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【106話】 ロベルトさんとリリア
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“ドッ”
リリアが床に転げる。剣を掴めなかった!
急いで身を起こして狂人を見ると、すでに剣を両手に握りしめていた。
「ま、待って!それを使われたら後戻りはできなよ!」リリアはダガーに手を伸ばしかけたが思いとどまった。こちらが構えては良くない結果になりかねない。
まぁ、ダガー投げなら当たらないだろうけど…
「… 家族のため… タ―ナ…アーベル…サラ…」
狂気を孕んだ虚ろな表情に一瞬別な感情が見えた瞬間だった。
「おぐ… うぅぅ…」
狂人は自らの心臓に剣を突き立てた!一瞬の出来事。予想もしなかった行動にリリアは茫然。
「タ―ナ… これでおまえは逝ける… ゴブ!」
狂人は何か呟くと大量の血を吐き出し床に崩れ落ちた。
「パッキーーン!」
剣が飛び散り、血が噴き出る… と、同時に傷口から青く輝く何かが流れ出てきた。
「なにこれ?… 走馬灯?…」
目を皿にして茫然とするリリアの周りで青い流れが渦を巻いて何かを映し出していく。
「タ―ナ、僕と結婚しよう… 僕は病気の君も全てを愛している…」
「休みながらいこう!旅も二人なら苦にならないよ…」
「タ―ナ、よくがんばった!名前はアーベル…」
「北の山に変わった薬草が生えているらしい… 極寒だ、装備を整えよう!…」
「タ―ナ!凄いぞ、今度は女の子だ!タ―ナの感が当たった!サラ、家族にようこそ!…」
「西に高名な先生がいるらしい、きっと何か手掛かりが!…」
「アーベル、サラ、旅はたのしいだろ!色々な風習が学べる、家族旅行最高だろ!…」
「タ―ナ、すまないな、連れ回しているようで… でも、成果には近づいている…もう少しだ…」
「東の渓谷に幻の薬草があるらしいんだ…」
「アーベル、サラ、友達が欲しいだろう…すまないな… 母さんが元気なったら、故郷で暮らそう…」
「タ―ナ大丈夫か?旅の疲れか?… 祈祷師に来てもらった… なんでも試そう…」
「村の爺さんの病気は良くなって、感謝されたが… おまえの病気が… 村人に感謝されて良かった?…… あぁ、そうか… そうだな、タ―ナ…」
「タ―ナ、すまない… 無理させたな… ここの集落で休ませてもらおう…」
「タ―ナ… 俺は… 間違った人生を選択し続けてきたのか… そうか、おまえがそう言ってくれるなら…」
「アーベル、サラ、今日は母さんの具合も良い…父さんは薬草を探してくるから、良い子にして待っているんだぞ」
「…………こ、小屋が!! 火事か!!… タ―ナ!アーベル!サラ!!」
驚くリリアの目の前で幻が飛ぶように過ぎていく。
「これが… この人の人生?…」リリアはあっけに取られる。
青い流れは滞り始め、一つの形となって床にとどまった。
見ると狂人は床に倒れ、その傍らに女性と子供達が寄り添っている。
「……… タ―ナ… 子供達よ。俺の、父さんの我がままばかりで… 何一つさせてやれなかった…」
「ロベルト、私とても幸せだったわ。病気の私と結婚してくれて嬉しかった。あなたと続けた旅、見た風景、全てが最高の思い出で、あなたとの人生以外は考えられない」
「お父さん… 色んな街に行けて、山に登って、楽しかった。魔物を倒すお父さんかっこよかった。お父さんとお母さんと毎日馬車に乗り、違う場所に行くのが楽しかった」
「…皆ありがとう。父さんはおまえ達と一緒にいけない。ここでお別れだ… 家族一緒に暮らすのが夢だったが… すまなかった…果たせなかった…」
