勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【111話】 クラーケンに撃沈される

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クイーン・ルーダリアの商船撃沈事件から戻ってきたリリア。
そのまま厳戒態勢で宮中まで拉致られた。
物々しい、何だろうか?いぶかしく思っていると例のごとく勇者管理室に呼ばれて室長から長々とお説教と注意。今回は何故怒られるのだろうか?謎に満ち溢れているが、一言言い返すとお昼ご飯過ぎなっても小言が続くだろうから黙ってリリアは聞いている。
今日、管理室はやらたら豪華キャストだな、リリアが思っていると、今回の事件は絶対に他言しない事と入念に言い聞かされた。
リリアがキャプテン・グリアノックから預かった階級章は国から家族に渡されるということで、半ば強制的に持っていかれた。
リリア、ディル、ピエンの三人はかん口令を敷かれた。厳しい口調だったがディルはもともと宮仕えの身だからか、口頭上の注意。何故か一国民のピエンも口頭上だけだ。
が、リリアだけは違った。
「…… え?何?王宮魔導士?… 魔女の誓約書? え?なによ!何するのよ!今の事を魔女印に誓約してもらう?話すと口が裂ける?冗談じゃないわよ!なんでリリアだけこんな目に合わされるの!人権侵害よ!… いやなら勇者辞めろ?辞めても誓約はしてもらう?何なの!別に勇者だからって国から何一つそれらしい事してもらってないよ!勇者なんかこっちから辞めてやるわよ! とにかく誓約しろ? やめてよ!離して!!」
途中からディルとピエンは「君たちはもうよい」と退出させられた。
“信用ならない”とリリアだけ寄ってたかって押さえつけられ無理やり魔女印に誓約させられる。
宮中は黒魔術団以上に狂気をはらんでいる。
「いやぁぁ!言わないからやめてえぇぇ!」
結局無理やり誓約させられたリリア。誓約書にリリアの名前が刻まれる。とんでもない事態だ。
あんまり腹が立つので魔導士をぶちのめしてやろうと殴りかかったが、あっさりと弾きとばされた。気違い集団め!でもリリアでは指一本触れられない。腹いせに、室長が大事そうに飾っている壺をぶん投げる。物に八つ当たりは良くないが、こんな沙汰が許されるか!暴挙だ!横暴だ!職権乱用だ!何か仕返ししてやらないと気が済まない!
壺をぶん投げたら壁に当たる寸前で壺は魔法に救われた。魔法犠牲者リリアと魔法に助けられる壺。
「いいかげんにしろ!」っと管理室からほっぽり出され、「この娘は何をしでかすかわからん、丁重にお引き取り願え」と屈強な兵士達に囲まれながら半ばお城を追い出された。
“何がなにをしでかすかわからん!!”っだ!こっちのセリフだぞ!!
お前らの言動の方がよっぽど予測不能でヒューマニズムに欠ける事甚だしい!
リリアは王宮を後にする。


「リリア、今回は大変でしたね。でも、生還してよかったですよ」コトロが言う。
「もう、リリたん勇者引退するピョン。皆でバーを経営するピョン」
「ネーコ達孤児同士でお店やるニャン」
「私の両親は健在ですけどね」コトロが笑う。
ギルド・ルーダの風に戻ったリリア。バーのカウンターでお茶を飲む。
バーに配られた各情報誌に目を通す。

「マダム・サリマン号、ケープ・ルーダ号の悲劇」「クラーケンが商船を襲撃」
各情報紙は沈没事件一色。何故かサリマンもケープ・ルーダもクラーケンの仕業で沈没したことになっている。
そして、その二隻を失いながらもクイーン・ルーダリアがクラーケンを撃退したことになり、海軍の必要性と海の軍備拡張を訴える論調。世の中狂気尽くし。
何故かピエンの働く情報誌はここ数日発行されていないらしく、街中に出てまで探したが見当たらない。

「これ、噂ではサリマン号は海賊に乗っ取られ、ルーダ号は海軍の誤射で沈められたって聞きますよ」
「海軍はお偉いさんが乗ってたから、海賊との接近戦は避けてサリマン号は見殺しだったらしいニャン」
「ルーダリア号の誤射はケープ・ルーダ号だけじゃなくサリマン号にも直撃したって言われているピョン」
何だなんだ!全部筒抜けじゃないか!
リリアが聞き返すと
「生き残りの船乗りさん言っていた」と声を揃えて言う。
船乗り達には国の事情なんて知ったことではないのだろう。かん口令等出したって、全員監視できるわけでもないし、噂の出どころを探ることも不可能。
リリアの誓約等何の意味もない。無理やり誓約させられてバカバカしい思いしか残らない。
リリアは黙って情報紙を読んでいる。手元には沈没の際に持ち出した救難信号矢が数本残った。


「実際どうだったんですか?」コトロ達がリリアの顔を見る。
「あたしねぇ… ムン… ンン…」魔女の誓約書が効いているリリアはこの事件について話せない。
「……… トラウマですか?リリアはしばらく休んだ方が良いですよ」皆が心配そうにリリアを見る。
「いや、大丈夫だよ、元気なんだけどねぇ」
困った顔をして座るリリアを皆心配そうに見る。
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