勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【125話】 鬼畜共

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Day4
昨日、王国からメッセンジャーが村に来て、今日の午後、支援物資を積んだキャラバンがメイレル村に到着するとの連絡があった。

前日に各班長に集まってもらって作戦を立てた。
リリアは朝、ボランティア全員に集まってもらってブリーフィング。
「今日は最寄りの村から支援物資を積んだ荷馬車が到着するわよ。朝一で出るならもう出ている頃ね。今日の午前中は入念にこの街道を掃除。 サンボーン、ガルト、リリアの班は出来るだけ道を進み… この辺でキャラバンと合流。残りは道沿いを徹底掃除よ。道を外れる必要ないからね。賊を防ぐのに周辺は適当に脅威を残すの。村の食料を借りていたけどこれに失敗したら、皆ご飯抜きになるからね。ポーションも消費量上がってるし。失敗できないわよ!賊を寄せ付けないためにも通信は賑やかにやってね! では、今日も皆さんに神のご加護を!」
ポニーテールを揺らしリリアが説明する。背が高く、明るく声の通りがよい。なかなか様になっている。


「いたいたいた!賊よ!こっち!追いかける!4人… 5人… それ以上!」
賊を見つけたリリア、通信を入れて森の中を追いかける。
「こっちってどっちだ!」
「了解、ローズも向かっているから」
「リリア、場所を教えて!一人で深追いは危険よ!」
「タバサ、シエラ-6にも賊よ、追いかけるから」
「リリアよ、こっちも追うからそっちも追って」
「リリア、こっち、そっちってどっちよ!落ち着いて」
リリアは森に逃げ込む賊の後ろ姿に矢を放つ。
「父さん、武器を手にするリリアに力を。母さんリリアにお許しを。神よ、リリアの弓に…」
追っては射かけるが、相手も必死に逃げる、なかなか命中しない。
森の中で賊を夢中になって追いかけるリリア、慌てているせいか通信される皆の声もあまり耳に届いていない。リリアからの通信も要領を得ない。

リリアと3班は予定通り、村の境までキャラバンを護衛に出向いた。
「ここで合流だけど… 荷馬車隊はまだみたいね」
キャラバンは合流地点に到着していなかった。
「同じことだ、このまま合流するまで道を進もうぜ」ガルトとサンボーンが言う。
「そうね、早く合流して、馬車に乗っけてもらおう」リリアが応じる。

「あ!キャラバンが!襲われているぞ」
「大変!人が… 荷物が馬車ごと奪われている」
「全班、緊急!応援と戦闘、シエラ-5でキャラバンが襲われてる。追っ払うわよ」
リリア達が道を進み、峠越えると、窪地でキャラバンが襲われているのが見えた。人が殺され、荷物が奪われていくのが見えた。人の命まで奪って、許しておくものか!…
リリア達全員戦闘に入る。
「ヒール出来る者は怪我人を診て!残りは賊を追って!荷物を奪い返すのよ!」
現場に到着した者から賊と交戦しだした。賊は戦闘もそこそこ、持てる物をもって散り散りに逃げだす。荷物を奪えれば良いのだ。命あっての物種。キャラバンの馬車手、護衛は死傷者多数、修羅場だ。


「くっ… どこ行ったかな?… 許しちゃおけない…」大汗をかき、大きく息をしながらリリアが呟く。森の中、リリアは弓から剣に武器を持ち替える。
「リリア、あなたどこよ?今どの辺なの?」ペコが通信してくる。
“そっか、追いかけるのに夢中になってた。あたしってば、こう見えても足早いんだよね。走ると巨乳がポヨポヨするけど、これはこれでリリアちゃんの特徴よ” 呑気リリア。
「あたし今… えっと…」現場からどれだけ山に入ったかな?ちょっと地図でも…と思った瞬間だった。