「ロベルト、今までずっとずっと一緒に暮れせてこれたじゃない。あなた良いお父さんだったわ」
「…… ありがとうタ―ナ。すまないが子供達を頼む…」
「いつかきっと神もあなたの行いをお許しくださるはずよ。私たちは永遠の時間を手に入れたじゃない。子供達と先にいって待っているから、また一緒に暮らしましょう。ロベルト、今まで本当にありがとう、愛してる」
「お父さん、大好き、ありがとう」
「タ―ナアーベル、サラ、心配かけた… ありがとう…」
リリアが我に返ると元に戻っていた。小雨が相変わらず。
「皆さん… ご迷惑をかけた… 謝罪する…」
リリアは慌てて旅人に寄り手を取った。
「ロベルトさん。あたしリリア。ロベルトさんと家族、出来れば犠牲者の名前を教えて。教会に連れて行きたいの。お墓立てるわ」
リリアはロベルトの口元に耳を寄せ、必死に言葉は聞き取ろうとしたが何も聞き取れずロベルトはいってしまった。
「ロベルトさん、お疲れ様でした…」リリアは優しく声をかけた。
ルーダ・コートの街にある一番立派な教会。
墓地を掃除していた新人シスターがファーザーに質問する。
「このお墓は変わっていますね。家の形をしていて、一つのお墓に四人眠っているのですね。こちらのお墓も大きくて、四人眠っているようですけど、理由があるのでしょうね」
「わしがまだ修道夫になりたての頃じゃったか… 女勇者が教会に来てな… 事情があって名前を聞けなかったが、良いお墓を立ててくれと相談に来てな。当時のファーザーが事情を聞き、知恵を絞られてここに祭ったんじゃ」
ファーザーが説明する。
「今度、そのお話を詳しく聞かせてください。ファーザー」
シスターがホウキを手に見つめる先のお墓。
家のお墓には
“夫ロベルト 妻タ―ナ 子アーベル・サラ 『永遠』『家族』
生を受けし日~702”
もう一つの墓には
“ロベルトの兄弟四名 『尊い』『絆』
生を受けし日~702”
日差しが印字に影を作っている。
リリアが床に転げる。剣を掴めなかった!
急いで身を起こして狂人を見ると、すでに剣を両手に握りしめていた。
「ま、待って!それを使われたら後戻りはできなよ!」リリアはダガーに手を伸ばしかけたが思いとどまった。こちらが構えては良くない結果になりかねない。
まぁ、ダガー投げなら当たらないだろうけど…
「… 家族のため… タ―ナ…アーベル…サラ…」
狂気を孕んだ虚ろな表情に一瞬別な感情が見えた瞬間だった。
「おぐ… うぅぅ…」
狂人は自らの心臓に剣を突き立てた!一瞬の出来事。予想もしなかった行動にリリアは茫然。
「タ―ナ… これでおまえは逝ける… ゴブ!」
狂人は何か呟くと大量の血を吐き出し床に崩れ落ちた。
「パッキーーン!」
剣が飛び散り、血が噴き出る… と、同時に傷口から青く輝く何かが流れ出てきた。
「なにこれ?… 走馬灯?…」
目を皿にして茫然とするリリアの周りで青い流れが渦を巻いて何かを映し出していく。
「タ―ナ、僕と結婚しよう… 僕は病気の君も全てを愛している…」
「休みながらいこう!旅も二人なら苦にならないよ…」
「タ―ナ、よくがんばった!名前はアーベル…」
「北の山に変わった薬草が生えているらしい… 極寒だ、装備を整えよう!…」
「タ―ナ!凄いぞ、今度は女の子だ!タ―ナの感が当たった!サラ、家族にようこそ!…」
「西に高名な先生がいるらしい、きっと何か手掛かりが!…」
「アーベル、サラ、旅はたのしいだろ!色々な風習が学べる、家族旅行最高だろ!…」
「タ―ナ、すまないな、連れ回しているようで… でも、成果には近づいている…もう少しだ…」
「東の渓谷に幻の薬草があるらしいんだ…」
「アーベル、サラ、友達が欲しいだろう…すまないな… 母さんが元気なったら、故郷で暮らそう…」
