勇者の血を継ぐ者

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【112.5話】 リリアの内偵調査

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娼館“ムッチ鞭”に入店したリリア、確認する男の姿はロビーにはない。
「ロビーに目標の人物がいなかったら… 恐らく、いないだろう。重要な話しならロビーで立ち話なんて可能性は低い、事務室等に入るはずだ。店長を呼び出して時間稼ぎでもして確認が出来なければ店から出るのを見張ればよい」スティックが説明していた。
“とにかく、少し様子を見てみよう“
リリアはカウンターの前に立つ。緊張する、ドキドキする…
「あの… えっと…」
「いらっしゃいませ、当店のご利用は初めてでしょうか?」
「そ、そうです、あたしこういうお店初めてで…」
「ありがとうございます。当店は初めてご経験される方でも安心できるシステムとなっていて… 当店は女王とM奴隷調教を楽しめるお店で… 男性のお客様が多いですが、もちろん女性でもお遊びいただけまして… お間違いございませんか?… 初めてのお客さまには…」
にこやかに受け付け嬢が説明をする。流れるように説明されるが、緊張しているせいかリリアの頭には全然入ってこない。お尋ね者も大事だが、このお店は違法の本格派だ。
“M奴隷?鞭で調教?女王様? 違法だからけじゃない! これは勇者として放っておけない!”リリアはいよいよ緊張する。
M奴隷のM意味がわからなが、サイズか何かだろう。まず、ルーダリアでは奴隷を扱うのは違法だ。罪人等一部存在しているが、このような店で奴隷を働かせてはいけない。鞭も長さが一定以上であったり、乗馬目的以外の所持、危害を加える目的での所持は違法。
来店したお客を縛り、鞭等で調教し、言葉で辱めて奴隷として調教すると言うのだ!
非人道的行為匂いがプンプンする!
奴隷法違反、奴隷扱い法違反、武器所有及び所持、拘束監禁、人権侵害、その他それに準じる施行法の違反…
違反が石壁で作られている様なお店ではないか!こんなの野放しにはできない!
勇者リリアの目を欺こうったってそうは問屋が卸さない!

その上、この店には女王陛下がおられるというのだ。
「女王様?!まさか誘拐…」一瞬目を丸くするリリア。あわてて冷静を務める。内偵を悟られてはいけない。
「… いかがなさいました?様々プレイに対応しております。誘拐がご趣味でしたら交渉しだいですわ」にこやかに言ってのける受け付け嬢、笑顔の仮面、恐ろしい…
説明されながらプロフィールに目を通す…
女王様のイラストが並ぶ。
“ミレニア女王、ティアラ女王、クイーン・ダーリア、女王セシリア…”
リリアは受け付け嬢をそっとうかがう。こんなにかわいらしい娘が身の毛もよだつような犯罪の片棒を担いで、しかもこんなに平然と、にこやかに…
この娘も調教洗脳されてしまっているのだろうか?いや、精神魔法の効果か?

“リリアはこう見えてもお城に出入りする身分なのよ。国王一族と親族にはミレニア様だの、ティアラ様だの、そんなお名前の王族は存在しない。詐欺だ!詐称だ!王族を語るなら国家侮辱罪だ!国は一切この勇者リリアに何もしてくれない。だけど、国の勇者の肩書をもらい、たまに少しだけ活動費程度をもらっている身、勇者は勇者よ。不正を正し、街の平和を維持し、人類の明るい未来を切り開く仕事なの!絶対にこんな悪は許されない!”
リリアは黙ってプロフィールを眺める。
男性客が一人入店してきて、女王を指名して廊下に消えていった。
「嘘よ!騙されないで!ここにいる女は王族ではないわ!目を覚まして!」
忠告してやりたがここでもめては内偵にならない。リリアは我慢。
男性はカウンターでプロフィールを見るリリアに粘っこい視線を向けてきた。
熱に浮かれたような、夢見るような表情で女王を指名して部屋に消えていく。
あの熱狂的表情とリリアの胸元への視線、やはり洗脳されているとしか思えない。
“決めた!目的からちょっと外れるけど、街中でこんな犯罪行為を見逃しては勇者の恥よ!内偵ついでに悪の絡繰りを暴いてやる!”
リリアは決心。男の件は外で見張っているので大丈夫だろう。変に突っ立っていても怪しまれる。正義の鉄槌を下すのよ!
こういうのって店長が処罰の対象だろうか?
「あの… 店長さんは…」リリアはちょっと言いかけて辞めた。
「店長?… あ、もしかして女王に就職希望の方ですか?」聞き返される。
突拍子もない、怪しまれる恐れがある。
“女王に就職できるのか?”疑問が残るが口に出しては言わない、大人の対応。

“クイーン・ルーダリア始めました”プロフィールにリリアの目が止まった名前。
クイーン・ルーダリア、最高位女王陛下を尊敬してこう呼ぶ場合がある。軍艦の名前にもなっている権威ある呼び名だ。語るにも程がある。
しかも最高位女王陛下は相当なお歳だ、イラストには若く豊満で淫靡な女性のボンデージ姿、絶対に詐称だ。クイーン・ルーダリア様を侮辱させないぞ!本人のことは全然知らないけど、高齢者は大切にするものだ!
「じ、じゃぁ… このクイーン・ルーダリアと会うは」リリア冷静を装うがちょっと声が裏返った。
「ありがとうございます。クイーン・ルーダリアですね。こちらは上級者コース向けの女王様になっておりますが、よろしいでしょうか?… はい、かしこまりました。今なら会員証をおつくり出来ます。スタンプを貯めると割引、無料ハイヒール踏み踏み等色々な特権が…」
よくわからないが安くなるのはお得だ。リリアは会員証を作りスタンプをもらって部屋に通された。
入室前にダガーを預かられた。リリアは一般女性の着るローブ姿だが、念のためにダガーをベルトに付けていた。事故が無いようにと用心棒が店で預かるというのだ。
まぁ、色んな客がいるしそういう物かも知れない。リリアはちょっと不安だが、相手は素人だ素手でもリリアの方が強いだろうと素直に預けた。

「少々お待ちください。準備が整い次第お客様だけの女王様が参ります」
リリアは香水の浴槽に浸かるような部屋で待たされる。
こじんまりしているが、意外に清潔感のある部屋だ。おしゃれでもあり、ギルドで寝泊まりしているリリアの部屋より数段に良い。
「あたしの部屋より良い部屋ねぇ… 本当にこんなのあるのねぇ…」呟くリリア。
三角木馬とか、なんかクルクルと縦回転する物とか、Xになって繋がれるやつとか名前のよくわからないやつとかある。ベッドも大きくてフッカフカ!
「奴隷の印象って想像と違うのね、リリアのベッドより上等じゃない…」
ちょっと羨ましいし、良くわからない変な小道具は珍しくテンションが上がる。
「えっへっへっへ、何だこれ?繋がれるのはわかるけど、シーソーみたいになってる」
Xのやつ。手足を繋ぐのは何かの本で見たことあるし、実物を見てもわかる。
触るとキコキコとシーソーの様に立ったり寝たりするのだ。面白い!

「ガッチャン!」リリアが面白がっていじくり回していたらXになって手足を拘束されてしまった!
“あれ?しまった!マジックアイテムだったのか!”
手足を動かすがびくともしない。リリアが焦っていると部屋の扉が開いて一人の人物が入ってきた。



女王様があらわれた…
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