勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【105.5話】 違法パーティ―とリリアと ※少し前の話し※

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リリアは違法パーティーに参加していた。
そう、ルーダリア地方の冒険者が新年の運試しにやるあれ。
この地方ではメジャーな娯楽なので説明不要であろう。


ペコとアリスがバー・ルーダの風にリリアを迎えに来た。
「年が変わって初顔合わせだったわね。今年も皆さんに神のご加護がありますように」
「リリア、準備OKね?皆城門で待ってるはずだから行くわよ」ペコ。
「コトロ達も来たらいいのに、違法パーティーを除けばキャンプだよ」リリアが誘う。
「わざわざ違法なことしてリスクを背負う人の気が知れないです。それに、この時期お店は稼ぎ時です」コトロは断る。

違法パーティーは街や村では出来ない。巡回兵に見つかったら確実に怒られ解散命令が出る。場合によっては罰金が科せられる可能性も高い。
リリアもペコに誘われて最初は反対した。
「え?あたしも参加?… まぁ、面白そうだとは思うけど… あれって皆ですごい事になっちゃって、男女入り乱れてどってんばったんで怪我人が出ることも少なくないから禁止されているんでしょ?あたしってばこう見えても公認勇者だから取り締まる側なんだけど… あ!ペコ、アリス、違法パーティ―法違反で逮捕よ!観念よ!お縄ちょうだい!… いででで」調子に乗っていたらリリアはペコにつねられた。
「大丈夫だよ。ちゃんと準備して人目につかない場所でやれば。冒険者一年目リリアは絶対参加よ。何事も経験よ、大人の階段よ。」アリスが笑う


さて、リリア達8人パーティーは近郊の森にキャンプを張る。
リリア、ペコ、アリス、ポエムの女性四人、ランドル、フェイド、パドル、ラックの男性四人、夜までBBQで盛り上がる。お酒も入り和気あいあい。
「そろそろ始めるぞ」誰からともなく声があがる。
「今回の見張り役はアリスとラックね」
「キャンプファイヤーの火で火傷しないように少し離れよう」

「さぁ、皆準備いいか?」
「何が起こるか分からないぞ、武器を持て!」
「アリス、念のため皆に体力回復持続をかけて」
準備は整った違法パーティ―の始まり。
最初はランドルの仕入れたハルフンテのスクロールを使う。
パルプ…ではない。間違ってはいけない、これはハルフンテのスクロール。
ご存じの通り、何が起こるかわからない呪文をスクロールにした物。
かつて高名な魔導士ハルフンの調査と研究によって発見された呪文で不確定要素が高い物の危険が迫っていても一発逆転の状況打開効果が期待され、かつては用いられていたが、今ではリスクと効果が釣り合わないと廃れ気味の呪文をスクロールにした物。
上級魔法なので獲得には経験とセンスが必要だが、その域に達しても使い道が少ないのでわざわざ習得する人は稀。その代わりスクロールとして必要に応じて唱えられる。
作成には結構エネルギーがかかるのに需要は少ないのでそこそこ値が張るアイテム。

ハルフンテスクロール、何が起こるかわからない呪文。
的確な使用法が無く、今ではすっかりパーティーグッズ。


「さあ!準備は良いか?魔が出るか、神がでるか!」
リリア達は武器を持ち何が起きても良いように身構える。
「わぁ、何が出るの?怖いけど、ドッキドキね」リリアは興奮。
「この感じ…冒険者のたしなみよ」ペコが笑う。
アリスとラックはスクロールの影響の無い場所で待機。不測の事態に備えて効果を確認してから救助したり参加したりする。
「みんな行くぞぉ… ハルフンテ!」
「…… ぉわ!わわ!何かいっぱい沸いてきた!ミミック!ミミックよ!」
「リリア、新年の大捕り物よ!稼ぎ放題よ、じゃんじゃん倒そう!」
「おい、狩れるだけ狩れ!小遣い稼ぎだ!」
「幻覚も混ざってる!本物を見分けろ!」
「あたし、この大物もらう!… いだい!痛い!助けて」
「リリア、欲張り過ぎ!ヘボだから小さいのやりなよ」

