見てもらって、魔力が成長して入学の水準に達するようなら入学も可能らしい。それにしばらくは街の教会を手伝いながら、プリーストについて勉強する予定だったんだ」
あまり話すのは得意ではないのか、時々言葉を切りながらダカットは話を続ける。
ダカットは一年弱、教会で勉強と練習を重ね、魔力はギリギリ入学合格ライン程度まで増えたらしい。本人も家族も多くは望まなく、治癒が少し使えたら自分の健康を保ち、他人を幸せにできる程度でよかったのだそうだ。
「それで、お金を負担して学校で専門的に魔力を磨くか、教会で修行していくのかで迷って、村に一度帰って親に相談したのさ」
村に帰って相談すると「学校でがんばりなさい!多くの人を幸せにできる魔導士になりなさい」と言われて、生活費を受け取ったらしい。
「良いご両親じゃないの、勉強がんばらないと」リリアとシェスタは話の先を促す。
「… 家にしたら大金で驚いたし… 期待は嬉しいけど…」ダカットは少し声を落とした。
何となく理解できる。まぁ、リリアだって突然僅かな魔力に芽生え、国民を救えるようにと期待されても困惑するだろう。
「でも、俺は絶対に両親に恩返しできる魔法使いになろうと決心して街に戻ることにしたんだよ」ダカットははっきりと言い切った。リリアもシェスタも微笑む。

しかし、である…
村から街への帰り道、強盗に殺され金品を奪われ、ダガットの骸は崖から投棄されてしまった。
崖の下で朽ちたダガットだったが、間近の樹齢三百年を超える霊木の精霊の力により、ダガットは木に宿り、ダガットが宿った木は巡り巡ってホウキの柄に変わり、先ほどリリアに拾われたと言うのだ。
わりかし淡々とダガットは語るがリリアは声を殺して泣いている。シェスタだって涙している。

「ホウキに加工された時はどうにか村に戻れると期待したけど、自分で空を飛べるほどでもないし、誰かに連れて行ってもらえればと期待したけど… 最初は加工してくれたドワーフに話しかけたら、人の念が付いているって廃棄業者に渡され… 拾われたと思ったら隅っこを履く用にと… 何か刷毛を斜めにカットされちゃって…」ダカットが言う。
「いるよね、新品のホウキをコーナー用に斜めにカットしちゃう人… ひどい話だよね」リリアは泣いている。
「斜めにカットしておいて、使い難いとか言ってしまいっぱなしで… 俺、ある程度掃除できて信用がついたら事情を話そうと思ったんだけどしばらく倉庫の隅で忘れられていて… まぁ、それで… その後は捨てられ、拾われ、話しかけ、驚かれ捨てられを繰り返して… 今朝拾ってもらったところだよ」ダカット。
「何で、新品ホウキの毛をいきなり斜めカットしちゃうのかな?残酷だよね。苦労したんだね」リリアは泣いている。
「拾われたのが… リリア?… リリアで良かった。シェスタに見出してもらってよかった。まともな人達は魔か鬼か怨念かと驚くばかりで…」
「うんうん、何かちょっとディスられ感あるけど苦労話が壮大過ぎて、ちっぽけなディスられ問題は据え置きでいいよ…」泣くリリア。シェスタも泣いている。
「…… あの… それで悪いけど…」ダカットが言いかける。
「わかったよ。全てまで言わさない。故郷に帰ろう。連れて帰る。リリアが連れて帰るよ」リリア。
「ほ、ほ、本当かい!!それが本当なら俺、自立して動けるホウキならそこらじゅうを掃き散らかして掃除したくらい嬉しいよ」ダカットが声を震わす。
「ご両親に会いたいでしょ。絶対に合わせてあげる!」リリアがホウキを握る。
「あぁ、それは無理だけど、一緒にお墓に入りたいよ…」ダカットが呟く。
「それではご両親は… あなたホウキになって何年なの?」シェスタが涙声で聞き返す。
「俺、十六歳で殺されて… 七十年近く木に宿っていて、ホウキになって三年目だよ」


「シェスタさん、何かあったのかね?」
金物屋のラドとドリーは向かえで机を出しているシェスタを見て話している。
汗ばむ日差しの中、商業区の一画にはホウキに抱き着き泣き声を上げる変な二人の女の姿がある。
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