“しまった!”一瞬地図に気を取られた。
「ぃッ!ッぎ!」
リリアは腹部と背中から衝撃を受けて地面に倒れた。後ろから賊に刺されたのだ。勢いで賊と一緒に地面に転がった。
「やったか!殺せ!殺せ!」
「こいつ!死ね!」
「待て待て!女か?女だ! 殺すな!」
「生け捕れ!女だ!」
リリアは必死に抵抗するが、刺された腹部が激痛だ。賊どもめ!女だと思ってなめやがって!
「こいつ!すげぇ力だ!」「押さえつけろ」「殺すぞ!女!おとなしくしやがれ!」「擦り切れるまで楽しんでやる!」「仲間がいるはずだ、周りに気をつけろ」
寄ってたかってリリアを抑え込みだした。
「リリア!どこなの!」「先輩!一人は危ないっす!」「位置を知らせろ、リリア」
耳元で色んな情報がリリアの脳みそを突き上げる。
「… やめろ!やめ… っう… ぐぅ… むぐぅ…」
叫び声を上げかけたが口を抑えられた。
「うがああああぁぁぁぁぁぁぁ! こいつ!この女ぁぁ!!」
リリアに馬乗りになった賊が絶叫を上げる。リリアは口を塞いだ男の指に嚙みついたのだ。
こんな連中に弄ばれるわけにはいかない、狂気の抵抗を見せるリリア。
「ぐ!! うぐぅぅぅぅぅ…」
今度は指を嚙みながら叫び声を上げたのはリリアだ。噛みついた相手が反射的に剣を突き立ててきた。リリアの左肩にざっくりと渾身の力で剣を突き立てる。
「待て、殺すな!殺すなよ!」「こいつは上玉だ、殺すな!」
「このクソアマ!俺の指を!!」
「うぐ!!ふぐぅ!! ぐぅふぅ! っう!」
リリアの口の中に広がる鉄の匂い。指ごと食いちぎれ!
「手足を抑えろ!」「こいつ強いぞ!」「ポーション奪ったろ!死ななきゃいい、ぶちのめせ」「幻想薬もあったぞ、しこたま飲ませてやれ!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!! 俺の指がぁぁぁぁ!」男が叫ぶ。
「ィっつ! ぶっぐ!!… うぅぅ…」
仕返しに突き立てた剣に力を込められる。押さえつけられ、殴られ、ぼっこぼこだ。
発狂するような屈辱と、失神するような激痛。だが、失神している場合ではない。こんな連中のオモチャにされるくらいなら…
「ヴィややあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ! たすけてええええぇぇぇぇええええ!」
指を噛みちぎったリリア。噛みちぎられた男とリリアの大絶叫が山に響く。
「やめろろろろおおおおおおおおおおお! たすけてえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「… 聞こえた! リリアの声! こちらアンナ、リリアの声よ、緊急よ… 現在地は… そこから斜面を上がるから、全員来て、応援来て!」イヤリングから声がしている。
「こいつ!手強い! 幻想薬だ!飲ませろ!あるだけ飲ませろ」
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!やめろおおおおおおおおおおおぉぉ! っぐ… ぉぐ…」
押さえつけられ、無理やり幻想薬が口押し込まれていく。これでもかと言わんばかりの量。
血の味と強い薬の味が混ざって胃に押し流されていく…

「…… ぁぅ… ぁ、母さん… 母さん…  なんだか… 温かい… 春…」
とんでもない量だ、とても正気を保てない。
リリアはたちどころに虚脱して虚ろになっていく。
“父さん… 母さん… リリアは…  ど、奴隷に…”
気が遠くなっていく…

「リリア!!」「先輩!!」「いたいた!こっち!」「皆殺しだ!いくぞ!」
リリアは遠のくような意識の中、聞きなれた声をかすかに耳にした。
「あぁ… なんだか… 地面がひんやり…」
リリアは涎を垂らしてひっくり返っていた… 左肩に刺さった剣は地面まで体を貫いている。
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