勇者の血を継ぐ者

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【126.5話】 先輩後輩とペコとアリスと ※Day2の話し※

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メイレル村Day2の日中

「ペコ姉貴、ココア姉さん、大丈夫っすか?今、治癒するっす」
ジャイアントワスプの群れを掃除したリリア達。何かで刺激したのだろう、不意に大群に襲われて大苦戦した。
混乱するオフェリアをかばってブラックが群れに飛び込んで盾になり、自分とオフェリアに治癒をしながら蹴散らし、次々と襲われるリリア、ペコ、ココアにプロテクションをかけながら、火と旋風の合わせ魔法で追い払い撃退した。
自らも刺されて痛いだろうに、パーティーのピンチを助け作戦上のほころびを補うように働く。
ペコが見るに、冷静、沈着、自己犠牲、高い能力、それでいて「先輩!先輩!」とリリアを慕って、リリアを立てて働いているようだ。
この実力なら圧倒的にリリアより上。リリアよりよっぽど先輩格。読み書きもでき、計算もできる、古い魔法の書もある程度読める。
けっこうな勉強量だが、尋ねると「勇者に憧れて勉強したっす!」と快活に答えるのみ。
単純に「勉強したっす」と簡単に片づけるには大変な努力の量だ。
けっこう凄い事を淡々とやってのけては、リリアを「先輩!」と慕っている。
“この男、いったい何なんだ?”
ブラックの治癒を受けながらペコはジッと観察する。


Day2の夜

食事を終えたリリアは自分の部屋で武器の手入れをしている。
「これだけ植物系の魔物が多いと剣より鎌が必要ね」独り言を言いながら、剣を磨く。
ランタンにかざすと磨き上げた剣が柔らかく輝いている。お手入れ良し!
リリアはペコと相部屋だ。遅めの食事を終えお風呂から上がってきたが、ペコは部屋にいない。特に気にすることでもないが…

「リリア、これから少し飲むわよ、付き合いなさいよ… あなた何しているの?」
リリアが“釜茹でにされてのたうち回るタコのポーズ”の柔軟体操をしていたらペコが部屋に戻って来た。続いてアリスも入ってくる。
「…… とにかく上を着てよ、後輩君もくるから」ペコが言うのだ。アリスの手には発泡酒とジョッキと赤ワインのボトル。
「ブラックが?… 上は着るけど… まだあたし、オランウータンが腸をぶちまけたポーズが残ってるんだけど… まぁ、いいっか…」とにかくリリアは服を着る。

「うっす!失礼します!ブラキオーネ、ブラック入ります」
手におつまみを満載し、お酒も持って部屋にやってきた。起用だ、ビアホールで働けるぞ!
「よし、集まったわね。少しあなたたち二人、話を聞かせないさい」ペコが目に力を込めて笑っている。
「姉貴達と飲み会ですか!いいっすね。とことん付き合いますよ!」
椅子に腰をかけてブラックが笑う。軽装姿の彼は筋肉質で日焼けしてたくましい。
「とりあえず、リリアが乾杯しなよ」ペコが言うと、リリアの音頭で乾杯し飲み会が始まった。
「ねぇ、後輩君、不思議でしかたないんだけど…」ペコが早速話題に入る。アリスは葡萄酒を飲んで、リリアは寝っ転がってポテトを食べている。リリア、足が長い!スタイルは認定級。


ブラックは
フリート帝都から北に上がるとシャントンという町があり、その周辺の村出身だそうだ。
代々町で兵士を務める平民家庭だったが、祖父が若かりし頃怪我を負って兵士を廃業、離れの村周辺に土地を買い農作業を始めたらしい。
もともと体格に恵まれていたブラック、父が剣を教え始めるとめきめきと頭角を現し、一方で代々誰も目覚めなかった魔法の才能も見せ始めた。
これに喜んだ父親は土地を売り、良い身分で上級兵士か衛兵職につけるよう準貴族の身分を買い取り町に移住。父も母も懸命に働いてブラックに文武、魔術力に教育を与えた。
剣、魔法に才能を見せるブラック、帝都立衛兵士官学校に入学直前、両親が事故死。
貴族期間不足の準貴族孤児となり士官学校の入学を取り消され、孤児の王道、夢と希望の冒険者となった。
父親の教え「勇者のように人々を幸に出来るような人間になれ」
母親の教え「真の強さは人に優しい人間であること」
これが座右の銘だそうだ。

数年間冒険者ギルドに所属し、実力をつけるが、フリートでは実力があっても勇者の子孫ではない自分が勇者になるのは不可能と知り、ルーダリアでは最近、村娘が勇者に選ばれたと知り、リリアの噂を聞きながらルーダ・コートの街まで旅してきた。

こんなところらしい

「俺、あの頃はまだまだ鍛えが足りなくて、動転しちまって目の前の両親を救えなかったっすけど、今なら救えるはずっす!」ニコニコしながらお酒を飲んでいる。
「後輩、言ったけどリリアも両親は殺されてるよ。勇者の登竜門ね」リリアもニコニコして川魚の切り身を食べている。
大変な苦労と努力があったのだろう、血筋と才能に恵まれ裕福で長男に両親を任せて冒険者しているペコとアリスには想像しかできない心境のようだ。

「………… わかったけど… ルーダリアだって勇者の血を引いていないと公認勇者にはなれないでしょ。リリア、説明してあげてないの?」ペコとアリスは顔を見合わせる。
「説明したよ。でも目標を持つことは良いことだよ。それに勇者リスペクト=リリアをリスペクトだからしょうがないよ」リリアは言う。
「リリアをリスペクト?全然意味わかんないんだけど… 全部…… 全部ブラックの方が上でしょ。実力的にはブラックの方が勇者たるに相応しいでしょ」ペコは少し言いよどんだが、結局はっきりと言ってのけた。
“わぁ、そんなにはっきり言っちゃうのか”と一瞬アリスの表情。
「勇者は力だけじゃないっす!俺、先輩に会いに来てよかったっす!前向きで一生懸命で勉強になるっす!」バリバリおつまみを食べながらブラック。
「そよ!弓はリリアの方が上だし、確かにあたし魔法はあんまりだけど、勇者としてまもなく一年の実績を迎えるし、ブラックは良いところ見てるわよ。ペコももっと素直にリリアの事認めなさいよ」

「先輩の手伝いはやりがいあるっす!勇者のサポートっす!」
「おっす!後輩!あたし勇者分の給料出ないから時々嫌になってたけど、ちゃんと先輩らしくしないとね!これって勇者の自覚よね!じゃんじゃん勇者活動よ!リリアに振り落とされずについてきなさいよ!おーーーー!」
二人で盛り上がっている。
「リリアに振り落とされる?ブラックの方が八歩くらい先いってるよね。時々発揮する変な発想と正義感には振り落とされるけど… ねぇ、リリアのどこにリスペクトがあるの?」ペコがアリスに声を落として聞く。
「……… 信仰の対象は人それぞれ… 信仰の自由かな…」アリスも答えようもない。

ペコとアリスにはさっぱり理解不能。

「さぁ、皆もう寝るよ!明日もがんばるよ!」
「よっしゃ、明日もガンガンいこうぜ!」
先輩と後輩は盛り上がっているようだ。
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