「タ―ナ大丈夫か?旅の疲れか?… 祈祷師に来てもらった… なんでも試そう…」
「村の爺さんの病気は良くなって、感謝されたが… おまえの病気が… 村人に感謝されて良かった?…… あぁ、そうか… そうだな、タ―ナ…」
「タ―ナ、すまない… 無理させたな… ここの集落で休ませてもらおう…」
「タ―ナ… 俺は… 間違った人生を選択し続けてきたのか… そうか、おまえがそう言ってくれるなら…」
「アーベル、サラ、今日は母さんの具合も良い…父さんは薬草を探してくるから、良い子にして待っているんだぞ」
「…………こ、小屋が!! 火事か!!… タ―ナ!アーベル!サラ!!」
驚くリリアの目の前で幻が飛ぶように過ぎていく。
「これが… この人の人生?…」リリアはあっけに取られる。
青い流れは滞り始め、一つの形となって床にとどまった。
見ると狂人は床に倒れ、その傍らに女性と子供達が寄り添っている。
「……… タ―ナ… 子供達よ。俺の、父さんの我がままばかりで… 何一つさせてやれなかった…」
「ロベルト、私とても幸せだったわ。病気の私と結婚してくれて嬉しかった。あなたと続けた旅、見た風景、全てが最高の思い出で、あなたとの人生以外は考えられない」
「お父さん… 色んな街に行けて、山に登って、楽しかった。魔物を倒すお父さんかっこよかった。お父さんとお母さんと毎日馬車に乗り、違う場所に行くのが楽しかった」
「…皆ありがとう。父さんはおまえ達と一緒にいけない。ここでお別れだ… 家族一緒に暮らすのが夢だったが… すまなかった…果たせなかった…」
「ロベルト、今までずっとずっと一緒に暮れせてこれたじゃない。あなた良いお父さんだったわ」
「…… ありがとうタ―ナ。すまないが子供達を頼む…」
「いつかきっと神もあなたの行いをお許しくださるはずよ。私たちは永遠の時間を手に入れたじゃない。子供達と先にいって待っているから、また一緒に暮らしましょう。ロベルト、今まで本当にありがとう、愛してる」
「お父さん、大好き、ありがとう」
「タ―ナアーベル、サラ、心配かけた… ありがとう…」
リリアが我に返ると元に戻っていた。小雨が相変わらず。
「皆さん… ご迷惑をかけた… 謝罪する…」
リリアは慌てて旅人に寄り手を取った。
「ロベルトさん。あたしリリア。ロベルトさんと家族、出来れば犠牲者の名前を教えて。教会に連れて行きたいの。お墓立てるわ」
リリアはロベルトの口元に耳を寄せ、必死に言葉は聞き取ろうとしたが何も聞き取れずロベルトはいってしまった。
「ロベルトさん、お疲れ様でした…」リリアは優しく声をかけた。
ルーダ・コートの街にある一番立派な教会。
墓地を掃除していた新人シスターがファーザーに質問する。
「このお墓は変わっていますね。家の形をしていて、一つのお墓に四人眠っているのですね。こちらのお墓も大きくて、四人眠っているようですけど、理由があるのでしょうね」
「わしがまだ修道夫になりたての頃じゃったか… 女勇者が教会に来てな… 事情があって名前を聞けなかったが、良いお墓を立ててくれと相談に来てな。当時のファーザーが事情を聞き、知恵を絞られてここに祭ったんじゃ」
ファーザーが説明する。
「今度、そのお話を詳しく聞かせてください。ファーザー」
シスターがホウキを手に見つめる先のお墓。
家のお墓には
“夫ロベルト 妻タ―ナ 子アーベル・サラ 『永遠』『家族』
生を受けし日~702”
もう一つの墓には
“ロベルトの兄弟四名 『尊い』『絆』
生を受けし日~702”
日差しが印字に影を作っている。
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