勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【123.5話】 Day2.5 夜の勇者さん

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「終わったのね、リリア、昨日よりは早かったね、でももう結構な時間よ」
書類を終えてダイニングに来たリリアを班の皆が迎える。
まだ夜も遅い時間ではないが思ったより空いている。やはり、日中の戦闘が疲れて早々と休むメンバーもいるのだろう。サンボーンの班は今夜、夜番なので全員もう休んでいるようだ。
「皆待っててくれたのね。勇者って大変なのね」リリアが食事を手にテーブルに着く。
「… ちょっと待って、温めてあげるよ。せっかくだから温かいの食べなさいよ」ペコが手先に火を灯す。
「温めなおしてくれるの?ありがとう、ペコ大好きよ!ついでにお風呂も沸かしなおして…  あっつっつ!!」リリアが言うと「調子乗んな!」とばかりに手を焼かれた。
「予想以上に魔物が多いね」
「数もですが、大型のもいるっす!」
「雨が降り出してたみたいよ」
「土砂降りだったら明日は休息と待機にしようか」
「残念、小雨だって、天候読みカーマインが言ってわ」

皆、食事は終わったけどリリアを待っていてくれたようだ。
他の班のギルドも混ざり他愛もない会話をする。
「皆、まだおしゃべり?あたし先に寝てるよ。小雨なら明日もフル活動だから、皆も適当にね、おやすみなさい」リリアは先に席を立つ。

「リリアってあんなに早く寝る奴なのか?」
「やっぱり勇者って、あんな真面目な感じなの?」
「昨日の夜が当直班だったし、疲れてるんじゃない?」
「結構、真面目なところあるんだよね。多分部屋で弓の調整とかじゃない?」
リリアの座っていた席が空くとしばらくリリアの話題をしていた。
「そっちの班はどんな感じだよ」
お酒とおつまみを手に雑談が続いて行く。


ペコはそっとドアノブに手をかけて扉を引いた。
“… キッキ…”
雑談もそこそこで宿泊の部屋に戻って来たペコ。今回はリリアと相部屋だ。
オフェリアは同じシルバーソードのメンバーと部屋をとっている。アリスとペコの部屋割り予定だったが、アリスが急遽別の班に移ったので、リリアとペコが相部屋になった。
「リリアと相部屋ぁ?リリア、寝言うるさかったり、歯ぎしりしたら蹴っ飛ばして起こすからね」ペコ。
「ペコこそ、寝坊したら床ジョーズの餌にするからね!」リリア。
いちいちお互い対抗しようとする…

まぁ、それはともかく…

ペコがそっと扉に隙間を作って部屋をうかがうと案の定真っ暗。リリアはもう寝ているようだ。
“やっぱり疲れてるのねぇ“ペコは静かに扉をすり抜けて暗い部屋に足を忍ばせる。
起こしてはいけない…

「………………?…」ペコ。
「………… ん…   …ふっ…  んふ…  …ぅん……」
“……………? リリア?………”
「……… んくっ…   む…ぅ……  ふっ………」
「…………?… リリア?ちょっとあなた具合悪いの?」ペコが声をかける。
「……………………………………………………………………………… なんでもない……」
「いや、あなた具合悪いなら悪いで言いなさいよ。リーダーよ、何かあったら大変よ」
「…………………………………… 大丈夫だって、なんでもないから …」
月明りもなく小雨模様で部屋は暗いが、リリアは布団をかぶっているようだ。具合悪いなら無理させられない。
「リリア、ちょっと具合みるわよ」ペコはパチンとランタンに火を灯した。
「ちょ、いや、いいの、健康!健康よ!大丈夫だったら!ほっといてよ!」リリアが布団を被りなおしている。
「一緒に旅行した仲でしょ。あなたがほっといてって言うときは大丈夫じゃない時よ、わかってるのよ」
「いや、本当の本当にほっといて!!いやぁ!いやだったらぁ!いいの!やめて」
「ほら!隠すことないのよ!皆命がけなのよ、体調悪いのなんて恥ずかしい事でもないの!」
二人で布団の引っ張り合いっこになった。
「ほら、ちゃんと見せなさいよ!」ペコは布団をはぎ取った!ペコはこんな時凄い力を出す。

「…………… ぁ……… そういうこと?…」
ペコは布団を手にびっくりした闘牛士のようになっている。
リリアは真っ赤な顔…
というか上気した表情のあられも無い恰好でコロンっとベッドに寝ている。
「だから元気なんだって!大丈夫って言ってるでしょ!!」リリアは凄い恰好で怒っている。
「……… そ、そうねぇ… お元気で何より… ちゃんとビッチ遊びは封印してるのね…」
ペコは布団をかけてあげなおす。
「私、もうちょっとお酒飲んでるから。夜の勇者さん」ペコはそそくさと部屋を出ていった。

「まったくもう… ランタンくらい消していってよね」
リリアは布団にくるまって冷や汗をかいている。

部屋の中は雨が軒を打つ音が強くなってきたようだ…
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