勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【99話】 谷底のお食事達

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「とりあえずあたしが射るから、皆いい?」
リリアが皆を振り返る。
シャークを倒して進むメンバーはリリア、ディル、ピエン、保険ギルドの人とそのガード。
こう書くといっぱしのパーティーだが、内勤ディル、取材同行のピエン、保険ギルドの人は戦いのプロではない。そのガードも保険ギルドの人の危険は阻止するが、リリアは対象外。

監査の髭、財務官は疲れて、保険ギルドとディルに任せて馬車に戻っていると言う。
“足手まといがいなくなってめでたしね、戦いのプロがいてくれたらそれで良し”
リリアが密かに喜んでいたら、お付きの兵士も髭達の仕事の職務上一緒に馬車に戻らなくてはいけないと言う。
エア勇者リリアは完全に放置プレイ…
「皆と一緒じゃないといけないならディルも馬車に戻ったら?」リリアがディルに言ったら
「国の誰かが見ないといけないので、私が帯同することになりました。兵士達は監査殿達に付き添わなければいけないので、リリア殿が私の安全に責任を持つようにとのお言葉です」
ディルは当然の如くと言った顔で言う。
「………わかったわよ… わかったから、こっから先はリリアが質問する以外は口開かないでくれる?」リリアはカチンときている。


「一匹射るわよ、皆気を付けて」
とにかく、進まなければならない。わだかまりもあるが、集中集中…
距離で30m程度、地上から10mちょっとの高さだろうか。一番でかいのを狙うのも怖いので、中型サイズを狙う。距離と対象物の大きさからいってリリアなら外しようがない。
岩陰から“さっ“と立ち上がり”ぎゅっ“弓を絞り、”びしっ“と矢がシャークに刺さった。
悠然としていたシャークが驚きと痛みで暴れる、他のシャークも驚いて緊張し始めた。
リリア達は岩陰から様子を見ているが全然気がつかない様子。
見ていると、シャーク達が傷ついた一匹を襲い始めた。血の匂いに惹かれて共食いの喧嘩。
「お… このままいけそうだよ…」
シャークがドッテンバッタンしている間に岩場と地形を利用しながら渓谷地形に沿って進む。

「そこにサメの骨があるからね」
地面が起伏して石が転がり岩肌と土混じりの足場で歩き難い。
死んだサメの骨が落ちていて、大ネズミがウロウロしている。死肉を漁って生活しているのだろう。リリア達を窺っているようだ。シャークは下手に手を出さず、岩場を縫うように歩けば抜けられそうだが、岩陰から出る時は足場も悪く緊張する。
「向こう側に横切るわよ」
前方の岩陰にシャークが休んでいるのが見えた。わざわざ射て眠れる巨人を起こすより、反対側を行くべきだろう。
「あたしが向こうにいって、安全確認したら合図するから、一人ひとり渡って来て。骨が転がって、レッドスライムが溜まっているから足元気を付けてね」
リリアは素早くシャークの陰を横切って反対側の岩場へ。ゴツゴツと突き出した岩陰を確認、脅威は無い様だ。

「わぁ!逃げろ!」
ピエン達の岩場で声がするので振り返ったら、皆慌てて岩場で転げている。
先ほど休んでいたシャークが陰から出て来たのだ。シャークの気配に驚いた大ネズミがどこからか一斉に逃げ出したのに驚いたピエン達がパニックなったようだ。
「騒がないで!」リリアは叫びかけたが、声を呑む。騒げないのは自分も同じだ。
ネズミが声を上げて逃げ回り、ピエン達も岩場を転げて、とにかくシャークから逃れよう、リリアの側に来ようと走る。
シャークどもがすぐに騒ぐピエン達に反応した。
「ダメ!騒がないで!皆伏せて!!」
迫るシャークから順に矢を放つ。この距離、あの大きさなら狙う必要もない。
矢は次々刺さるが、お食事に頭いっぱいのシャークは夢中でピエン達に飛び込む。
ピエン、ディルがかいくぐるように逃げてきた。二人共片手に剣。
「早く!狭い場所に隠れて!」リリアが弓を放ちながらアドバイス。
保険ギルドさんが転倒したのを、専属兵士が守ろうと格闘中。プリーストは少し離れた場所で治癒魔法を唱えている。
ビシビシとリリアの矢が届くが、“せっかくのお食事“とサメは底をさらうのに必死。
リリアモデル剣を抜いている暇はない、走りながら片手剣を抜いて保険屋の加勢に入る。
「兵士さん、がんばって!保険屋さん早く!立って!逃げて!」


谷底はにわかに騒がしくなってきた。
サメの群れに走り込むリリア。
抵抗する兵士、サポートのプリースト、コケてる保険屋。
岩場に身を隠したディルとペンを走らせるピエン。

真上からの日光が蠢くサメの陰を濃く映している。
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