「ハァハァ… 結構沸いたね… でも、大儲けじゃない、うっしっし」
「リリア、ラッキーな方だよ、次はわかんないよ」
「じゃ、今度は私のスクロールね」二人目はポエムが唱える。


「……… 何も起きないじゃない?」
「期限切れだったんじゃない?」
「紛い物?」
「………… 何か、森の奥からきたよ… 何?いっぱい来た! え?えぇぇ!!」
詠唱してから少しの間が空いたが、森から何かやってくる。最初は小さかった気配がだんだん大きく近づいてくる。何かが暴走する足音が迫り、地響きが追って来る。
「何か大量に暴走してくる!構えろ!」
「あれ無理でしょ!いっぱい来たよ、凄い勢い!」
「婆さんよ!妖怪ダッシュ婆だ!千人くらい居る!」
「千人?もっといるよ、視界いっぱいダッシュ婆だよ」
「逃げろ!」
「だめだ!凄いダッシュだ!木だ!登ってやり過ごせ、巻き込まれたら命は無いぞ」
「リリア、どこ行くのよ!逃げるのよ! ドロップアイテムが無駄になる?はぁ!命あっての物だねでしょ! リリア!逃げるのよ!!」
全員木によじ登って退避。宝にこだわった強欲リリアはダッシュ婆の波に飲まれていく。
「いやぁ、お宝あああぁぁぁ、せっかく苦労して倒したのにぃぃぃ! ぶげ!こぽ!ほへ!」
リリアを飲み込んだ暴走婆の波は怒涛となって走り過ぎていく。
「あいつはダメだ。今年は犠牲者が出た」誰かが呟く。
「リリア… アホ過ぎたけど、いい娘だったのに…」幹にしがみつくアリスが言う。
「さようなら、キング・オブ・阿呆のリリア」ペコが呟く。
「私、あなたの事、忘れないわ、リリア」アリス。
「あんな強烈なやつ、脳味噌に焼き付いて忘れようもない」ペコが涙ぐむ。
しばらく大地を埋め尽くしていた爆走婆は走り去っていった…

「…… ダッシュしてるの婆さんだけかと思ったら、爺さんも何人かいたよ…」
「リリア!あんた生きてたの?」
散々踏まれてボロボロだがリリアは生き残った。ダッシュ婆に飲まれて生き残ったのはリリアが初めてだ。ある意味伝説を作った勇者リリア。
ドロップアイテムは全て壊れるか流れ去ってしまった。リリアの握った金貨数枚を残して…

「… さぁ、さいご… あ、あたひね…」違法パーティ―の最後はリリアが買ったスクロール。
「治癒したけど大丈夫?リリア」皆心配する。
「自業自得よ、死んで皆に嫌な思いさせないでよね」ペコは心配していない。
「フラフラするけど、健康よ… さ、さぁ最後行くよ… ハルフンテ!」


「………… あれ?あたしどうなった?皆は?」リリアはアリスに介抱されて目が覚めた。
草の上、森の中、夜の闇、アリスと皆がリリアを覗き込んでいる。
「リリア、凄いよ。やっぱり勇者は持ってるよね!」
「… 何だっけ?どうなったの?」
「おまえ凄いな!初参加でとてつもなく恐ろしいものを呼び出すなんて聞いたことないぞ」
「とてつもなく恐ろしいものってなかなかお目に掛かれないんだよ、凄いぞ」
とてつもなく恐ろしいやつか、リリアか、どちらが褒め称えられているのかよく分からない称賛の中、リリアは身を起こす。

「……皆その… 恐ろしいものは見たの?… リリアは全然覚えてないよ…」リリアが聞く。
「そりゃそうさ。恐ろし過ぎて覚えてないだろう」
「恐ろし過ぎて誰も気絶だよ」
「恐ろし過ぎて皆記憶が飛ぶんだぜ」
皆笑いながら口々に言う。
「……アリス達は恐ろしいもの見たの?」
「私達、合図が合ってしばらくは遠くの物陰で待機してるんだよ、見てるわけないじゃない。見てたら今頃全員狼のお腹の中だよ」

「良い物見せてもらった」誰からもなく言う。
「…… そっか…」
リリアはまだキョトンとしている。
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